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「」

 リアカーを引きながら坂道を上る。


 すぐ目の前に見える大きな屋敷は届きそうで届かない。


 中々、目的の倉庫につかないことにいら立ちを感じる。


「生徒にこんなことさせるかよ」


 しかし、今更文句を言っても仕方がなかった。


 やっとの思いで坂を上り切り、先ほどまでも大きく見えていた屋敷がさらに大きく見える。


 あの人、こんなところに住んでいるのか。


 倉庫らしき小さな建物を見つけ、なかを開けてみる。


「ビンゴだ」


 中は薄暗く、ほとんど何も見えなかったが、奥に積まれているたくさんの薪はすぐに目に入った。


「あとはこれを運んで」


 その時だった。


 ガシャン! と勢いよく扉を閉める音が聞こえ、部屋の中は真っ暗になる。


「え? 誰だ!」


 感覚を頼りに急いで扉へ向かうが、時すでに遅しだった。


「......鍵が閉まっている。ここ、外から鍵がかけれるのかよ!」


 動揺し、冷や汗で体が冷えてくる。


 とりあえず、明かりを探さなければ―


 見つかったのは小さなろうそく二本と数本が中に入っているマッチ棒の箱だった。


「とりあえず、これで明かりを」


 マッチを擦って火をつけ、ろうそくに移す。


 すると、周囲の姿があらわになる。


 柵付きの窓......それに薄汚れた質素な布団......


 ここは座敷牢だったのか!


 山野さんが言っていたここは古くて座敷牢さえあるという話。それが倉庫代わりになっていたなんて。


 だから、外から鍵を。


「でも、誰が......? まさか!」


 水を取りに行った時に会ったあいつら! あいつらが俺を狙っていて閉じ込めて!?


 でも、周りにはそんな大勢がいた雰囲気はなかったし、ここまであとをつけるのも......


 これは個人的な犯行なのか? 信じたくないけど亮介か?


 でもあいつはそんな姑息なことをする奴じゃ......


「今犯人を考えていても仕方ない。ここから出る方法を見つけないと」


 俺がここにいることを知っているのは、仕事を頼んだ先生だけだ。


 助けが来る可能性は低いと考えていいだろう。


 なんとか扉があかないか、試行錯誤している時だった。


 扉が勢いよく開き、誰かが飛び込んでくる。


「優君! 助けに来たよー!」

「ぐぇ!」


 渾身のタックルが腹部に決まってしまった俺はそのまま一緒に倒れてしまう。


 全身を打った痛みを我慢しながら俺は体を起こす。


 いったい誰が......? って!


「いたたー」

「天野さん!?」

「その通り! 天野さんですよー!」


 なんで天野さんがこんなところに?


「そんなことより、天野さん! 早く立ち上がってください! 早くしないと扉が―」


 この様子。犯人は天野さんじゃない。ということは、犯人はまだほかにいると思ったんだけど......


『ガラガラガラ! ガチャン!』


「......遅かった」

「あ......ごめんね!」


 てへぺろっと舌を出す天野さん。


 こんな時でも天野さんは陽気だな。何となく心が救われるよ。


「怒ってないから......そろそろどいてくれますか?」

「ごめんね。そうしたいところなんだけどーさっき入ってくるときに転んじゃって足ひねっちゃった!」

「そうなんですか!? 足、大丈夫ですか?」


 タックルをしてきたわけじゃなかったんだな。


「うーん、残念ながら立ち上がれそうにない......ってことでしばらくはこの格好になるね!」

「そんな!」


 今の格好はまるでというか、もう抱き合っちゃっているんだけど!


 ずっとこのままの調子だと、いろいろな意味で体がやばくなってしまう。


 そういえば―


「天野さんはなんでここに?」

「なんでって、もちろん優君を助けに来たに決まってんじゃん!」

「いや、それはわかるけど。なんで俺がここにいることを?」


 俺が先生に仕事を頼まれた時、近くには誰もいなかったはずだ。


 それなのにどうして。


「それは......優君が先生と話しているところを見ていたからだよ」

「え?」

「今日も昨日も一昨日もずっと。私は青井優君、君を見ていたんだから」

「天野さん?」


 突然の告白をする天野さんの顔はなぜか笑っていた。


「私、天智先輩と別れたんだ」

「え! どうして?」


 昨日、先輩は天野さんを喜ばそうとプレゼントまで用意していたのに。


「昨日、私。誕生日だったこと知ってる?」

「うん。知っていたけど......おめでとう」

「うん。ありがとう。それで天智先輩にもお祝いしてもらってプレゼントまでもらって」


 なんだ。めちゃくちゃいい感じじゃん。なんで俺がこんなことを―


「そこまではよかったんだけどね」

「え?」

「その後、流れでホテルに行くことになったの」

「天野さん!? ちょっと!」


 制止する俺を無視し、天野さんは語り続ける。


「そこで初めてHをするんだって覚悟を決めたんだけど......天智先輩が」


 俺は今から何を聞かされるんだ?


「『実は俺、ドМなんだ』って告白してきて」

「え?」

「信じられなくない? 初Hする彼女にいきなりドMって!」


 あ、天野さん?


「で、でも、強制してきたわけじゃないんでしょ? 天智先輩も相当な覚悟で告白をしたんだと思うんだけど」

「えー? でも、気持ち悪くない? ドМって」


 何を言っているんだ? こいつは?


「なんかそのうちムチで―」


 俺は別に天智先輩のことが好きでも何でもない。むしろ嫌いだ。


 でも、なぜか今心底、天野さんに腹を立てている自分がいる。


 天智先輩は俺にこれでプレゼントがいいか、相談するくらい天野さんのことを考えていたんだぞ?


「優君、優君、ちゃんと話聞いてる?」


 よりによって、今そんな言葉を言われるなんて。


 あの楽しかった日々が、ドキドキと胸を弾ませていた思い出が全て壊れた気がした。


「う、うん。ちゃんと聞いてるよ」―なんて言葉はもう言わない。


「すぐには受けいられなくても、少しずつ受け入れてあげることはできたんじゃないの?」

「もぉー、まだそんなこと言っているの? あの人はもう別にいいの」

「よくない! 天智先輩は天野さんのことを大事に、大事に考えていたんだよ? こんなのって酷すぎるよ!」


 やってしまった。きっとこれで俺は天野さんに完璧に嫌われただろう。


 でも、別にもういいんだ。思ったことをちゃんと言えたんだから。


「好き」

「は?」

「いつもは弱々しくて頼りないくせに、こういう時はちゃんと男らしくなれる優君が好き」


 は? は? は?


「うんうん。わかるよ。優君は私のことをちゃんと考えてくれているんだよね。あの男とは違って」


 この女は本当に何を言っているんだ?


「違う! 天智先輩だって本当は!」


 その時、俺はキスをされ、口をふさがれてしまう。


 初めてのキスは体温だけが熱いだけで何も味がしなかった。


「なにをして......」

「私と付き合おう」

「なんでそうな—」

「私、結局Hしてないんだよ? きれいなままなんだよ? だから、いいでしょ?」


 そう言ってズボンを脱がそうとする天野さん。


「やめてくれ! 俺には三尹が!」

「何言っているの? 優君も私のことが好きだったくせに」


 ! 気づかれていたのか?


「......なんで?」

「言ったでしょ? 私も優君のことを見ていたんだって。優君は私にとって第二希望だったの。性格がかわいくて優しいし、意外とイケメンな顔しているし。でも今は、繰り上がって第一希望だよ!」

「そんなこと―」


 言われても嬉しくない!


「やっっっめってくれ!」


 腕に力を振り絞り、天野さんを上からどかせる。


 ズボンはチャックを開けられもう少しで脱がされてしまうところだった。


「もぉー優君は照れ屋さんなんだから。そういうところもかわいい」

「くっ! お前はいったい誰なんだ!」

「優君こそ。いったい誰が好きなの?」

「そんなの三尹に決まって―」

「嘘だよ。優君が椎名ちゃんと付き合ってからも私のことを見ていたことは知っているよ。まあ、最初は私のことを避けていたみたいだけど」

「それは......」


 確かに意識してしまっていたところもあるけど、なるべく忘れようとして!


「それに鬼寺先生とも何かあるみたいだし。昨日は茅野かやのちゃんまで連れてくるし」


 は? 待てよ? かやのちゃんってだれだ?


「その顔。まさか、本当に知らないで一緒にいたの? あはは、優君は本当に面白いね」


 呆然とする俺とあははと笑う天野さん。そこに新たな声が参入してくる。


「ほんっとっーにむかつく。私のことを忘れているなんて」


 そこには窓から顔を覗かせ、俺をにらみつけている女子がいた。


 君は―


「佐倉?」


 彼女は俺の本当の初恋の相手だった。




やっと自分の思いを言えることができた優。まあ、状況はひどいけど・・・


天野さんはメンヘラでした。



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