子供の村
霊滅版を買った佐藤宗一の所在が分かったと聞き、俺達は早速佐藤さんと敦子さんを呼んで話を聞いた。
「住所が分かったって、本当ですか!?」
「ああ。コンピューターが無いから、地道にタウンページと住所登録書をインターネットで調べてようやく掴めた」
「この3ヶ月、本当に大変だった・・・・」
2人とも、疲労困憊と言った感じでぐったりしていたし、そんな2人を2歳になる2人の息子が抱き着いて励ましていた。そんな我が子を、敦子さんはギュッと抱きしめて癒されていた。そんな妻を、父親である佐藤さんは羨ましそうに眺めていた。まぁ、男の子ならお母さんの方に甘えるだろうから仕方がない。
「本当に、お疲れ様です」
「あとはゆっくり休みたいところですけど、せっかく奴の居所が分かったんだから早く幹夫君たちに伝えたいから」
目の下に隈を作って、今にも気を失いそうになっているにも拘らず、佐藤さんは改めて姿勢を正して俺達の方を真っすぐ見た。
「それで、霊滅版を買った佐藤宗一は千葉に住んでいることが分かった。場所は―――」
詳しく場所と住所を聞き、メモに書いてしっかりと把握する。せっかく苦労して掴んでくれたのだから、無駄にはできない。
「それにしても、千葉って・・・・・」
「私の出身地である東京の隣の県ではありませんか・・・・・」
以外に近場だったとがっくりする東京出身の由乃さんはもちろん、散々いろんな所へ何時間もかけて行って全て外れだったのに、実はそんなに遠くない所にあったと聞いて俺も脱力するのであった。
「遠い所では、北は北海道、南は鹿児島まで行ったというのに」
「今までの長距離移動が何だったのよ・・・・」
「2年半以上もあんなに苦労して、たくさん準備までして行ってきたのに」
意外とそんなに遠くない所だったと知り、机に突っ伏せて脱力する華々美と涼と美玲。里美なんて、全く気にした素振りも見せずに優雅にお茶を飲んでいた。
「でも、幹夫さん達がボク達の所に来てくれたおかげで、今こうして一緒にいるんだから悪い事ばかりじゃないよ」
「うんうん」
確かに、実際に行ったことで朝香と柚羽ちゃんと出会うことが出来たわけだし、全てが悪い事ばかりではなかった。
「それに、鹿児島に行ったことで宗一さんとも会えて、こうして霊滅版を買った件の佐藤宗一の居所を調べてもらうことが出来たんだから、悪い事ばかりじゃないよ」
「わたくしも、家と縁を切ることになってしまいましたが、武谷さん達に付いて来れたことで広い世界を知れました」
朝香と柚羽ちゃんも、俺達と会うことが出来たので何も悪い事はなかったと嬉しそうに言ってくれた。柚羽ちゃんの表情は相変わらず無だが、嬉しそうにしているのだけは伝わった。
「どうするの、幹夫?」
「もちろん行くさ。俺と華々美と涼と美玲、それに里美と由乃さんと朝香で明日出発する」
「待ってください、わたくしも行きます」
「いや、しかし」
ただでさえ、涼と由乃さんと朝香の3人の過剰戦力があるのだから、その上柚羽ちゃんまで加わったらこの町の守りが何だか心配になってくる。空道と梨乃の2人だけでも十分だというのは理解しているが、気持ち的には柚羽ちゃんにはその2人と一緒にこの町と子供たちを守ってもらいたいと思っている。
あと、柚羽ちゃんも子供だから連れていけないというのもある。
「難波地区以外のこの町全域に結界を張っていますので、悪霊や魔物は絶対に入ってこられません。わたくしも同行させてください」
「しかし、柚羽ちゃんはまだ子供だし」
「行きます」
「ついこの間15歳になったばかりだし」
「行きます」
「いや、だから」
「行・き・ま・す」
「・・・・じゃあ、一緒に行こうか」
「はい」
無表情で棒読みセリフで圧を掛けられ、俺達はもちろん華々美でさえ引いてしまったみたいでそれ以上断ることが出来なかった。こういう圧が強い所は、父親である厳造さんに似たのかもしれない。
「まぁ、あまり残りたくないんじゃない。柚羽ちゃん、ちびっ子達によく牛乳を飲まないとダメだぞと注意されてきているから、居た堪れなくなるもの」
「・・・・・・」
里美に指摘され、柚羽ちゃんは気まずそうにプイっとそっぽを向いた。
一緒に過ごして分かったのだが、柚羽ちゃんって実は牛乳が嫌いみたいで朝食の場で出されても絶対に飲もうとはしないのだ。その代わりに、水道水ばかりを飲んでいる。
(もしかして、柚羽ちゃんの背が低いのは牛乳を飲まないせいなんじゃないのか?)
他にも、チーズやヨーグルト、ピーマンとトマトと生魚も嫌っていて相当な偏食家であることが分かった。
初めはアレルギー体質かと思ったが、里美に問い詰められたところただの食わず嫌いであることが分かり、アレルギーのある食べ物はもちろんそもそもアレルギーとは無縁の体質であることも分かった。それは、医者である千恵美さんと見習いの道明君に調べてもらってハッキリした。だから体の成長が、小学生の時からストップしているのだろう。
それは置いておいて、俺達は早速明日の準備を進め、翌早朝には出発できるようにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やぁだ!やぁだ!」
「「・・・・・」」
翌朝の出発直前、絵里奈が俺と華々美の足にしがみ付いて出発を阻止しようとしていた。
「絵里奈、パパとママは絶対に帰ってくるから良い子にお留守番してなさい」
「やぁだ!」
「困ったな」
やぁだ!と言って離れようとしない絵里奈だが、地下の悪霊たちにより空道神社の襲撃以降ずっとこんな調子で、なかなか俺と華々美から離れなくなったのだ。無理もない事だと理解しつつも、こういう時は本当に困る。
(出来るだけ絵里奈との時間を多めにしているのだが、やっぱり親のこういう長期的な不在は子供にとっては不安なんだろうな)
気持ちが分からない訳ではないのだが、だからと言って2歳でまだおむつも卒業できていない赤ちゃんの絵里奈を連れていくわけにもいかない。
なら、俺と華々美が残ればいいだろという話になるだろうけど、人任せにして自分はのうのうと待つというのは嫌だし、何となく俺と華々美も行った方が良い気がしてならないのだ。この感じは言葉では表現できないし、ただの直感で何を言っているんだって感じになるのだけど、それでもこの感覚だけは無視してはいけない気がしてならないのだ。
そんな時、里美が絵里奈に近づき、膝を折ってしゃがんで目線を絵里奈に合わせた。
「絵里奈ちゃん。パパとママがいなくて寂しい気持ちは分かるけど、パパとママはどうしても必要だから外すことが出来ないの。パパは私たちのリーダーだから、パパが来てくれないと大事な決断が必要な時にその判断が出来ないの。ママはとっても強いから、皆が必要としているの」
「やぁだ!やぁだ!やぁだ!」
「それに、パパもママも必ず絵里奈ちゃんの所へと帰ってきたでしょ。2人とも、絵里奈ちゃんの所へと帰ってくるという約束を必ず守れているのよ。だから、良い子でお留守番してて。パパもママも、とっても強いから絶対に帰ってこれるわ」
「・・・・・」
里美に諭された絵里奈は、頬をパンパンに膨らませて涙も浮かべていたが、それでも最終的には俺と華々美から離れて敦子さんに抱っこされた。
「パパとママが出かけている間は、私達といっぱい遊びましょうね」
「私の亜美ともいっぱい遊びましょうね。亜美も先月1歳になったから」
「わたくしの茜と葵ともいっぱい遊んでください。2人とも、先週1歳になりましたので」
「わ、私の俊君ともお願い」
1歳になった子供がいる戸村さんと西園寺さんと柴川さんも、自分の達の子供とも一緒に遊ぼうと言って絵里奈を励ましてくれた。彼女たちに抱かれている子供達も、絵里奈に両手を伸ばしてくれていた。
「行ってくるから、皆と仲良くしてるんだぞ」
「わたしもパパも、必ず絵里奈の所に帰ってくるから」
絵里奈に声をかけた後、俺と華々美は涼が運転する車に乗って屋敷を出発した。先頭を、由乃さんと美玲と朝香が乗るワゴンが走り、次に里美と柚羽ちゃんが乗るキャンピングカーが、そして後ろを俺と華々美と涼が乗るワゴンが走っていた。
町を出て高速に入ってからは順調で、死霊達に睨まれはしたが特に襲われる心配はなく、トンネルに入ってもそれは変わらなかった。
「流石、柚羽ちゃんの張った結界ね。私や朝香が張る結界とは、比べ物にならないくらいに強固ね」
なんて愚痴をこぼしながら、涼は前を走るキャンピングカーについて走らせていた。
「帰ったら、また絵里奈との時間をたっぷりとらないとな」
「そうだな。あの子を不安にさせてばかりでは、相沢さんにも申し訳ないからな」
「でもいいわよね。幹夫はともかく、華々美のことをママだと思ってくれているなんて」
「いいじゃないか、涼にだって懐いているんだし。それよりも、こんな現象をさっさと終わらせることを最優先に考えないと」
その為に俺達は、今日も霊滅版を求めて町を出ているのだ。こんな現象を終わらせて、絵里奈と過ごす時間をもっと大切にしていきたい。あの子には、のびのびと過ごしてほしいから。
それから2回の休憩をしているパーキングエリアで、俺達はふとある小さな村から煙が出ているのが見えた。
「煙が立っているってことは、あの村には住人がいるのだろうか?あまり人の気配は感じないけど」
「自然発火じゃないのか?」
「確かに、この時期珍しくないからね」
華々美と朝香は、今の時期珍しくない乾燥による自然発火を疑っているが、俺はなぜかあの村に行かないといけない気がしてならなかった。
「けれど、今後のことを考えると交流は持った方が良いと思うわ」
「私もそう思います。霊滅版のことはもちろん最優先ですが、先のことを考えて交流を持つことも大切だと思います」
涼と由乃さんは、人が居ることを想定してコンタクトを取った方が良いだろうと言った。
その後2人は、俺に視線を向けて指示を待った。
「行ってみよう。人が居れば一応コンタクトを取って、友好関係を築けそうなら良いけど、そうでなかったら何もしないで先に進もう」
というよりも、行かないといけない気がしてならないと言った方が正しい。こういう虫の知らせと言っていいのか分からないが、行かないといけない気がしてならなかったのだ。
俺達はすぐに高速道路を下りて、煙の上がった村に入った。村と言っても、家が2~3件だけで殆どが古い畑の跡というとても小さい村であった。そのせいなのか、大人の気配は全く感じられなかった。
そう、「大人」の気配が全く感じられなかったのだ。
「これは一体・・・・・」
「子供しかいない」
子供の柚羽ちゃんが言うのもどうかと思うが、そのとおりである。この村にはなぜか、10歳前後の子供が10人ほどいて、女の子6人は全員が赤ちゃんを抱っこしていた。しかも、全員がボロボロの服を着ていた。不衛生という訳ではないが、赤ちゃんを育てる上ではあまり清潔とは言い切れなかった。
俺達が驚いている中、皆を代表して最年長の男の子が前に出て俺達に挨拶をしてきた。
「は、初めまして。皆のリーダーの、園埼弘馬と言います」
少し怯えた様子ではあったが、弘馬君は丁寧に自己紹介をしてくれた。
「おぉ、武谷幹夫だ。ところで弘馬君、君って幾つなんだ?」
「えっと・・・12です。本来なら、今年の春から中学に入る予定でした」
12歳にしては少し背が低かったから、てっきり10歳くらいだと思っていた。
それはさて置き、俺はすぐに気になることを聞いた。
「弘馬君がリーダーって言ってたけど、大人の人はいないのか?」
「い、いません。先月、病気で亡くなりました。2人とも、80歳以上のお爺さんお婆さんだったので」
「お爺さんお婆さんって、お父さんやお母さんは?」
嫌な予感はしつつも、聞かずにはいられなかった。
「僕達は皆、お父さんとお母さんに捨てられてこの村まで来たんです。女子たちが抱いているあの子たちも、鳴き声がうるさいという理由で捨てられました」
「捨てたって、どういうことだ?うるさいからって何だって言うんだ?」
「僕達の騒ぐ声がうるさいという理由で、葛間という男の命令で皆が親から捨てられて、避難していた町からも追い出されました」
そんなくだらない理由で、こんなにも小さな子供を平気で捨てたこの子たちの親たちに反吐が出る思いであった。
そもそもなんだ、うるさいから捨てたって一体どういうつもりなんだ?何様なんだ?
「捨てられた僕達を、ここで暮らしていたお爺さんとお婆さんが拾ってくれて、育ててくれたんです。この村には、そのお爺さんとお婆さんだけが暮らしていましたで、2人のお陰で僕達は何とか生きてこられましたし、生まれて間もないあの子たちの育て方を教えてくれました。でも、もう90間近で病気にかかってしまい、半年前に2人とも動けなくなりました。この村には電気も通っていませんでしたし、病院もありませんでしたし、その上去年の12月はとても寒かったので益々弱っていって・・・・」
それで2人とも、先月亡くなってしまったのか。電気が元々通っていなかったというのを差し引いても、病院がないのもかなり痛い。まだ子供のこの子たちに、病気にかかった老夫婦の病気を治す術なんて持っていないし、知識もないから治しようもない。
「それでもお爺さんたちは、僕達のことを最優先にしてくれて、なのに僕達は何も出来なくて・・・・」
最後まで言う前に、張り詰めていた糸がぷつんと切れたのか弘馬君は嗚咽を漏らしながら泣き、それに続いて他の子供たちまでもが泣き始めた
「みんな悪い。千葉に行く前に、この子たちを助けてあげたいし、この子たちを捨てた大人たちに文句も言ってやりたい。また先延ばしになってしまうが」
「構わない。むしろ、この子たちを放っておいて先に進むなんてできない」
俺の意見に、華々美を筆頭に皆が賛同してくれた。
全員の意見が揃ったことで、俺達はこの子たちに十分なご飯を与える為の準備を行い、その後の予定を話し合うことにした。




