三尹の想い
「優くん......まだかなぁ」
空を見上げる。
満点に広がる星空はあれから変わっていなかったが、キャンプファイヤーの上がる火柱は小さく弱ってしまった。
流石に遅すぎるよ。
こんな仕事優くんに押し付けやがって。
まさか、優くんに何かあったんじゃ?
足が無意識に前に出る。
いけないいけない。
悪い癖だ。優くんのことになるといつも冷静じゃいられなくなってしまう。
あなたは優くんの彼女でしょ? 信じて。
必死にそう自分に言い聞かせるが、心は全然穏やかではなかった。
私は小さな頃から暗く、親の前でも黙っている子だった。
親と動物園に行っても無表情でジー―っと眺めているだけで。
お母さんがおもしろい? とか、可愛い? とか言われても、無表情でうなずくだけだった。
きっと私の性格はお母さんにすごく迷惑をかけただろう。
仕事で忙しいはずなのにたくさん遊びに連れていってもらったのもそのせいかもしれない。
私は片親だった。
理由はわからないが、お母さんとお父さんは離婚をしており、物心がつく頃には父親の影はなかった。
お母さんはそのせいで私の性格が暗くなったのだろうと思っているかもしれないが、当の本人からしたら、そのせいかもしれないし、元からこんな性格だったのかもしれない、とよくわからないといった感情であった。
そんな私でも顔には出さないが、胸の中をお花畑にする時が一つだけあった。
それは漫画を読んでいる時だった。
お母さんは、当時ニュースで幼稚園の先生や老後施設の職員が不手際を起こしたと話題になっていたこともあり、私を幼稚園に入れなかった。
お母さんは今の仕事で相当キャリアを積んでおり、会社の中でもすごい上の立場だったらしく、融通が利き、お昼に一時帰宅でも大丈夫だったみたいだ。
そのため、自宅でも小さな私が一人で長時間過ごすことに問題なかった。
無言で文句なんて言わなかったし。
一人でいる間何をしていたかというと、それはもちろん漫画だった。
お母さんにとっては私を喜ばす気休めの策だったのかもしれないけど、それが私に刺さりまくった。
帰ってくる頃には置いてあった漫画を全部読み切り次の漫画をねだるくらい。
お母さんは喜んでいただろう。私が自分から何かを欲したのだから。
だけど、予想外だったのはピークが過ぎなかったことだ。
小中高と私は学校生活を影で過ごすことになった。なぜなら、結局性格が無口なままだったから。
でも、無口だからって他人と関りたくないわけではなかった。
だって、優くんのような運命の王子様を探していたから―
今では優くんと彼氏彼女の関係になれ、多少は明るく見えるかもしれないが、それ以前は昔と変わらないままだった。
私は漫画の中の展開を信じ、校内で運命的な出会いをしないかと妄想して過ごしていた。
そしていつの日か、図書室に足運ぶようになっていた。
ノートにちょっとした絵をかきながら想像する。
もしかしたら、窓から野球ボールが飛んできて私の頭にあたって、それを追いかけてきた野球部のエースと目が合って、それから......なんて。
当たり前だけど、そんなこと起きるわけなかった。
飛んできたボールが頭にあたったら大変だし。
そんな毎日にため息をついていた時に現れたのが優くんだった。
決してイケメンとは言えない、平凡な見た目。
だけど、それが逆にリアルに感じた。
漫画も好きだし、好きな趣味も合うし、かっこいいし(もう話が変わっている)。
なにより、こんな無口で不愛想な私に話しかけてくれたなんて......もしかしてこれって、運命!?
それからは学校生活が楽しくなった。
今までしていた妄想が全部優くんに置き換わっていた。
気が付くと、優くんが私の主人公になっていた。
でも、だから心配になる。
優くんがこれからもずーっと私の主人公でいてくれるか。
私を主人公の彼女、ヒロインにしていてくれるのか―
突然、私を呼ぶ声が聞こえる。
「椎名さん!」
それは同じクラスの茅野さんだった。
「ど、どうしたんですか? そんな急いで」
走って駆け寄ってくる茅野さんに違和感を覚える。
あれ? 茅野さんってこんな感じだったっけ?
「青井くんがさっき!」
よっぽど急いできたのか、咳き込む茅野さん。
でも、その名前を聞いたら待ってなんていられない。
「落ち着いてください。青井くんが! 青井くんが一体どうしたんですか?」
「あそこに閉じ込められて」
そこは優くんが向かった先であった。
待っていてね優くん。今助けに行くから!




