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寂野椎じゃない

 あの女が言っていたように私もあいつのことをずっと見ていた。


 ただ、少し目的は違っていたけれど。


 私は寂野椎なんて名前じゃなかった。私の本当の名前は佐倉愛さくらまな。まあ、今は親が離婚して母の旧姓の茅野かやのになったんだけど。


 それもこれも全部あの男、青井優のせいだ。


 あの男とかかわってからすべてが悪く進むようになった。


 あいつが私に告白しなかったから!




 私とあいつの出会いは中学であった。


 あの頃の私は奥手というか、わかりやすくいうと陰キャでいつもクラスの端っこで本を読んでいるようなおとなしい子だった。


 容姿も丸縁眼鏡にお下げで、とてもかわいいと言えるものではなかった。


 今思えば何であんな見た目をしていたんだろうか? そもそも、ファッションに興味がなかったんだっけ?


 そんな時に現れたのが青井優であった。


 席替えで偶然、隣になった彼はいつもおどおどしていた。


 最初はただ落ち着きがない子なんだなって、思っていたんだけど、そうではなかった。


 彼もまた私と同じようにクラスメイトに、他人におびえていただけなんだって。


 そう思うと社交辞令でたまに会話を交わす彼が少し親しみやすく感じた。


 そこからまた彼の見る目が変わったのはある日の放課後であった。


 図書室に用があり、すこし遅れた帰り道。


 たまたま、ランニングをしていた彼を見かけた。


 学年でも噂になる人気でイケメンな天智先輩に必死でついて走っている彼。


 その姿に私は魅了されてしまった。


 他の同級生たちは天智先輩の速いスピードに置いてかれていて、あんな後ろにいるのに青井くんだけは—


 ―いつもはあんなに頼りなさそうなのに。


 ―おどおどしててクラスの端っこにいるような男の子が。


 部活ではあんなに熱くなっているなんて。


 かっこいい!!


 それから私は青井くんを好意の目で見るようになっていた。


 話しかけたいと思うけど、お互いに趣味なんて見当たらず、していることいえば勉強だけだった。


 そんなすぐに仲良くなれないよね。


 そう思い、休み時間にいつものように読書をしようとカバンの中の本に手をかける。


 しかし、取り出してみるとそれが小説ではなく、漫画であることに気が付く。


 しまった! 今朝は時間がなくてバタバタしていたから間違えて持ってきてしまったんだわ!


 私は普段学校で小説を読んでいたが、それ以外にも漫画も好きであった。


 でも、校則で漫画を校内に持ち込むことは禁止されている。


 諦めて次に授業の予習でもしようかと教科書を取り出す。


 ―でも


 でもだよ。


 私の席は教室の後ろで端っこの方だし、周りにも私に興味を示し覗き込んでくるような人はいない。


 先生が入ってきたらすぐにしまえばいいし、今日くらい平気だよね。


 こうして思春期特有のルールを破ることに高揚感を抱きながら、私は隠していた趣味である漫画を読み始めた。


 しかし、不運にもすぐに漫画を影が覆う。


 誰かに覗かれたと思い、すぐに机の中に隠す私。


 お願い! そのまま通り過ぎて!


 だが、それは不運なんてものじゃなく、真っ白な幸運だった。


「さ、佐倉さんって漫画読むの?」

「え?」


 恐る恐る顔を上げると、その人は青井くんであった。


 とても緊張した表情の青井くん。


 そして、私もバレたと思い心臓バクバク。


 そこからはぐちゃぐちゃな会話だった。


「そ、そ、そ、そ、そうだよ! 青井くんは?」

「ぼ、ぼ、僕も読むよ!」

「へ、へぇーそうなんだ......」


 お互いつまずきながらマシンガンのように言葉を発する。


 こんなに青井くんと社交辞令以外の会話をしたいと思っていたのに、いざとなったら全然声が出ない。


 どうしよう。なんて話を続けたら。


「じゃ、じゃあ、今度僕も漫画を持ってくるね」


 それはほとんど仲がよくなることを約束されたのも同然だった。


 それから私たちは互いに家から漫画を持ち寄り、休み時間に交換して次の次の次の休み時間には感想を交換していた。


 時間がたつにつれ、互いに緊張も無くなり、私達は友達以上の何かまでなることができた。


 私は幸せだった。


 毎日憂鬱だった学校が楽しくなり、明日はどの漫画を青井くんに紹介しようかで夜も寝れなかった。


 そのうち、青井くんが告白してきたりしてなんて想像しちゃったりもして。


 でも、終わりはすぐに訪れた。


 席替えで離ればなれになる私たち。以前のように休み時間に隠れて漫画を交換することができなくなってしまった。


 それでも帰り道や昼休みに漫画を交換することで関係を続けることができたのだけど......


 クラス替えでクラスが別れたことで約束は完全に終わってしまった。


 当時は口約束だし、仕方がないと思った。


 偶然、席が近くなったから仲良くなっただけで、席が離れたらそれまで。


 青井くんは私のことを好きなんて妄想自体がおかしかったんだ。


 再び、つまらなくなる学校生活。


 でも、それは学校だけじゃなかった。


 両親が離婚した。


 自慢ではないが、私の家は裕福で大きな家や大企業に勤めていてイケメンなパパ、料理が得意な美人なママ、お小遣いもたくさんもらえて漫画や小説もたくさん持っていた。


 でも、それがすべて崩壊した。


 私は離婚の原因を知らせてもらえなかった。


 だから、泣いていて悲しそうなママについていくことにしたんだけど......


 それが間違いだった。


 離婚の原因はママの不倫でパパから慰謝料請求で家はいつも貧乏だった。


 一度パパになんでそんな酷いことするのと聞いたことがある。


 そしたら、


『お前は俺の娘じゃない』と言われた。


 どうやら、ママの不倫は結婚する前から続いていたみたいで、私の父親はパパじゃない可能性があるって。


 私は泣いた。


 泣くしかなかった。


 そして荒れた。


 自分と同じような経験を持つ悪ガキとつるんで傷をなめ合わなければやってられなかった。


 やつらはクズだった。


 万引きはするし、自転車やバイクの盗難もするし、いつも警察のお世話になっているようなカスだった。


 でも、私もその仲間だった。


 補導され母親に迎えに来てもらっても何もしゃべることはなかった。


 漫画も読むことがなくなり、青井のことも忘れていた。


 でも、再開は突然だった。


 流石に未来を考えて入ることにした地元の公立高校。


 そこに青井はいた。


 いっきによみがえってくる楽しかった思い出。


 なぜか青井のことを見ているとすさんだ心が浄化されていくようだった。


 ドキドキする心臓。


 名字が茅野に変わって、見た目もこんなギャルみたいだけど、私のこと覚えてくれているかな。


 しかし、そんな甘い考えはすぐに打ち下された。


 私とすれ違っても全く反応を示さない青井。


 それどころか、どうやら青井はクラスの人気者の天野さんのことが好きなようだった。


 なんだ。そりゃ私のことなんて覚えてないよな。


 青井は初恋の人だ。仕方ないと割り切り、陰から青井を見守りながら真面目に生きていこうと誓い、過ごしていたある日のことだった。


 図書室で借りる本を探しているところ、青井が入ってくるのが見える。


 つい、目で追ってしまい眺めていると、青井は同じクラスの椎名がいるテーブルの席に座った。


 あの二人に接点があるの? 教室でしゃべっているところなんて見たことがないけど......


 気になった私は近くの席に座り、聞き耳を立ててみることにした。


 すると、すぐに二人になり染めがわかった。


 この二人、まるで中学の頃の私と青井じゃん!


 椎名はあの頃の私と同じようにさえない見た目をしており、漫画が好きなようであった。


 共通の漫画の話で盛り上がっている二人。


 ここが図書室というのもあり、それはまるであの頃の私たちと同じように隠れながらコショコショ話をしているようだった。


 ......いいな。


 私もこうなれたら......


 うらやましいと思う気持ちを押し殺し、私は青井とは関係のないモブとして側にい続けた。


 それはまるでアイドルを追いかけるオタクのようだった。


 結ばれないとわかっていながら、いつか声をかけてもらえると思い、近づいて待っている。


 無駄と知っていながら、見守り片思いを続ける。


 それは鬼の苦行であり、すぐに限界を迎えた。


 突然のことだった。


「なによ......あれ」


 あまりの光景に声が漏れる。


 椎名がイメチェンしてきやがったのだ。


 それはずるいだろ! 


 あの頃の私はずっと不細工な見た目でいたのに!


 いつからか、私は自分と椎名を重ねるようになっていた。


 自分を椎名と重ね私もあそこにいたんだぞって。


 でも、椎名があんなに可愛くなってしまったら話が変わってきてしまう。


 椎名はただの漫画好きじゃなくて、漫画も書けるし、実は顔も可愛い......


 それに比べて私は?


 ......もしかしたら、椎名は私の完全上位互換なのかもしれない。


 その後の様子ですぐに二人が付き合ったことがわかった。


 でも、なんで!


 あの二人は明らかに過去の私たちのことを意識して作られたものだろ?


 それに青井があの時、告白していてくれれば、私達は付き合ってクラスが離れても関係は終わらなかったし、意識が変わって私もおしゃれをするようになったのかもしれない!


 それに家での私の表情が変わって、私のためにパパとママは仲直りをしてくれたのかもしれない!


 全部全部! 青井のせいだ!


 青井が告白してくれなかったから!


 私は過去を全部青井のせいとして清算した。


 そこからは恨み、復讐だった。


「青井の幸せを壊してやる! 絶対にあの二人がくっつくことなんて許さない!」


 私はずっと二人を見ていた。


 おかげで天野が青井の初恋の相手で未だに引きずっていること、椎名の愛が少し重くて、それに青井が困っていることを知った。


 そして、ついに私は行動に移した。


 中学の制服を着て寂野椎と名乗り、あからさまに青井のことを知っている後輩として近づいた。


 天智先輩のことを好きだと嘘をつき、奴らの輪に入り、内側からお前らの関係をぶっ壊してやるって!


「私の名前は、寂野椎じゃくのしい。よろしくね? せんーぱい」



逆恨みですね。


でも、確かに優がすんなりと三尹と仲良くなれた原因は過去の寂野の存在でした。


寂野はストーカー枠でした。

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