空道神社襲撃 2
「幹夫さん!」
「美玲?どうした?」
柚羽ちゃんの戦いに感心している間に、美玲が皆を集めた後俺達の所へと駆け寄ってきた。
「外の様子を見ましたら、だいぶ悪霊の数が減ってきていましたので、そろそろ反撃に入ってもいいと思います」
「反撃って、敷地内に入ってきた奴等は」
「考えがあります。皆さんは朝香さんを守るようにしてください。朝香さんは悪霊を弱らせる音楽を奏でてください。出来れば音が広範囲に響く楽器がいいです」
「それならバイオリンを使うね。子供たちに一曲演奏してあげたから、ちょうどこっちに持って来てある」
何となく美玲の考えが読めた俺達は、朝香の準備が終わるまで悪霊たちの進行を食い止めていった。幸いなことに、入ってきた悪霊の殆どが柚羽ちゃんに集中していた為こちらに来る悪霊の数は疎らであった。けれど、今が悪い状況だということには変わりない。
そんなこんなで1分後には、バイオリンを持った朝香が戻ってきて、神社の真ん中でバイオリンを弾いた。
そのバイオリンの音色を聞いた悪霊たちは、耳を強く抑えて苦しみだした。
(日口家の真価は、念力を音に込めて楽器を演奏し、その音で悪霊の力を弱めるのが得意。武器や術による攻撃もすごいけど、朝香の本当の力は音楽で霊を弱らせることなんだよな)
「いい調子です。朝香さん、一旦演奏を止めてください。由乃さん、お願いします!」
「任せてください。皆、目を強く閉じて!」
美玲の指示を受けて朝香が演奏と止めた直後、由乃さんが背負っていた錫杖を手にもって念仏を唱え始めた。唱え終えると同時に、由乃さんは錫杖で地面をトンと突いた。
突いたと同時に、錫杖から眩い光が広範囲に広がっていき、敷地内にいた悪霊は全員その光を浴びたことで消滅していき、神社内にいた悪霊を全て倒すことが出来た。
松北さんの錫杖が手に入ったことで、由乃さんの力が今まで以上に上がっていった気がする。そんな姉を見て、妹の梨乃は言葉を失った様子であった。
「益々あたしの影が薄くなっていく・・・・・」
自分の存在感が薄くなっていることに落ち込む梨乃であった。
「まだ終わりではありません。青美さん、階段に残っている悪霊をあなたの鬼火で一掃していってください」
「え!?わ、分かったわ」
突然指示されて戸惑っていたが、空道はすぐに階段の方へと向かって行き、得意の鬼火を使って階段で蹲っている悪霊たちを消滅していった。
「流石は空道家の人間です。妖術において右に出る陰陽師はいません。派手さはなくても、強力な悪霊や魔物でさえ一撃で葬れます」
「まぁ、そうだな」
空道がすごいことは知っているが、あの人柄では誰からも信頼されない。それは説明をしてくれた柚羽ちゃんも同様で、信用はしているが信頼は全くしていない様子であった。
空道が階段にいた悪霊を一掃した後、俺達は階段を下りて行った。
「由乃さんと梨乃は、子供たちの傍にいてあげてください!あとは俺達で何とかしますので!」
「分かりました」
「気を付けてください」
影山姉妹を残し、俺は涼と朝香と空道と咲と美玲を連れて階段を下りた。
「柚羽ちゃんは改めて階段に結界を張って!時間かかっても構わないから、終わってから俺達の所に来てくれ!」
「分かりました」
すぐに柚羽ちゃんは、階段にも結界を張ろうとしてくれた。
岩崎家の張る結界の強度は、ここにいる誰よりも強く悪霊や魔物の進行を必ず防ぐことが出来るという。
階段を下りた俺達は、改めて攻め込んできた悪霊の数に少し驚いたが、朝香の演奏するバイオリンを聞いた瞬間に動きを止めて、耳を強く抑えて苦しみだした。
「動けなくなった隙に、いつもより威力を上げるわ」
これ幸いという感じに、涼は嚙み切った親指の先の血で左の掌に文字を書いた。いつもなら垂らすだけの所を、今回は何か文字を書いていた。
「普段は滅多にやらないけど!」
書き終えた直後、涼はいつものようにパンと両手を合わせた次の瞬間、勢いよく両手を前に突き出した。その瞬間、ものすごい爆発音と共に広範囲の悪霊たちが霧散していった。
「流石涼ちゃん、相変わらず凄い力」
「3~4発撃った後は、朝香さんの術で一気に燃やしてください。ただし、1人だけ拘束してください。情報を仕入れたいですから。それと青美さん、念力を回復させる魔方陣を書いてください。急いで」
「う、うん!」
感嘆する空道をそっちのけにして、涼と朝香と空道に指示を出す美玲。時にエグイ作戦を思いつくこともあるが、彼女の頭の回転の速さはこの町で一番と言ってもいい。
そんな美玲の指示に従って、空道は念力を回復させる陣を階段の前に描き、涼は正面と両端にいた悪霊たちを一気に消滅していった。
(力と武術の瀧倉、妖術の空道、音楽の日口、護りの岩崎、最も強い力を持つ4つの陰陽師一族の娘がこの町にいるなんて)
改めて思うと、実がかなりすごい事なのだと思った。それぞれが自身の得意分野を十二分に生かし、目の前に迫っている脅威を退けていっている。
(今でも俺は、一生分の運を使い果たしてしまったんじゃないかって思っている。そんなすごい家の令嬢たちが、俺の住んでいるこの町に集まっているんだから)
撃ち終えた涼は、すぐに空道が描いた陣の中へと入って念力の回復を行った。
「お疲れ、涼ちゃん。次はボクの番だね」
演奏を終えた朝香が、バイオリンを美玲に預けた後何処からかお札を取り出し、そのうち一枚を正面へと飛ばした。そのお札が悪霊の大群の中に入り、地面に張り付いた瞬間にそこから大きな火柱が上がった。
「相変わらず凄いわね・・・・」
「お兄ちゃんなら最大で5本の火柱を上げられるんだけど、ボクは一本が限界ね」
「だったらあたしも」
そう言って空道は、顔の前で両の拳を合わせて呪文を唱え、拳をゆっくり離していった。拳同士を離すと同時に、空道の視界の先にあった地面が裂けていき、近くにいた悪霊たちが出来た地割れの中へと吸い込まれていった。
「な、なんだあれ!?」
「地割れを作ってその中に霊を吸い込ませる術だよ。地割れの表面には、青美の念力で浄化の塵が作られていて、閉じると中に吸い込まれた霊は全て消滅するって訳。相変わらずすごい妖術を使うわね。性格はいけ好かないのに」
「あんな性格じゃなかったら、ものすごく頼りにしてたんだけどな」
空道は呆れるほどの理想主義者であり、夢見がちな所があるんだよな。そのせいで周囲が危険に晒されているにも拘らず、自身の理想の実現を優先させようとするのだから振り回される俺達はいつも迷惑している。その上、あいつは自分の力を過信している節があるから余計に危ういんだよな。
たくさんの悪霊を引き込んだ後、空道は呪文を唱えながら拳を再び顔の前で合わせた。それと同時に地割れが閉じていき、吸い込まれた悪霊たちが悲鳴を上げて消滅していったのが見えた。
ちょうどそのタイミングで、結界を張り終えて新しい武器を持った柚羽ちゃんが下りてきた。
「お待たせしました。わたくしも加わります」
「柚羽ちゃん?」
何やら小型のバズーカのようなものを構える柚羽ちゃん。一目見ただけで分かった、これはかなりヤバイ奴だということが。そして、その予想通りで柚羽ちゃんが引き金を引いて撃ち、着弾と同時にドカンと大きな音を立てて爆発した。
「何じゃあれ!?」
「M79グレネードランチャー・・・・あんな物騒な火器をどうやって手に入れたんだよ!ここ日本だよ!」
朝香曰く、映画で見たことがあるけど実物を見たのは初めてだった為かなり驚いていた。
(いや、全くもってそうだよ!何であんな物を持ってんだよ!日本では絶対に入手できないし、第一違法じゃねぇのか!?)
なんだか本当に、岩崎家が実は反社組織だったんじゃないかと思えてきた。日口家も猟銃やショットガンを所持していたけど、孝介さんが猟友会に入っていてシカやイノシシを撃つために持っていたし、それもちゃんと許可を貰っていた。
でも、あれは流石にアウトだというのは俺でも分かる。
そんな俺達の戸惑いなど気にせず、柚羽ちゃんはグレネードランチャーでどんどん悪霊たちを葬っていった。
そんなに撃って大丈夫なのかと思ったが、よく見ると柚羽ちゃんは撃つ度に吹っ飛ばされていた。やはり、その小さな身体では反動に耐えられるわけがなかった。
「ごめん、待たせた!」
ようやく念力が回復した涼が、空道が描いた陣から出てきた。敵陣に突っ込む前に、涼はカバンから黒色の縄を取り出してそれを悪霊の大群の方へと飛ばした。おそらく、霊封じの墨が塗られた縄なんだろう。
その縄は1人の悪霊を拘束すると、ものすごい勢いで俺達の所に引っ張り込まれた。
「言われた通り1人だけ捕縛した。あとは全滅させても問題ないわね」
そう言って涼は、宝刀を抜いて悪霊の大群の方へと突っ込んでいった。
「ちょっと待って!」
「ん」
少し遅れて朝香と柚羽ちゃんも、それぞれ刀を抜いて突っ込んでいった。
「みんな体力すごいですね・・・・あたしなんて肉弾戦は絶対に無理です」
「だと思っていたからそこでジッとしてろ」
それでも笠島先輩曰く、大きなイノシシ2頭を軽々と引きずって持ち帰るくらいの腕力はあるのだという。
「捕まえた悪霊でも見張ってな」
「というか、いてくれないと困りますので、青美さんは私と一緒にここに残ってください」
「そういうことだ。行くぞ、咲!」
「ああ!」
金の刀と、梵字が書かれた金属バットをそれぞれ持って、俺と咲も3人に続いて悪霊たちに突っ込んだ。朝香の演奏のお陰で悪霊たちはかなり弱っていて、俺達は襲われることなくどんどん倒していくことが出来た。
それからほどなくして、攻め込んできた悪霊は無事に全滅させることが出来た。いや、捕らえた一人を除いて全てと言った方が正しい。
「さて、洗いざらい吐いてもらうぞ。お前らは一体どこから来たんだ?何の目的で、俺達を一か所に集めて俺達を襲いに来たんだ?子供を狙ったのはなぜなんだ?」
「幹夫、怒りは分かるけど少し落ち着いて。そんな一度にたくさん聞いても答えられないから」
「・・・・・」
怒りに任せて問い詰める俺を、涼がそっと肩に触れて宥めてくれたおかげで少しだけ落ち着くことが出来た。
捕らえた悪霊は、30代くらいの男性で作業着らしきものを着ていた。
「答えてください。アナタたちは一体どこから来たのですか?」
『・・・・朝戸地区の地下、旧下水道だ』
これ以上何の抵抗も出来ず、更に弱らされた状態である為なのか落ち着いて答えてくれた。
「旧下水道。だったら何でここまで来たんだ?お前等全員地縛霊で、あの場所に縛られていたはずだ。そうだよな、涼?」
「ええ。朝戸地区だけであんなにたくさんいたなんて予想外だったけど、お前たちは全員あの旧下水道から出られないはずだ」
『本当はこの地区や他の地区の旧下水道にいたんだが、触れただけで消滅してしまう土が入り込ん来たことで俺達は朝戸地区まで避難し、そこで暮らしていた。だが、昨日の早朝に天井が抜けて太陽光が入り込み、それによって多くの仲間が消滅した。お前たちが天井を壊したせいで、俺達のテリトリーは犯された』
「その報復として俺達に襲い掛かってきたって訳か」
『先に攻撃してきたのはそっちだ。危険な土だけならともかく、天井を壊して日の光を入れるなんて許せるわけがない』
状況は分かったが、こっちとしてはいい迷惑であった。
おそらく、恐れていた崩落事故が起こり、そこに住んでいた幽霊たちが俺達の攻撃と思い込んで攻め込んできたという訳か。
「子供たちを狙ったのはなぜだ?」
『ここまで来るだけでもかなりの力が消耗されるから、お前たちを殺す前に生命エネルギーの宝庫である子供を取り込むことで回復すると同時にパワーアップを図ろうとした。あのまま戦っても、陰陽師のいるお前等には勝てないからな』
「っ!」
そんな理由で子供を狙う悪霊に、俺は言い知れない怒りを抱いた。すぐにでも金の刀を抜きそうになった俺を、涼と柚羽ちゃんが宥めてくれて、怒りで質問どころではない俺に代わって美玲が質問を続けた。
「アナタ方以外にも、あの旧下水道の中には霊がいらっしゃるのですか?」
『まだたくさんいるさ。それも、俺達よりも力の強い奴が。更にその奥はもっと強い奴がいて、そいつの指示で俺達は身を切る思いで報復しに行ったんだ。俺達が全滅したところで、そいつ等が代わりに攻め込んでくる。どの道終わりだ』
「さっきもあんなにたくさんいたに、まだたくさんいるというのですか?」
『あの地下道には、掘削作業中にくたばったたくさんの作業員の霊の他に、朝戸刑務所に収監された受刑者の霊も住んでいるんだ。更に戦争で命を落とした人たちも加わり、かつ土足で踏み込んできた何百という人間の命も奪えばあれくらいはいるさ』
「後者はともかく前者の、作業員の霊って当時はそんなにたくさんの人が亡くなったのですか?」
『当時はまだ技術も進んでいなかったうえに、国が出した無茶ぶりによって何百という作業員が生き埋めなり酸欠なり有毒ガスなり、いろんな障害があったせいで俺達はみんな死んだ。なのに政府は、このことを隠蔽した!こんなの納得できるわけがない!』
やがて悪霊は、当時の政府に対する恨みを叫んだ。だから、旧下水道にいる霊は悪霊になってしまったのか。
「事情は分かりました。ですが、こちらとしてもアナタ方を許すわけにはいきません」
「そうだな!」
美玲の合図を待たず、咲がバットで悪霊の頭を殴った。それによって悪霊は消滅し、危機は一時的に去ったのであった。




