衝撃の情報
翌朝、俺達は子供たちを車に乗せて自分たちの町に戻ることにした。この子たちの親がいる中連れて行くなんて、一歩間違えれば誘拐になるかもしれない。
しかし、このまま置き去りにしても後味が悪いし、何より全員親に捨てられた孤児であり、引き取ってくれる人もいない。このままにしては間違いなく死ぬ。そもそも、国も法律も何も機能していない今この子たちを置いて帰るわけにはいかない。
幸い、俺達が乗ってきた車3台はとても大きく、そのうち1台は大きめのキャンピングカーだったので16人全員を載せて帰ることが出来た。
その代わり、チャイルドシートもなしに赤ちゃんが6人も乗っていたのであまりスピードを出すことが出来ず、行きよりも少し時間をかけて俺たちの町に帰ることが出来た。
事情を話していたとはいえ、俺達の速い帰りに皆が驚いていた。
すぐに馬場さん達の村に送らなかったのは、ここで一度千恵美さんと香苗さんに子供たちの健康チェックをしてもらおうと思ったからだ。赤ちゃんについては、きちんと予防接種を受けさせたかった。
道明君と、智明君が少し大きくなったことで空道神社の仲間にお世話をお願いできるようになった茅音さんも加わり、4人で連れ帰った子供たちの健康状態を調べてもらった。若干栄養不足気味ではあったものの、食治療でどうにかなるということだそうだ。
つまり、全員健康状態は良好であった。
しばらくこの町で不足気味の栄養を与え、香苗さんからOKサインが出れば馬場さんの村に送ることが出来る。村の人達も、弘馬君たちと積極的にコミュニケーションを取ることで良好な関係を築き、時間を掛けて少しずつこの子たちに受け入れてもらえるようにしていった。
赤ちゃん6人に至っては、香苗さんから了承を貰い、村の人達に引き取られた。そのうち一人は、村長である馬場さんの息子夫婦が引き取ってくれた。
そうして3ヶ月経ち、この現象が始まってちょうど3年がたった頃には弘馬君以外の子供全員が、馬場さんの村へと移住して新しい家族の所へと引き取られた。引き取り手については、馬場さんが厳しく審査して決まったそうだ。
そして、最後に残った弘馬君は笠島先輩の下に残り、先輩の支えになると言っていた。
「この町の生活には少し慣れたか?」
畑作業の合間で、俺は一緒に作業をしていた弘馬君に声をかけた。
「少しだけ慣れました。この町で生き残っている人は、皆が協力し合っているみたいで本当に良かったです」
「まぁ、非協力的な奴は牛乳と牛肉を提供してくれている牧場の人が引き取ってくれて、その根性を叩き直すと言ってたからな」
「あははは・・・・」
ちなみに、その非協力的な奴等というのは、吸血鬼騒動のあった教会に残り続けていた人たちの事である。
その日は偶然、牧場の人が牛乳と牛肉を届けに来てくれていて、その際にこの町の労働環境と働いている人の状況を話したことがあった。その時に、なかなか働こうとしない人を牧場の経営者がその根性を叩き直すと言って、全員を連れて働かせていると言ったのがきっかけであった。年中無休で重労働の酪農で働かされ、全員が悲鳴を上げているとスタッフさんから聞いた。
「ま、働かない大人がいても迷惑なだけだから別にいいし、何より子供たちの方がよほど積極的だよ」
「でもそれは、笠島さんや武谷さんのお陰だと僕は思います」
「俺?笠島先輩はともかく、なんで俺まで?」
「確かに、笠島さんは本当にすごい人です。40人以上いる赤ちゃんを積極的に面倒見て、誰一人として欠けることなく健康的にしっかりと育て上げています。親を失った僕と同い年くらいの子でも、同じくらい育てて守ってきたんです。その上、この町の立て直しまでしたのですから、あの神社で生活している子達が笠島さんの力になりたいと思うのは当然です」
「やっぱりすごいよ、笠島先輩は」
「でも、笠島さんが言ってました。武谷さんが積極的に動き、この現象の解決の為に行動してくれているからそこ、自分たちも何かしなければいけないと言って動いたのです。つまり、武谷さんが皆の為に行動してくれたから、笠島さんはいろいろと行動を起こすことが出来たのですし、育児だけでなく畑作や養豚や養鶏にも着手することが出来たのですって」
「・・・・・・」
そういう風に言われると、なんだか照れる。
「だから僕も、助けてくれた武谷さんの為にも、皆の中心になって行動してくれている笠島さんの為にも、僕はこの町に残ってその補佐をしたいと思ったのです」
「そうか」
まだ12歳なのに、ここまでハッキリとした自分の意思と、高い志を持っているなんて、先日20歳になったばかりの俺だけど尊敬する。
「武谷さんも、明日また出発されるのですよね」
「ああ」
「すみません。僕達のせいで、余計な時間をかけてしまって」
「いいんだよ。そのお陰で、弘馬君たちを保護することが出来たんだから」
「ありがとうございます」
それから俺と弘馬君は作業を再開し、日が暮れるころには屋敷に帰ることが出来た。夜になっても外を出歩けるようになれたのも、柚羽ちゃんが町全体と残された建物に結界を張ってくれたお陰だ。町全体と言っても、悪霊の巣窟となっている難波地区を除いてだけど。
そしてその日の夜。
夕食を食べ終えて、俺は絵里奈と一緒にお風呂に入った後で宗一さんに呼び出されて彼の部屋へと来ていた。その際、涼と由乃さんと朝香と柚羽ちゃんも一緒に。そのついでに、何故か付いて来た絵里奈も一緒に。
「絵里奈。もう寝る時間だろ」
「パパもいっしょじゃないとやっ!」
「一緒じゃないとやっ、て・・・・」
こんな事なら、今お風呂に入っている華々美と一緒に入れてあげるべきだったと思った。
「まぁまぁ、パパとママが一緒じゃないと絵里奈ちゃんは嫌なんだよね」
「やっ!」
「だってさ。仕方ないよ」
「すみません、宗一さん」
「下の名前で呼んでくれるってことは、ある程度僕のことも受け入れてくれているんだね」
「まぁ・・・・」
本音を言うなら、この町だけで実は佐藤という苗字の人はあと2人いて、馬場さんの村でも5世帯いるのだからいい加減に紛らわしいと思い下の名前で呼ぶことにしたのです。宗一さん本人には内緒。
「それはそうと、霊滅版について重大なことが分かったんだ」
「重大なこと?」
霊滅版関連の重大な話ということで、俺達は皆真剣な顔で宗一さんの話に耳を傾けた。
「瀧倉さんのお爺さんが残してくれたというこの手記と、霊滅版の写真、更にその霊滅版について記載されていたことを事細かく調べてみたんだ。霊滅版は、紀元前2000年ごろにヨーロッパのどこかの国で作られたもので、この世にはびこったあらゆる怨念や未練を断ち切らせるために作られたものらしいんだ。まぁ、それは瀧倉さんのお爺さんが残した手記にも記載されていたけど。ではなぜ、12個もある霊滅版をわざわざそれぞれ別の場所に置いたのか?ヨーロッパ圏内ではなく、東アジアや中東やアフリカ、更には当時まだ未発見とされていたアメリカ大陸に渡ってまで」
それについては、流石に涼のお爺さんの手記には書かれていなかった。位置が関係しているとは書いてあったが、何故わざわざ他所の国に渡ってまで置く必要があったのか?場所が重要だということは知っているけど、ならなぜそんな手間をかけてまで?
「その理由は、ヨーロッパだけでは完全に抑えることが出来ないからだったんだ。自国と周辺諸国にだけ置いても、この広い地球全体から怨念と執着を断ち切らせることが出来なかったからなんだ。まぁ、当時は地球が丸かったなんて知らなかったけど。位置を調べても、霊滅版を自国と周辺諸国だけに設置しても、その効果は完璧な形で発揮されることはなく、今僕達が置かれているこの状況になってしまうのを避けることが出来ないからなんだ」
だからわざわざ、遠い異国の地に行ってまで霊滅版を置く必要があったのだ。それも適当に置くのではなく、地脈や地形なども考慮して決める必要があった。置く場所にもきちんと意味があるのだから。
そして、一つでも壊れると俺達が今起こっているこの現象が起こってしまうという訳だ。それを元に戻すために、俺達は霊滅版を探しに行き、手記に記載されている陣を描くことでこの現象を止めることが出来るのだ。その際に、壊れた霊滅版を陣の中心に置く必要があるらしいが、これは宗一さんが調べて疑問に思ったというのだがまだ詳しい事は分かっていない為ここでは語られなかった。
「それともう一つ。武谷君たちは霊滅版探しに3年も費やしていて、今もまだ見つけられていないだろ」
「はい」
「でも、それで良かったのかもしれないんだ」
「どういうことですか?」
「これも手記には記載されていなかったんだけど、陣を描いて霊滅版の力を引き出すにも実は場所と時間が物凄く重要みたいで、それを無視して決行すると悪い霊だけでなく、守護霊までも全て成仏させてしまうからなんだ」
「「「「「なっ!?」」」」」
つまり、何年の何月何日の何時に陣を描いてこの現象を収めないと、守護霊たちも一緒に成仏させてしまうというのか。
涼のお爺さんの手記では、『守護霊を除く全ての霊』と記載されていたのだが、それは正しい年と日時と場所で行って初めて発揮されることが判明したのだ。
「そして、物凄く偶然ではありますけど、今年の6月22日の午前0時、正確には日にちが変わって23日になるのですが、その日その時間に連勇高校のグラウンドで決行するのが一番いいのが分かったんだ。それ以外の年と時間に発動させても、守護霊も巻き添えにしてしまっていたかもしれないんだ。もしかしたら、今年のこの町に発動させられるように誘導してもらっていたのかもしれない。その誘導している何かに感謝しないとな」
宗一さんの言う通り、もしかしたら俺の守護霊がこの時期に発動できるように誘導してくれたのかもしれない。他の守護霊も巻き込んでは、その守護霊や守ってもらっている人にも申し訳ないからな。
「やはり場所と年と時間も重要だったのですね」
「そうだね。力を発動させても、その時は良くてもその後が大変だからね」
「守護霊を失った人には、どんな災厄が降りかかってくるのか分かりませんし、わたくしも守り切れません」
「病気にかかりやすくなったり、事故に遭って命の危機に瀕することもたくさん起こってしまう。それに、その後に出てきた悪い霊から身を守ることも出来なくなるわ」
4人の話を聞いて、守護霊を巻き添えにしてまで発動させるのは良くないなと思った。
それに、その時は全ての霊が成仏されても姿が見えないだけで、1年後にはまた幽霊たちが出てくる。人間に限らず、動物の霊だって出てくることだってある。守護霊がいなくなると、悪い霊に取り憑かれて災いを招くことだってある。
そんな大事なことを突き止めた宗一さんに涼達が感心してる中、俺は絵里奈のお守をしながらふと思ったことを口にした。
「どうして分かったんですか?宗一さん、陰陽師でも霊媒師でもないのにどうやって?」
「科学的に調べて分かったんだ」
「科学的に?」
「科学的に時期と場所を特定することは可能だよ」
俺の疑問に、すぐに答えた宗一さんはもちろん、涼もそれを肯定した。
「瀧倉さんの言う通りだよ。地脈やらなんやら言っているけど、天文学と地質学、気圧や民俗学やらで特定することは可能だよ」
その後、宗一さんから魔法の呪文のような専門用語が飛び出してきたが、俺も涼も朝香も柚羽ちゃんもチンプンカンプンで正直言って全く理解できなかった。なんだか、頭の中で念仏のようなものが鳴り響いた。
由乃さんはうんうんと頷いてはいるが、目が虚ろになっていてデフォメチックに言うのならグルグル目になっているような気がした。本人曰く、高校までの成績はあまり良くなかったと言っていて、特に数学と科学が大嫌いだと言っていた気がする。
(分かっていたのだが、宗一さんって本当にすごい人だったんだな。スピリチュアルことも、持ち前の知識と科学的根拠で特定してしまうんだから)
本職は歴史学者のはずなのに、本当にすごいなと思った。流石は、若手のエースと言われていただけのことはある。
「そういう訳だから、今年の6月23日の午前0時にこの町の蓮勇高校のグラウンドで行った方が良いです」
「分かりました。でもその前に、霊滅版を回収する必要があります」
「はい。出来るだけ早く、理想としては6月に入る前になんとしても回収する必要があります」
「はい」
残された時間はあと一月しかなく、それまでに霊滅版を回収し、その力を発動させないと次は何時になるのかもわからないし、それ以前にまたここで行われる保証なんてない。
なら俺達に出来ることは一つだけ。
一刻も早く霊滅版を見つけ出し、持ち帰って来月の6月22日から23日に変わる午前0時に力を発動させないといけない。
そう決意を新たに、俺達は明日に備えて眠りに就いた。




