空道神社襲撃
それからしばらく時間が経ち、夜の12時に近づいたころに俺達はそれぞれ武器を手に待機していた。うちからは全員が起きて待機し、空道神社側からも笠島先輩と空道と梨乃、道明君と鈴原さんがそれぞれ武器を手に待機していた。
茅音さんは、戸村さんと柴川さんと西園寺さんと一緒に子供達がいる建物で待機していた。子供たちを守る為に。
「なぁ涼、俺達がここに集まったのは悪霊のせいなのか?」
「間違いない。そもそも、私達は仕事を終えると真っすぐ自分たちの避難所に戻っているでしょ。私達で言うと別荘に。なのに今日は、普通に空道神社に来て夕飯までご馳走になっている。特に示し合わせているわけでも、予定しているわけでもないのに」
「確かに・・・・でも、一体何の目的で?」
「分からない。悪霊がこの町に入ってきたのなら、私が事前に仕掛けた術によって察知できるのだけど、柚羽ちゃんが結界を張っている以上それは不可能。それ以外に考えられることはただ一つ」
「最初からこの町の中にいた悪霊ということか?」
「そうなるわ。でも、それっぽい場所と言ったら・・・・この町には3ヶ所も存在しているわ」
この町には、危険な霊が溜まっている場所が3ヶ所も存在している。
1つは、この町最恐の心霊スポットのゴースト団地。あそこだけは結界の外にある為、外から入ってくる悪霊は皆ゴースト団地に集まってくる。今の所こちらに実害はない為、現在は様子見となっている。
2ヶ所目は、この町の地下を通っている旧下水道。この町に住んでいる人なら誰でも知っているが、全員が地縛霊であの場所に縛られているのが殆どであるため、近づかなければ害はない。
そして3ヶ所目は、朝戸地区にある朝戸刑務所。あそこには、死刑になった受刑者の魂が今も彷徨っているらしいが、涼曰くソイツ等は朝戸刑務所に縛られているため、あそこにいる霊は皆あそこから出ることが出来ないという。吸血鬼騒動があったときは、皆が吸血鬼から逃げる為に一時的に刑務所の地下にある旧下水道へと逃げたが、解決した翌日には戻って刑務所で暮らしているという。
「刑務所の悪霊共がこっちに攻め込んでくる可能性は?」
「ないわ。アイツ等も危険な悪霊だけど、土地に縛られている以上あの場所から出ることはできない。霊というのは、大半が土地に縛られているから、こっちが不用意に近づかなければ害はないの。例外があるとすれば、ゴースト団地の悪霊共だと思うけど、こっちに近づいて来る気配から察するに、ゴースト団地の悪霊共ではないわ。もちろん、朝戸刑務所の悪霊共でもないわ」
「悪霊の気配を感じているってことは」
「ええ、真っすぐこっちに近づいてきているわ。この神社の前は、まだ手が付けられていないから更地のままだけど、逆に言えば身を隠す場所がないからこちらが不利になるわ」
「確かに」
敵の規模と力が分からない以上、下手に大技をぶっ放して涼達の力を悪戯に消耗させるわけにはいかない。何度も対峙しているせいなのか、こちらに迫ってくる悪霊の数がとんでもなく多いことが肌で感じて分かる。
一応森側から侵入できないように、柚羽ちゃんが事前に結界を張ってくれているのだが、流石に数で押し切られたらどうすることも出来ないし、何より階段まで結界を張り切れていない為どう頑張っても押し切られる未来しかない。
この異常事態を前に、子供達はもちろん大人たちでさえ目を覚まして様子を伺いに外に出ていた。
「柚羽ちゃん。気を悪くしたら申し訳ないけど、万が一にも結界が破られることってあるか?」
「それはないと自信を持って言えます。お父様やお兄様からみっちり鍛えられましたので、軍団規模で押し寄せられても破られる心配はありません。それが出来なければ、岩崎家の名折れです」
物凄い自信だが、厳造さんと厳一さんみたいにとっさに広範囲に展開させることはまだ出来ないみたいだ。
「本当でしたら、階段もしっかりと結界を張りたかったのですが、わたくしは女でしたのでそこまでの修業はさせて貰えませんでした。岩崎の女で男並みに強い力を持っているのは、わたくしの知る限りでは彩羽お姉様だけです。戒律を破ってばかりでしたが、陰陽師としての才能はずば抜けていましたし、日口家の術も習得したことで孝一お兄様に匹敵する天才となりました」
実の姉である彩羽さんを絶賛しているのだが、表情は「無」そのもので眉一つ動くことなく変わっていない。おまけに喋り方も、大根役者の棒読みセリフみたいな喋り方も相も変わらずだ。
「そんなことよりも、身構えたほうがいいぞ。松明のおかげで規模が把握できるぞ」
「分かった・・・・・おいおいおい!」
華々美に言われて階段から更地の様子を見たら、更地全体を埋め尽くす程の数の悪霊がこちらに向かっているのが見えた。この数を前に、死霊達はもちろん死神たちでさえ押されていた。
「死神たちが圧倒されている!?」
「いくら死神でも、あんな数を対処するのは無理だよ」
「数の暴力を前に、成す術がありません」
朝香と由乃さんも、あまりの数を前に委縮した様子であった。いや、朝香の場合は委縮しているのではなく爆発寸前と言った感じであった。興奮していた。
だが、怯えている暇なんてない。早くも悪霊たちは、階段からこちらに入ってこようとして来た。柚羽ちゃんの結界のお陰で、森に入ろうとする悪霊はいなかった。
だが、階段で火を吹かせる訳にもいかない。森が燃えたら大変だし、こんな数を相手にしては涼達の念力の方が先につきてしまう。
(肉弾戦である程度数を減らす必要がある)
最初に俺と華々美と咲と笠島先輩が前に出て、階段を上って中に入ってきた悪霊を金の刀で切って消滅していった。とはいえこの数を防ぎきることなんてできない為、討ち漏らした悪霊を小夏さんと里美と姫香とアリアの4人で対処し、俺達の援助を涼と朝香と由乃さんが行った。
空道と梨乃と柚羽ちゃんには、階段を上ってくる悪霊の数を減らしてもらった。術を使う空道と梨乃には、出来るだけ力を抑えるように指示を出してもらっている。この2人の術に関してはもう驚くことはないし、梨乃に至っては姉の由乃さんと同じ術が使える為次に何の術を出しているのかを容易に想像できる。
予想外だったのが、柚羽ちゃんの戦い方であった。彼女も武器をフルに使って悪霊と戦うみたいで、華々美と同じく拳銃やショットガンを使うのだが、他にもマシンガンやライフルなども使っていて、とても14歳の女の子が使うような物ではない武器ばかりであった。
「すごい荷物を持っていたなとは思っていたが、あんなにたくさんの銃を持っていたなんて・・・・ここ、日本だよな?」
「しかも、種類がすごい・・・・ベレッタやグロックにガバメントにデザートイーグル、ショットガンに至ってはレミントンM870Pにモスバーグ590、他にもアサルトライフルにH&KにAKまで・・・・」
「何それ、魔法の言葉か?」
「銃の名前だ。うちもかなりの武器を持っていたが、あんなにたくさんは流石に入手できなかった。というか出来んぞ普通!どうやって手に入れたんだ、あんなの持っているなんて完全に違法だ!」
たくさんの銃や刀を所持していた華々美が驚愕するほどだが、そもそも日本では銃というのは持っているだけで犯罪になるのだし、そんな物騒な物を何であんなにたくさん持っているのだ?
そもそもの話、どうやって手に入れたというのだ?弾丸に術を込めて悪霊を倒せるようにしているけど、今更ながらそれって大丈夫なのか?岩崎家って、実はかなり大きなヤクザなのか?
「困惑しているようだけど、岩崎家はヤクザでも何でもないわよ。ただ、あんな武器をどうやって仕入れたのかはいまだに謎なんだよ。厳造さんはもちろん、先代も教えてはくれないんだ」
「いやいや、怪しすぎるだろ!」
「わたしが言えたことではないが、そんな家とは関わりを持つべきではないぞ!」
華々美でさえそんなことを言うのだから、あれだけの銃を所持していること自体が本当にヤバイのだ。いくら物凄い権力と地位があるからと言って、あんな物を持っているような家なんだから絶対に危険だ。
「今更そんなことを言っても仕方がない。それよりも、コイツ等を退けることが先だ」
戸惑っている俺達に、笠島先輩が渇を入れて現実に引き戻してくれた。気付けば空道神社の敷地内には、たくさんの悪霊が入り込んでいて、階段に至っては初詣に来ている参拝者状態でかなりぎゅうぎゅうになっていた。
「コイツ等は一体どこから来たんだ!?それ以前に、一体何の目的でここに俺達を集めるように仕向けたんだ!?」
物凄い数の悪霊が入ってきているのだが、どの悪霊も攻撃はしてくるが襲って命を奪おうという感じがしなかった。
(一体何が目的だというんだ?)
しかし、その答えの一つがすぐにわかった。俺達のガードを突破した1人の悪霊が、子供たちのいる建物に入り込み、2歳の男の子を掴んで連れ去ろうとしていた。
「あああああああ!」
「コイツ!」
それを見て悪霊共の狙いがようやくわかった。俺達というよりも、子供たちを一か所に集めて全員を連れ去ってその命を、生命エネルギー奪おうとしていたのだ。
俺がその子を助け出そうと刀を振ろうとすると、悪霊は奪い返されまいとしたのか、ありえないくらいに大きく口を開いて男の子を頭から飲み込もうとした。というか、既に頭は入れられていた。
「テメェ!」
「やめろ!」
俺が手を下す前に、怒り狂った笠島先輩の一撃により悪霊は消滅し、男の子は無事に救助された。そんな男の子を、今度は他の悪霊たちが狙おうと襲い掛かってきたが、笠島先輩の攻撃により全員が消滅した。
「ああぁあぁああああ!」
「子供たちに、何をする!」
『子供をよこせ!』
『よこせ!全員俺達が貰う!』
悪霊たちの身勝手な発言に笠島先輩の怒りが爆発し、襲い掛かる悪霊を次々と消滅していった。そのあまりの剣幕に、俺達はもちろん悪霊たちでさえ縮み上がっていた。
「子供たちに指一本触れるな!」
向こうが怯んでいる隙に、笠島先輩は男の子を戸村さんに渡した。
「すみません、今度こそ守り切って見せます」
「頼む」
男の子はまだ泣いていたが、抱えながらでは戦えないだろうし何より危険だから良かったと思うが、これはかなりヤバイ。
「華々美、すまないけど子供たちの方に行ってくれ!むしろそっちに人員を回した方がよさそうだ!」
「分かった。幹夫も気を付けろ」
「里美と小夏さんとアリアも行ってくれ!子供たちを守るのが最優先だ!」
「「「分かったわ」」」
俺の指示で、殆どの人員を子供たちの所に送った。子供たちは皆泣いていて、特に絵里奈はかなり取り乱した様子で華々美に抱き着いてきた。
「ああぁあぁああああ!」
「大丈夫だ。ママがついている。絵里奈のことは、ママが命に代えて守ってやる」
「ああぁあぁああああ!」
泣きじゃくる絵里奈を、華々美が抱きしめて必死に宥めていた。もしかしたら、アイツに攫われた時の恐怖が蘇ったのだろう。
他の幼児達も全員が泣いていて、10歳以上の子たちが皆を宥めていた。大人の男性は、一部除いてそれどころではないのか部屋の隅で丸まって震えていた。
道明君と、前からここにいた他の大人の男性は、皆が子供たちの盾になって悪霊から守ろうとしていた。吸血鬼騒動のあの協会からこっちに移動した男が、隅っこで震えていた。
「皆、悪霊共から子供たちを守れ!子供達には指一本触れさせるな!」
自分の子供を持つようになった道明君が、他の男子たちを鼓舞して率先して守ろうとしていた。
それを見た笠島先輩は、鈴原さんと一緒に再び前に出て悪霊たちと戦っていた。
だが、悪霊たちのあまりの多さを前に俺達は防戦一方状態になり、子供たちのいる建物を守るのに手一杯であった。
そんな中、自身の身長と同じくらいの長さがある刀を抜いた柚羽ちゃんが悪霊たちの中へと突っ込んでいった。すると、悪霊がみんな柚羽ちゃん狙って襲い掛かっていった。
「一体何が!?」
「おそらく、自分を囮にして注意を引いているんでしょう。柚羽ちゃんって、パッと見は小学生くらいにしか見えないチビだから」
「チビは流石に・・・・」
言いすぎだろと言いかけて、口を噤んでしまった。
身長145センチ程しかない低身長、実年齢よりも幼く見える顔立ち、凹凸の少ない幼児体系、パッと見は完全に小学生くらいであった。確かに、この現象が始まる3ヶ月前まではランドセルを背負っていたし実際にまだ子供なんだけど、あれから2年以上も経って来月には15歳になる中学3年生なんだけどな。
柚羽ちゃんは、悪霊たちが自分を狙ってくるこの状況を好機と捉えているみたいで、全く臆した様子もなく自身の身長と同じくらいの長さの刀を軽々と振り回していた。
(涼も朝香もすごいけど、柚羽ちゃんもあんなに小さな体であそこまで戦えるんだから本当にすごい)
そう思ってしまったのであった。
かなりの長文になる為、途中で切らせてもらいました。後半はまた明日。




