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帰還と新しい仲間

 その後、岩崎邸へと帰ってすぐ、俺達は遅めの夕食を食べた後ずっと宿泊部屋で過ごした。あと、当然ながら厳造さん達から無茶なお題を出されたことを話すと、全員が厳造さんに対して強い怒りを出したが、厳造さんの一睨みで押し黙ってしまったため結局何も言えなかった。

 あと、厳造さんから借りた刀は本当に俺が貰うことになったみたいで、返そうとしても厳造さんは受け取ろうとしなかったし、厳一さんや柚羽ちゃんからは諦めろと言わんばかりに首を横に振られた。


「それにしても、厳造さんも酷いわ。いくら何でも、生身の人間一人で悪霊と戦わせるなんて無謀すぎる」

「一応、近くには厳造さんたちがいたから、本当に危なくなったら助けに来ていたと思う」


 そうでなかったら、わざわざ近くで見守るなんてことはしないだろうと思う。


「それよりも・・・・俺はこれをどうすればいいのかが困るんだけど・・・・めちゃくちゃ高価な刀だよな」


 厳造さんがせん別だと言ってくれた刀は、素人目で見てもかなり高い代物であるのが分かるくらい高価な刀で、一般人である俺が持つのは恐れ多くて現在進行形で困っているのだ。


「あげるって言うんだから、素直に貰ってやればいいじゃん」

「俺は華々美ほど豪胆ではありませんから」

「私もいいと思うわ」

「そもそも、厳造さんは一度言ったら聞かないから諦めな」


 華々美と涼と朝香にも言われて、俺は渋々その刀を貰い受けることにした。とはいえ、普段使いは憚られる為家宝として飾ることになるだろう。高価すぎるから。

 そんなことを考えていると、ドアがノックされた。


「武谷君、佐藤だけどいいかな?」

「佐藤さん?入っていいですよ」


 突然の佐藤さんの訪問には少しびっくりしたが、入室を許可すると佐藤さんが奥さんの敦子さんと2歳くらいの男の子が入ってきた。

 佐藤さんと敦子さんは、俺達の前に座った。男の子は、敦子さんに抱っこされながらキャッキャッ騒いでいたが、これくらいなら特に問題はないし気にならない。


「突然の訪問、申し訳ありません」

「いえ、どうされたのですか?」

「はい。武谷君たちが僕を訪ねたのは、渋井沢という男が持っていた領収書に佐藤宗一の名前が記載されていたからと仰っていましたね」

「はい。ただ、肝心の住所がボロボロになっていて解読が出来ませんでしたが」

「写真で見せてもらった時でも、所々掠れているのが分かりました」


 これは最初に東京に行った時に調べて分かったが、渋井沢はいろんな物をネットで販売していて、その度に領収書を書かせていたということが分かった。

 なんでも、以前異様な金の流れを察知した渋井沢の両親に怪しまれ、領収書の提示を求められた過去があったのだという。それで提示できなかった事で、親から強盗や非合法な取引を疑われてしまったのだ。

 それ以来、渋井沢は面倒に思いつつも親に犯罪を疑われては堪ったものではないと思い、取引成立の度に領収書を書かせるという経緯があったのだ。


(渋井沢のご両親のおかげで、霊滅版を買った奴の名前を知ることが出来たので、ものすごく感謝だ)


 というか、実の両親から犯罪を疑われるなんてどんだけ信用がないんだよ。しかも、合法である証明として領収書を書かせてわざわざ両親に渡すくらいだ。


「見た感じだと、損傷も掠れ具合もそんなに酷くないので、実物さえ残っていれば解読が可能です」

「「「「え!?」」」」

「「マジ!?」」


俺と華々美と美玲と朝香の声がハモリ、涼と由乃さんも数秒遅れて声を上げた。里美だけは相変わらずというか、全く動揺した様子がなかった。


「本当にできるのですか!?」

「はい。敦子と協力すれば何とかなります。時間はかかりますけど」

「だったらぜひ、うちに来てください!領収書なら俺達の屋敷に保管してありますし、住所が分かればすぐにそこへ行って霊滅版を見つけることが出来ます!」

「わたし達からも頼む!こんな現象を一刻も早く解決して、絵里奈や他の子供たちに明るい未来を送らせてあげたいんだ!」


 俺と華々美の嘆願の後、他の皆も一緒に頭を下げて佐藤さんの同行をお願いした。そんな俺達を見て、佐藤さんと敦子さんは柔らかな笑みを浮かべて頷いてくれた。


「元々僕の方からお願いするつもりでいました。証拠の領収書があるのなら、それから住所を特定して武谷君の力になれるのではと考えたのです」

「俺の、ですか?」

「はい。悪霊になった真柴を相手に一歩も引かずに立ち向かう君を見て、僕もこんな所でのんびりしている場合ではないと思ったのです」

「主人が皆様と一緒に行かれるのであれば、私と息子も付いて行きます。少しでも、皆さんのお役に立ちたいので」

「既に厳造さんの許可は貰っています。僕達も一緒に行きます」

「ありがとうございます」


 佐藤さん夫婦の厚意に感謝し、俺達は再び深々と頭を下げた。遠路はるばる鹿児島まで来たというのに、結局霊滅版を見つけられなかった事に絶望してしまった所に、佐藤さんの提案は本当にありがたかった。


(そのお陰で、渋井沢から霊滅版を買った佐藤宗一が実は歴史学者でも何でもないことが分かった。彩羽さんの言う通りだったという訳だ)


 では、霊滅版を買った佐藤宗一が一体どんな奴だったのだ?

 そういう疑問を抱きながら、俺達はその日は床に就いた。

 そして翌朝、俺達は厳造さんと厳一さんと紗弓さんに見送られながら車に乗り込んだ。他の一族のメンバーは、見送りにすら来ていなかった。大方、よそ者はとっとと出て行けとでも思っているのだろう。


「まったく、客人の見送りも出来ないなんて」

「いえ、構いません」


 嫌々見送られても気分が悪いし、こういうのは誠意が何よりも大切だからその気がない奴は見送りに来なくてもいい。

 それよりも、俺達は今過分すぎる贈り物を前に戸惑っていた。

 まず、ものすごく大きなワゴン2台とここで栽培されている野菜、更にたくさんの和牛の肉にたくさんの医療書や電機や浄水に関する資料、そして豪邸が十何件も買ってもお釣りがくるほどのたくさんのお金であった。詳しい金額は、口で言うのは憚られる為内緒とする。


「あの、車や資料や食料はありがたいのですが、今の状況でお金は」

「持っていけ。この現象が解決すれば、いずれ必要になる。物々交換では限界があるし、人間同士と取引するうえで絶対に必要になる。持っていて損はない」

「は、はい。ありがとうございます」


 お金の価値がなくなっても、貰った金額がとんでもない事には変わりないため俺達は完全に委縮してしまっていた。だって、同じく金持ちの華々美と涼と美玲と朝香でさえ委縮してしまうような金額だから。


「金額なら気にしないでください。こんなの、我が家の総資産の1割程度ですので」

「「「「あ、あれで1割!?」」」」


 俺と華々美と美玲と里美の声がハモった。


「超億万長者って聞いていたけど、私の家が可愛く感じてきた」

「それを言ったら、ボクの家だって可愛く見えるよ」

「これだけの資産がありながら、質素倹約な生活をしているなんて・・・・ドケチってレベルじゃないわ」


 涼と朝香と由乃さんなんて、頬を引きつらせながら若干引いているぞ。


「ま、まぁ、せっかくの厚意ですから、ありがたく貰って早く行きましょう」

「そ、そうですね」


 佐藤さんと敦子さんに促され、俺達はそれぞれワゴンとキャンピングカーに乗り込もうとしていた。その時、屋敷の引き戸が勢い良く開かれ、そこからたくさんの荷物と武器を持った柚羽ちゃんが出てきた。そして、そんな柚羽ちゃんを追うように翼さんも出てきた。


「待ちなさい柚羽!」

「どうした?」

「柚羽が、あの人たちと一緒に行くと言ってきかないのよ!」

「お母様やお父様が反対されても、わたくしの意思は変わりません。こんな所でじっとしているよりも、武谷さん達と一緒に行って力になりたいのです」

「柚羽!」


 どうやら柚羽ちゃんは、俺達と一緒に行こうとして準備を進めていたらしく、それを母親に止められていたようだ。


「あなたは来月には結婚する相手も決まり、18の誕生日を迎える頃には分家に入ることが既に決まっているのです!勝手は許しません!」

「ならわたくしも、彩羽姉様同様岩崎の名を捨てます。この家にはもう二度と戻りません」

「いい加減にしなさい!」


 壮絶な親子喧嘩をしているのだろうけど、肝心の柚羽ちゃんは表情も変わっていなければ口調も相変わらず大根役者の棒読みセリフのような喋り方であった。こんな状況であっても、喋り方に何の抑揚がない。

 それでも、柚羽ちゃんの意思はしっかりと伝わっていて、現に母親の制止を振り切って自分の荷物を強引にワゴンに積み込んでいた。

 そんな柚羽ちゃんの行動を見て、厳造さんは一歩前に出てきて柚羽ちゃんの頬を引っ叩いた。


「あなた!?」

「そんなに付いて行きたいのなら勝手にしろ!その代わり、お前も彩羽同様二度とこの家の敷居を跨ぐことは一切許さない!」


 物凄い剣幕で怒鳴っているが、俺にはそれが悲痛な叫びのように聞こえた。実際、厳造さんは柚羽ちゃんを引っ叩いた手を強く握って震えていた。本心で言っているわけではなく、奥さんの前で甘いことを言って前党首の耳に入るのを警戒してそうふるまっているのが伝わる。古い体質を変えるというのが、漫画やラノベのように簡単にはいかない現実を前にやりきれない思いでいっぱいになった。


(現実は、フィクションやマンガ動画のように甘く優しくない上に、スカッとも出来ない。厳造さんの場合は、立ち向かっている相手があまりにも強大すぎる。下手したら国を動かしそうなレベルな権力を持っているんだから、厳造さんは息子夫婦と共に日々隙を見せないように気を張りつつ改革の準備を進めている。例えそれが実現するのが、何十年も先になっても)


 そんな厳造さんの本心と気苦労を知らないうちの女性陣は、ものすごい怒りを滲ませながら厳造さんを睨んでいた。


「それでも構いません。15歳の誕生日を迎える前にこのような親不孝を行い、大変申し訳ありませんでした。今まで育ててくださり、ありがとうございました」


 特に気にした様子もなく、柚羽ちゃんは頭を深く下げて謝罪とお礼の言葉を述べた後、何事もなかったかのようにワゴンに乗り込んだ。

 その後は無言のまま、俺達はそれぞれ車に乗り込み、岩崎の屋敷を後にした。その際に、翼さんは苛立った様子で屋敷の中へと入っていき、その後を息子夫婦に背中を摩られながら屋敷に入っていく厳造さんの姿を後ろから見ていた。

 俺は柚羽ちゃんの乗っているワゴンに乗り、里美が運転していた。


「柚羽ちゃん?」

「平気です。お父様とて、本心であんなことを仰っている訳ではないのは分かっていますし、わたくし自身も二度とあの家に戻れないことは覚悟の上です」


 俺と里美しかいないからなのか、柚羽ちゃんはそんなことを言い始めた。


「現実は、漫画や小説のように優しくありません。お父様が党首になられても、お爺様の権力と力は絶大です。そんなお爺様は、昔ながらのやり方こそ正しいと強く思い込んでいて、岩崎の女には自由意志すら与えられませんでした。完全に子孫を残すために存在しているようなものです。令和となった今の世では害悪となる思考も、お爺様たちにとっては正しい事なのです。そんな岩崎を変えるのは、皆様が思っているほど簡単なものではございません。警察でさえ、その絶大な権力を前に何も出来ないほどですから」

「ま、実際はそんなもんだよな」


 岩崎家は、良くも悪くも力を持ちすぎた。犯罪に走らないように徹底しているつもりかもしれないけど、その前時代的思考こそが既に犯罪であり、ましてやジェンダー問題に当たる行為をしているのだから問題にならない訳がない。

 しかし、それさえもまかり通ってしまうくらいなのだから、本当にすごい権力を持っている。そんな一族に改革を起こそうとする厳造さんが、どれだけ大変な思いをしているのか。


「柚羽ちゃんは、本当に良かったのか?実家を追い出されて、おそらく彩羽さんと同じように最初から存在しないものとし扱われるのが、辛くないのか?」

「お優しいのですね。ですが、これはわたくしが自分の意思で決めたことなのです。武谷さんは気にしないでください」

「しかし」

「そうは言っても柚羽ちゃん、泣いているじゃない」


 里美に指摘されて、柚羽ちゃんは慌てて涙をぬぐおうとするが、滝のように溢れ出る涙を止めることが出来ず、結局俺達以外に誰もいない為声を上げて泣き出す柚羽ちゃん。泣くのを止められなかった柚羽ちゃんは、俺に抱き着きながら嗚咽を漏らし続けた。


「わたくしには、彩羽姉様みたいに愛してくださる殿方がおらず、温かく受け入れてくださる義家族もいない。お父様も、お爺様のせいで改革が思うように進まないことにストレスを抱えていて、お母様も琴羽姉様も愛羽姉様も何の疑問を抱くことなくそれが当たり前だと思い込んでいる。わたくしだって、好き好んでこんな異常な家の娘になったわけではありませんのに、お父様やお兄様や紗弓義姉様だって毎日神経を擦り減らしながら改革の時を待っているのに、あのクソ爺のせいで!」


 礼儀正しく、上品な柚羽ちゃんの口から「クソ爺」という言葉が出るくらいだから、相当前党首に対する不満が大きいことが伺える。

 だけど、そのクソ爺を敵に回すことで益々不利な状況に陥るのだけは避けたいため、厳造さんと厳一さんと紗弓さんに出来ることはただ一つ。言い方が悪いが、前党首であるクソ爺が死ぬのを待つしかないのだ。

 柚羽ちゃんもそれを分かっているから、今まで感情を表に出すことなく、父と兄の負担にならないようにうまく立ち回っていたのだろう。

 そして今、溜まっていた鬱憤や感情が爆発して大きな声を上げて泣き出した。


(泣きたくてもずっと我慢していただろうし、本心ではないと分かっていても実の父親からあんなことを言われれば無理もないか)


 しばらく泣いた柚羽ちゃんは、泣き疲れたのか数時間眠りについていた。

 そして、大阪を過ぎたあたりで俺も昼寝をするために座椅子を倒して眠りについた。




「あらあら、今度は武谷さんが眠っているのですね」

「いいじゃない。途中で何度か私と運転変わってくれたし、さっきまで運転してたんだから休ませてあげましょう。私だって、幹夫が運転している間に一眠りしてたんだし」

「そう」

「ところで、柚羽ちゃんは何で私たちについて行こうとしたのかしら?」

「わたくしも武谷さんの力になりたいなと思ったからです。それ以外の理由も聞きたいのですか?」

「それ以外の理由?」

「あなたです、長谷川(はせがわ)里美(さとみ)さん」

「私?」

「はい。あなた、時々いなくなることがありますよね?そうでなくても、しょっちゅう存在感がなくなり、気付いたらいなくなっていたなんてことがあります」

「・・・・・」

「あなたは一体何者なんですか?悪いお方ではないかもしれませんが、ここまで存在感が薄いのも違和感がありますし、何よりいなくなるタイミングは決まって武谷さんが他の皆から離れる時。涼さんや朝香さんや影山さんでさえ気づけないくらいですから」




「あなた、相当強い力を持った幽霊ですね。それも、悪霊や魔物でさえ軽く凌駕してしまうほどの」




「・・・・・」

「沈黙は肯定の意味ですね」

「・・・・これだけは信じて。私は決して、幹夫はもちろん他の皆に危害を加えるつもりは一切ないわ。生命エネルギーも吸っていない、自分で言うのもなんだけど人畜無害だよ」

「そうですね。でなければ、日中に外に出て日の光を浴びた瞬間に消滅いたしますものね。ですが、それはそれです。時々いなくなるあなたを簡単に信用するわけにもいきません」

「だからついてきたのね、涼達でさえ突然いなくなっても気付けない私を監視するために」

「はい。何もないとは思いますけど、このような状況ですので簡単に信用するわけにもいきません」

「好きにしなさい。家を追い出されてまで来たのだから、気の済むまでどうぞ」




 それから数時間後、日が完全に落ちだした頃に俺達は自分たちの屋敷に帰った。





果たして里美の正体は?

物語も佳境に入りました。最後まで楽しんでください。

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