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鬼寺

 まったく! あのクソはげ教師!


 青井がいないから尋ねてみたら、少し前に仕事を頼んだだと?


 もう一時間も行方不明なんだぞ! 青井は!


 ん? あそこに誰か、倒れて......! 青井? 青井!


「おい! しっかりしろ! 大丈夫か!」

「先生......」


 よかった意識はあるみたいだ。


「青井、起こすぞ」


 うつ伏せに倒れている青井を起こしてひっくり返し、おでこに手を当てる。


 凄い熱だ。いったいどこで何を......って!


「お前! この傷はどうした! 血が出ているじゃないか!」


 青井の足、太ももの部分にはズボンの上から何かで刺されたような傷跡が見えた。


 とりあえず、救急車を呼ばなければ!


 ポケットから携帯を取り出す。


 しかし、青井の手がそれ以上の操作を拒む。


「先生......大事にはしたくないんです」

「しかし、お前! 出血が! それに熱だって!」

「先生......」

「くっ!」


 切実に頼んでくる生徒の言うことを聞かないわけにはいかないだろ!


 しかし、大事にはしたくないってことは......お前に怪我を負わせた奴のことをかばっているのか? いったい誰が?


「とりあえず、応急処置はするからな!」


 ハンカチで太ももと股関節の間を縛る。


「救急車は呼ばないにしても、今の状態のお前をこれ以上ここにいさせるわけにはいかないからな。急いで車で下山するぞ」

「先生......免許持ってたんですね」

「うるさい! 黙ってろ!」


 それから私は他の先生たちに生徒が大熱を出したから下山すると連絡し、足を引きずる青井を車に乗せ下山した。


 明かりがほとんどない山道はめちゃくちゃ怖かった。


「青井、やっぱり病院に行かないと。傷の具合では縫わなくちゃいけないかもしれないんだし」

「......大丈夫ですよ。意外と大したことないですから。それに、今は氷代子さんと二人きりでいたいです」

「青井......」


 案外と落ち着いているんだな。こんなに出血したらそれなりのショックはあるだろうに。


 ......いや、ショックだからこそ、こんなことを?


 ああ! もうわからん! どうすればいいんだ!


「じゃ、じゃあ、とりあえず私の家で傷口を見るからな。それで酷かったら、お前が何を言おうが病院に連れていくからな」

「はい」


 思い耽るように窓の外を眺める青井。


 むー! 本当に何があったんだー!


 家に到着した私は青井の肩を持ってやりながら中に上がる。


 暗い部屋の中、当たり前のように部屋の電気をつける青井。


 そういえば、青井がうちに来た回数も、もう結構な数になるな。


「ほら、座って足を出せ!」

「わ! 先生ちょっと!」

「うるさい! 問答無用じゃ!」


 無理やりソファーに押し倒し、足を机の上に乗せズボンを脱がす。


「んー確かにそれほど大きな傷ではなかったな」

「だから言ったでしょ!」


 目測一センチほどの切り傷。ズボンの破れた跡はもっと大きいが、きっと刃物を引くときにできたものなんだろう。


 それほど鋭利な刃物ではなかったのか。カッターか何かか?


 消毒をして、大きめの絆創膏を張る。


「じゃあ、携帯を貸せ。親御さんに電話してやるから」

「え? 嫌ですよ」

「い、嫌ですよとはなんだ! 嫌ですよは! 親御さんも心配するだろうから電話してやるって言っているだけだろうが!」

「さっきも言いましたよね。今は氷代子さんと一緒にいたいって。それに元々キャンプで一泊する予定だったんですし、大丈夫ですよ」

「お、お前なー! 私達は生徒と教師なんだぞ? 氷代子さん、氷代子さんって」

「わかっていますよ。でも、俺達は友達と友達から始まった関係ですよね?」

「青井......」


 なんでそのことを?


「聞いていたんですよ。あの時」


 あの時? まさか、告白している途中に寝た、あの時か!?


「キャプテンイタリアンと自分を偽って、自分の生徒である俺と毎晩ゲームをしていたことも。俺のことが大好きで大好きで仕方ないことも!」


 お前......


「それ自分で言ってて恥ずかしくないのか?」

「恥ずかしいですよ! 今、言っててすごく恥ずかしくなりました! でも、事実ですよね! お互い様ですよね!」

「ま、まあ、私も恥ずかしくて死にそうだが」


 まさか、全部聞かれていたなんて。その上で、知った上で私と過ごしていたのか!? こいつ!?


「そ、それで何が言いたいんだ。私がお前のことが好きであっても、彼女がいるお前には関係ないだろ」


 そうだ。青井には椎名がいる。気が合う若いやつら同士、よろしくやっているんだよ。


「関係あります。俺は氷代子さんのことが好きです」

「いや、お前......椎名は?」

「椎名とは、もう終わりました」


 車の中で見せた時と同じ表情を見せる青井。


 午前中、いやカレー作りの時までは普通に仲良さそうに一緒にいたのに。キャンプファイヤーをやっている間に何が......


 まさか、この傷は椎名が負わせたものなのか?


 でも、なぜ? なぜ!


「いったい何があったんだ! ちゃんと話してくれ! お前がこんな傷を負わされるほど何を椎名にしてしまったんだ!」

「......やっぱり、先生は違う」

「何?」

「先生はひいき目なしに俺を見てくれる。今も、俺のことが好きだからって、一方的に椎名を悪者にしないでちゃんと話を聞いてくれる。あいつらとは違う」

「あいつら? 椎名だけじゃないのか?」

「あいつらはみんな自分のことしか考えてない。いや、でもそれは俺にも言えるのかもしれない」

「青井?」

「......椎名とは価値観が違ったんです。椎名は優しい子で同じ趣味を持っていて、俺のことが大好きな女の子でした。でも、それは俺の中の好きとは違って、もっと深くて一方的なものでした」

「でも、お前も椎名のことが好きだったんだろ?」

「......わかりません。本当は好きじゃなかったのかもしれないです。椎名はただの仲のいい友達......でした。でもそんな椎名がある日、クラスのみんなの目がとまるような美少女にイメチェンしてきたんです。先生も知っていますよね?」

「ああ、そうだな」

「その椎名が俺のことが好きだということを知ったんです。そのことに浮かれて、好きという気持ちを勘違いしてしまったのかもしれません」

「......まあ、お前はまだ学生だ。子供だ。間違ってしまった恋愛をしてもいいんじゃないか?」

「でも、今度は間違ってない。俺は先生のことが好きなんだ!」

「ま、まだ言っていたのか? 気持ちはうれしいがやめておけ。私と青井は歳も価値観も違う」

「違わない! 大事なのは相手を思う気持ちです! 天野さんにはそれはなかったし、椎名は一方的で勝手に作られた愛だった。でも、先生は違う! 先生はいつでも俺のことを考えてくれていました。キャプテンイタリアンさんの時から......ずっと......!」


 気が付くと青井の目からは涙が流れていた。


「俺はキャプテンイタリアンさんのことを親友のように思っていました。一緒にいて一番楽しい人。もう氷代子さんがいればそれでいいんです」

「青井......」


 抱き着き私の胸で涙を流す年下の男。


「......まったく、しょうがないな。後悔しても知らないぞ?」


 私はその男を愛おしく甘えて受け入れてしまった。



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