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またみんなで

「じゃあ、先に行ってくるからな」

「はい」


 ガチャ、とドアが閉まると部屋の中は静寂になる。


 黙っていたら不安と寂しさにおぼれてしまいそうだ。


 今日までこんな気持ち......感じたことなかったんだけどな。


「寒い......体が震える」


 俺はそんなに恐れていたのか......


 今日、俺は放課後に学校へ行き天野さんたちを呼び出し、話をするつもりであった。


 L〇NEですでに連絡してあり、あとは来てくれるかどうかだ。


「なんて言って、俺が行かなかったりしてな」


 携帯の電源はすでに切っており、返信は見ていない。


 一度逃げ出したものに再び立ち向かうことにこんな勇気がいるなんて。


 氷代子さんがいなかったら、俺はとっくに折れていたかもしれないな......


 あの時も、氷代子さんが見つけてくれなかったら俺はこの世から消えてしまい、側に落ちていた落ち葉と同じ存在になっていたかもしれない。


 そもそも、俺が初めて氷代子さんと出会ったのも―


 することがなくて適当に始めた野原行動。


 一人が寂しかった俺は何気ない気持ちでボイスチャットを付けた。


 声をかけても応えてくれる人はあまりいなく、ほとんどが一期一会で終わってしまうものばかりであった。


 そのうち自分は独り言をしているんだと思いながら、ゲームをするようになった。


 そんな時にマッチングしたのがキャプテンイタリアンさんこと、鬼寺氷代子さんで「何独り言話しているんだ」と笑いながら、ボイスチャットに参加してくれた。


 それからフレンドになって、一緒によくチームを組むようになって......


 最初から最後までずっと氷代子さんは俺を救ってくれていたんだな。


 でも、出会いが独り言って、思えば相当痛いことしていたんだな、俺。


 だけど、それも今となればいい思い出なのかな......


 出会い、思い出か......


 亮介は?


 部活で一緒になって。最初は「いつも冷めた態度しているけど、バレーうまっ」なんて思ってて。


 気が付いたら、一人で居残り練習していた俺に話しかけてきてくれて―


『お前、バレー好きなのか?』

『え? 別に好きじゃないけど......頑張りたいとは思っている』

『ははっ、なんだよそれ! 十分好きじゃねぇか! いいぜ、付き合ってやるよ。居残り練』

『別に頼んでないけど』

『うるせぇ。早くボール出せ』

『もう、勝手だなぁ』


 あの時はこれからこいつと仲良くなるとも思わなかったし、喧嘩することになるとも思いもしなかったなぁ。


 あの時、あの頃は......


「楽しかったなぁ......戻りたいあの頃に......」


 何が変わってしまったんだろう、俺達は。


 なんでうまくいかなくなってしまったんだ?


 みんな仲が良かったときはあるのに。


 壊れる前まで築いてきた、思い出とも呼べるキズナがあるのに!


 これまでのすべての思い出を振り返る。


 亮介としたくだらない会話や佐倉と過ごした日々、三尹が見せてくれた笑顔や天野さんとドキドキしながらしゃべっていた青春の一ページ、氷代子さんに持ち掛けた相談の一つ一つの内容まで、すべて―


「......わかったかもしれない」




 校門の前に立つ。


 ここに来るのは一週間ぶりだ。


「おい、あいつ。 青井じゃね?」

「ほんとだ。ずっと休んでたのに何しに来たんだ?」

「さあ? もしかしたら転校でもするんじゃね?」


 ここまで来て足がすくむ。


 でも、逃げ出す自分を想像するのはもっと怖かった。


 校舎に上がり、約束していた教室へ向かう。


『ガラガラガラ』


 よかった、ちゃんと全員来てくれたみたいだ。


「優、よかった。ちゃんと来れたんだな」


 既に泣きそうな顔の先生。


 それを見たら手の中の冷や汗が熱くなってきた。


「ここはわたしが事前に使用許可をとっておいた。だから、誰も入ってくることはないから心配するな」

「ありがとうございます」


 何から何まで。本当に氷代子さんは......


「おい、優。俺達をここへ呼び出して何の用だ?」

「そうよ。鬼寺先生まで連れてきて。まさか、私達に説教でもする気?」

「優くん! どこに行ってたの! 私心配したんだからね!」

「......」


 それぞれ違う反応を見せるみんな。


 静かに冷めきっている亮介。逆に熱く燃え上がっている佐倉。


 三尹は以前と変わらない様子。対照的に天野さんは不気味なほどに表情を示さない。


「亮介、佐倉、三尹、天野さん。みんな、今日は俺のために集まってくれてありがとう。今日、俺はみんなと仲直りしに来た」


 はぁ? と驚きを見せる亮介たち。


 でも、一番に反応を示したのは三尹であった。


「仲直りって! 私たち別に喧嘩なんてしていないよね? 悪いのは全部この女で、私達の仲は......!」


 天野さんを指さす三尹。


 このセリフを言った時、一番に反応するのは三尹だと思っていた。だって、三尹はいつも自分の気持ちに直球的な女の子だから。


「三尹。俺たちは一回友達に戻ろう。それに今は先生と付き合っているんだ」


 だから、嘘はつかない! 俺も三尹から逃げないで直球勝負だ!


「......なんで。なんでよ! 私の何がいけないの! 私が一番優くんのことが好きなのに!」

「それは違う! 今、俺のことを一番大切だと思ってくれているのは氷代子さんだ!」


 氷代子さんと目が合い。俺は黙ってうなずく。


「......ふぅ」


 息を整え落ち着く三尹。


「わかった......わかったよ優くん」


 わかってくれたのか?


「私がその女を排除するから!」


 次の瞬間、三尹は抜刀するようにポケットからカッターを取り出し、先生に向かって飛びかかる。


「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」


 !!


「......めん。ごめん三尹。この前は俺が受け止められなかったから」


 氷代子さんに刺さるすんでのところで俺は横に入り、三尹の腕を止めることができた。


「優......」

「今みたいに受け止められたら......三尹は、俺を傷つけずにすんだのに」

「......んで、なんで止めるの! その女は優くん物語には必要ない!」

「それは......それは俺の物語じゃない。三尹の物語だ」


 俺の言葉を受け膝から崩れ落ちる三尹。


「なんでそんなこと言うの? 優くんは私の主人公なのに......」

「......三尹。危ないからこれは預かるよ」


 三尹の手からカッターを取り、ポケットにしまう。


「なにこれ? 昼ドラ?」

「自慢かよ。馬鹿馬鹿し。もう帰るからな」


 俺達のやり取りを見て呆れた亮介が教室から出ていこうとする。


「待ってくれ亮介! 話を聞いてくれ!」


 まだ俺と話し合いをする気を持っていてくれているのか、亮介はドアの前で足を止める。


「......なんだよ」

「亮介はあの日、俺たちは仲直りしたっていったよな」

「......ああ」

「でも、友達はやめるって」

「......ああ、だから何だよ!」

「でも、それはやっぱり仲直りっていわないだろ! 俺は亮介と以前のような関係に戻りたい!」

「戻りたいってお前......言っただろ。お前に俺はもういらないって―」

「それは亮介が勝手に決めたことだろ! 俺はお前と友達でいたいんだよ! なんで亮介が決めるんだよ! ほんっとそうだよ! みんななんでだよ! 三尹も天野さんも佐倉も! 俺の気持ちを勝手に決めんな!」


 気が付くと気持ちが爆発していた。


 息が荒れ、喉が渇く。


「......前に先生が言っていたんだ」

「優?」

「男女の友情は成立しないって。男と女の間には必ずどちらかに恋愛意識が存在して、いずれはどちらかが告白をし、付き合うか、振られてしまいその関係は破綻してしまうと」


 そう。これはキャプテンイタリアンさん時代に先生が話していたこと。


 でも、俺が言いたいのは!


「でも、俺はこれが間違っていると思うんだ! なぜなら、俺は先生が俺のことが好きだと知っても、先生のことをいつも側にいてくれる大事な親友だと思えることができたからだ! それに俺が先生のことが好きだと気づいて告白した時も先生は俺のことを考えてすぐに承諾はしなかった! つまり、なにが言いたいのかというと大事なのは相手のことを考える気持ちなんだ! でも、俺達にはそれがなかった。俺たちは子供だったんだよ......!」


 そうなんだ! 俺達は、俺達は......!


「俺たちはみんな、異性関係のもつれで仲違いをした。亮介とは三尹を巡って、佐倉とは中途半端な関係を続けてしまい、天野さんとは自分自身の気持ちをちゃんと理解できなかった......」


 誰が悪いとかの話じゃない。俺達はみんな自分のことを考えることで精いっぱいだったんだ!


「だから、一旦全部忘れよう! 全部リセットしよう! ただ、純粋無垢な友達としてやり直そうよ!」

「ふ、ふざけるな。それは勝ち組のお前だから言えることだろ!」

「そうよ! ずっと、あんたに片思いしていた私はどうすればいいのよ!」

「それは......」


 確かに亮介たちが言うことももっともだ。でも、それは俺には解決することができないことだ。


 あの頃に戻って佐倉と付き合うこともできないし、亮介と三尹をくっつけることもできない。


 どうすれば......


 誰も何もしゃべらなくなったその時、口を開いたのは三尹であった。


「......いいよ。私、友達に戻る」

「三尹!」


 三尹は立ち上がり、俺の右腕に抱き着く。


「うわっ!」

「優!」


 一瞬、まだ隠し持っていたカッターで刺されたと思い俺と氷代子さんは焦る。


 だけど、どうやら違ったみたいだ。


「でも! 諦めないから! 友達に戻っても優くんのことは好きだし、想い続けるから!」

「......三尹」

「......ず、ずるい......私だって、私だって本当は、本当にずっと大好きだったのに!」

「佐倉?」


 すると、佐倉まで俺の腕に抱き着いてくる。


「失礼ね! 私の名前は親が離婚したから茅野よ! 絶対に、絶対に許さないんだから! 必ず、私のことを好きにさせて振り向かせてやる! それが私の復讐よ!」

「......茅野ありがとう」

「ありがとうってなによ! 私はただ、自分のために復讐するだけだからね! 勘違いしないでよね!」

「......」


 再び無言で出ていこうとする亮介。


「亮介! 俺はお前とも仲良くしたい! 思い出してくれ! 俺達が出会った時のことを! 楽しかった日々を!」

「楽しかった......?」

「そうだよ......そうだ! あの日は? 亮介がとばっちりを受けた日!」

「あの日?」

「ほら、ランニングを一緒にしていたら俺が転んじゃってさ。亮介が助けようとしているところをたまたま見た先生が、亮介が俺をいじめていると勘違いして」

「目が覚めたお前が慌てて誤解を解きに来たときか」

「そう! 亮介は見た目がちょっと怖いからヤンキーと勘違いされて先生たちに目をつけられていたから」

「見た目が怖いはうるせぇよ」


 心なしか、亮介がほほ笑んでくれた気がした。


「ほかにも! 俺が遅刻した時!」

「なぜか、俺も怒られたんだよな」

「そうそう! お前らはセットだからって! 亮介、校則はすぐ破る癖に遅刻は意外としないんだよね!」

「意外は余計だろ。まあ、校則はすぐ破るけどな」

「そういえば! あの時も―」

「って、優くんしゃべりすぎ! 私も混ぜて!」

「そ、そうだ。私とも仲良くならないと復讐にならないからな」

「ふ、二人とも!」




 信じられない。


 あんなに弱々しく不安がっていた昨日の優が嘘のようだ。


 また、あいつらと楽しそうに、こんなに笑っている優が見れるなんて。


 本当に良かった......本当に......


 私ももう歳かな。涙腺がもろくなってきているようだ。


 まあ、あんな若々しく輝いているあいつらを見たら私も元気が出てきたよ!


「天野、お前はいいのか? 加わらなくて」

「わたしは......」




「優、負けたよ。お前には」

「......亮介」


 よかった。これで亮介とも仲直り......!


「天野さん! 天野さんももう一度やり直そうよ! 天野さん―」



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