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旧下水道崩壊

 攻め込んできた悪霊たちを全滅させた後、俺達は一度睡眠をとってから改めて旧下水道についてどうするかを話し合うことにした。尤も、結果は分かり切っているのだけど、一人だけ面倒な奴がいるのでそいつを黙らせるのに少々骨が折れそうだ。

 そう思って俺達は仮眠をとることにしたのだが、怯える子供たちの寝かしつけに少し時間がかかってしまい、仮眠できた時間は3時間ほどであった。

 また、悪霊に捕まって飲み込まれそうになった男の子は、怪我も悪影響もなく無事だったそうで俺達はみんな安心した。でも、男の子の怯えようはかなり酷く、一生消えない恐怖心と心の傷を作ってしまった。その夜は、笠島先輩が抱っこしてくれたことで落ち着いたのだけど、しばらく笠島先輩の傍から離れないだろう。

 それはうちの絵里奈も同じで、再び悪霊に狙われたことで他の子供たち以上に怯えていて、しばらく華々美に抱き着いたまま離れようとしなかった。その上俺まで離れようとすると、手が付けられないくらいに泣きじゃくる為、空道神社でも俺と華々美で川の字で絵里奈と寝ることになった。

 そして早朝、泣きじゃくる絵里奈を宥めた後、俺は涼と美玲と由乃さん、朝香と柚羽ちゃんと一緒に空道の家の居間に来ていた。華々美にも来てほしかったのだが、絵里奈を不安にさせたくないということで傍にいてあげ、更に他の子供たちのお世話も行ってもらった。

 しばらく待っていると、笠島先輩と空道と道明君、鈴原さんと梨乃が今に来た。


「遅れて申し訳ない。子供たちを安心させてから向かいたかったから」

「いいんです。あんな事があったんですから、子供たちが怖がるのは当然です」


 俺だって、絵里奈を宥めるのに時間をかけてしまったのだし、こういうのは仕方がない事だ。


「それでだが、昨夜のあの悪霊たちは皆、旧下水道から現れたというのか?」

「はい。尤も、俺達を狙った理由は報復であったみたいで、子供を狙ったのは消耗したエネルギーを回復する為だったみたいです」

「報復と言っても、俺達は彼らに手を出していないし住処も侵していない」

「朝戸地区のどの辺りかはまだ分かりませんが、崩落したところがあるみたいで、悪霊たちはそれを俺達が行った攻撃だと思ったみたいです」

「恐れていたことが、ついに起こってしまったか」


 頭を抱える笠島先輩。旧下水道は、ゴースト団地に並ぶ最強の心霊スポットでもあるが、立ち入り禁止になっている理由は別になる。

 旧下水道の上の地盤は非常に不安定であり、陥没や地盤沈下の危険性があった為、幽霊たちによる妨害が無かったら早急に埋めないといけないような場所だったのだ。


「そういう訳ですから、俺達は残った旧下水道も早急に埋めるべきだと思っています。ついでに、朝戸刑務所も解体しようと思っています」

「ちょっと待って!朝戸刑務所まで!?」

「当然だ。あの刑務所の幽霊と、旧下水道の悪霊共が繋がっていたことが分かったんだ。どちらもこれ以上放置するわけにはいかない」

「でも、旧下水道の幽霊たちは皆当時の日本政府の無茶な政策や戦争の被害者だし、朝戸刑務所の受刑者の幽霊たちだってまだ実害が出たわけではないし!霊滅版見つけて、きちんと成仏させてあげないとかわいそうだよ!」


 皆から「出たよ」と言わんばかりの雰囲気が出て、俺もこの女の先を考えない夢見がちな理想に呆れていた。

 話を聞いていなかったのか、あの刑務所の悪霊共と旧下水道の悪霊共が繋がっていたことは、昨夜捕らえたあの悪霊の発言で分かった。これまで、こちらが近づきさえしなければ実害がないということで放置していたが、あんなことが起こってしまった以上もう静観なんて悠長なことは言っていられない。


「これ以上放置することなんてできないし、あんな出来事がなくても旧下水道は埋めないといけないんだ」

「何でそんな酷いことを言うの!?あの幽霊たちだって可愛そうなんだってわかったんじゃ!」

「あんなことが起こっておいてまだそんなことを言うのか!」

「幹夫さん、落ち着いてください!」

「気持ちは分かるけど、落ち着いてください」


怒って掴み掛りそうになった俺を、両隣に座る美玲と柚羽ちゃんが腕にしがみ付いて止めた。そんな俺の代わりに、空道の隣に座っていた鈴原さんが胸倉を掴んで怒った。


「いい加減にしろ!あんな事があった後で、まだそんなことを言うの!笠島先輩の助けが遅かったら、あの子は命を落としていたのよ!」

「だったらあの幽霊たちと子供達、両方救った方がいいに決まってるじゃない!」

「いい加減にしろ!あんたの反吐が出る理想の為に、ここにいる子供たち全員を殺す気か!?」

「何でそんな酷いことを言うのよ!?みんなはあの幽霊たちがかわいそうじゃないの!?あたしの塵で埋めたら彼等は消滅してしまうし、刑務所がなくなったら彼等は逃げ場もなくなって太陽の光を浴びて消滅しちゃうわ!」

「子供達や他の生存者の命が優先でしょ!それでも、昨夜の襲撃の原因になった崩落も、ただ運が悪かっただけで済ませる気か!」

「だって!」

「だってじゃない!これ以上あんたの腐った理想のせいで、大勢死なせるわけにはいかないんだ!」


 鈴原さんに責められても、なおも自分の理想を曲げようとしない空道。そんな空道に、鈴原さんだけでなく道明君と梨乃までも怒り心頭と言った感じでした。笠島先輩も、顔には出していなかったけど、心底怒っていることが分かった。

 そしてそれは、涼と朝香と由乃さんも同じであった。

 ブチギレした涼が、湯呑のお茶を勢いよく空道にかけた。


「りょ、涼ちゃん?」

「いい加減にしろ!現代人は知らない人も多かったみたいだけど、そもそも旧下水道は崩落や地盤沈下の危険性があったんだよ!今まで大丈夫だったから、この先も大丈夫だという保証がどこにあるんだ!危惧していた崩落が、先日起こっただけだろ!この先だって絶対に起る!早急に埋めないと危険なんだよ、何でそれが分からないんだ!」

「だって!」

「いい加減に理想ではなく現実を見ろ!あんたの理想は絶対にかなわないし、無理やり叶えようとするとここにいる人全員を殺すことになるんだよ!」

「そんな、そんな酷いことを言うなんて!」

「それが現実なんだよ!お前の理想の為に、これ以上生きている人間を危険に晒すな!」

「涼ちゃんの言う通りだよ。青美ちゃんも、いつまでも夢ばかり見ていないで現実を見なさい。そんなんだから、おじさんもあんたも、ひいては空道家がずっとボク達の家から嫌われているんだよ」

「流石に私も、今回だけは看過できません。旧下水道も、朝戸刑務所も今後の安全の為に両方潰さないといけません」

「・・・・・」


 大勢の人に責められ、自身の理想までも真っ向から否定され、その上自分たちが今まで嫌われてきている理由を改めて聞かされて、完全に心が折れたのか涙を流しながら俯く空道。

 しばらく静観していた笠島先輩が、大きく溜息をついてから決断を下した。


「決まりだ。旧下水道は完全に埋めるし、朝戸刑務所も崩して塵に変えて埋めよう」

「笠島先輩!?」

「これ以上子供たちを危険に晒すわけにはいかない。今生きている人間の安全が最優先だ。青美の理想にこれ以上付き合うわけにはいかないんだ。拒否権はない」

「うううぅ・・・・・」


 笠島先輩に逆らえない空道は、悲しそうな顔をしながらも頷いた。そういう条件で今もこの神社に残してもらっているのだから、例え本意ではないとしても笠島先輩の意見に異議も唱えることも許されず、空道にはその決定に従うしかなかったのだ。


「そうね。善は急げ、明るいうちに行きましょう」

「そうですね。今の時期は暗くなるのがとても速いですし、また襲撃されては堪ったものではありません」

「そうね。タイムリミットは午後4時で、陥没地点なら小夏さんと姫香さんに頼んで探してもらっています。もうすぐ連絡が来ると思います」

「涼も由乃さんも朝香も、行動が早いな」

「指示を出したの、武谷さんでしょ」

「柚羽ちゃん・・・・」


バラさないでほしいと思っていたちょうどそのタイミングで、小夏さんから電話がかかってきた。話の内容は、崩落地点が見つかったということだ。


「場所は何処だった?」


 笠島先輩の質問に、俺は一旦スマホをポケットに入れてからその場所を言った。

 

「小夏さん達が以前避難していた協会の前の道路」

「私も以前いたあの協会ですか?」

「ああ。崩落は正面の道路の方だったけど、見つけて間もなく協会が地盤沈下によって沈んだそうです。協会も、その衝撃で崩壊しました」


 幸いにも、ドローンを使った捜索だった為小夏さんや姫香に被害はなかった。


「あのまま残っていたら、私達は今頃瓦礫の下敷きになっていたのかもしれません」

「まぁ、あの協会に限らず他にもいろんな所で地盤沈下が起こっていたみたいです。あの悪霊たちが、俺達から攻撃を受けたと思い込むのも無理はありません」


 恐れていた崩落と地盤沈下が、昨日と今日で一気に起こったのだ。この朝戸以外の地区は、笠島先輩が空道に命令して埋めてもらったお陰で被害はなかった。

 けれど、朝戸地区に関しては空道のワガママで埋めないでいた。

 その結果、昨夜のような最悪な事態が起こることになった。


「なら、モタモタしている場合ではない。すぐに対処しないと」

「笠島先輩の意見に賛成ですが、その前にあの中にいる悪霊たちを一掃した方がいいです。それも、他の建物に逃げられる前に」

「涼ちゃんの言うことは分かるけど、朝戸地区には朝戸刑務所以外にも霊が集まりそうな場所は朝戸地区にはたくさんあるんだよね。ボクだって、正確に見切れる自信がないよ」


 涼の意見にも、朝香の意見にも、俺達は妙に納得していた。

 朝戸地区はこの町で最も治安が悪い地区であり、負のエネルギーが集まる場所は刑務所以外にもたくさんある。この町の人間である涼でさえ、正確にどこが危険なのかを把握しきれていないくらいだ。片っ端から潰すという手があるのだが、それだと最悪朝戸地区にある建物全てを塵に変える必要が出てしまう。何より、建物全てを塵にする前に空道の念力が先に尽きてしまう。


(刑務所に収監されている凶悪犯に憧れている奴が多い上に、それをわざわざ模倣して悪さをするバカも多い。咲や友坂もそうだったが、警察のお世話になる様な人間が物凄く多かったからな)


 そんな治安の悪かった朝戸地区だから、何処に負のエネルギーが溜まっているのかを正確に知ることが出来なかった。それもあって、涼でさえ負のエネルギーが溜まっている場所の特定が出来ないでいた。


「それなら朝戸地区にある建物全て潰すしかないな。市原さんが管理している鉄工所や電気施設以外な」

「それしかないですけど・・・・」

「青美に相当な無茶をさせてしまうことは理解しているが、俺はこれ以上子供たちが危険な目に遭ってほしくないんだ」

「笠島先輩」

「青美、休み休みでも構わないから今日中に何とか朝戸地区の地下も流れている旧下水道を完全に埋めてくれ。悪霊がいるいない関係なく、あそこは崩落や地盤沈下の危険があるから」

「・・・・・わかりました」


 笠島先輩の指示に渋々従う空道は、すぐに席を立って準備に取り掛かった。


「俺と咲が一緒に行って空道の監視をしますので、皆はここで待っていてください」

「なら、わたくしも行きます。何かあったときに、皆さんを守れるようにしますので」

「あたしも、武谷さん達の護衛に就きます。お姉ちゃんには子供たちのケアがあると思うし、あたしが代わりに行きます」

「分かった。じゃあ、俺と咲と柚羽ちゃん、それに空道と梨乃で行きますので、笠島先輩たちは子供たちの傍にいてあげてください」

「すまない、武谷」


 笠島先輩が頭を下げて数秒後に、俺達は朝戸地区に向かうための準備を行った。と言っても、武器と道具と車の用意をするだけなので5分後に出発することが出来たのだった。





とうとう理想主義のワガママ娘の心が折れました。

さてさて、またもやかなりの長文になってしまいそうなので途中で切らせていただきました。後半を楽しみにしてください。

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