キャンプファイヤー
自然の中で作る手作りカレーを楽しんだ後は学年全体での集会だ。
集会といっても内容はお固いものではなく、これから急に暗くなる夜の山の注意点やみんなが期待しているイベント、キャンプファイヤーの説明であった。
「最後にここのキャンプ場を貸していただいた山野さんにお話ししてもらいたいと思います」
学年主任の手からマイクが渡される。
マイクを受け取った男はこんな大きな山を持っている地主とは思えないような若い男性だった。
「優君に負けないくらいイケメンだね」
隣に座っている天野さんが周りには聞こえなくらいの声で話しかけてくる。
「ちょっと! 天野さん!」
ほら! 三尹も目を光らせてるし!
そんな笑顔して。何がしたいの? もう。
前から思っていたけど、天野さんには浮かれているというか、いたずらっぽいところがある。いつもが真面目な委員長っていうわけではなかった。
「皆さん、楽しんでいますか? 僕は楽しくないです!」
え?
「というのも、皆さんにはここをタダで貸しているんですよね。なんか僕のおじいちゃんが昔、仲の良かった校長先生さんに毎年ここを貸すっていう約束をしちゃったみたいで。だから今日、僕はただ働きですよ。まったく、ニート生活を送っているというのに」
唐突な私情の告白にみんな目が丸くなっていた。
先生たちも気まずそうに顔を見合わせていた。
いや、鬼寺先生一人だけは堂々とした面構えであった。
まったく、かっこいいな。先生は。
「優くん! どこ見てるの!」
「え!? ......木」
「木?」
「き、気を感じて」
俺はとっさに見えない気を探すボーズをする。
「もう、何言っているの。優くんは」
危なかった。共通の漫画ネタで切り抜けられた。
「まあ、みなさんはただなんで楽しんでください」
そんなこと言われたら楽しめないんですけど......
「冗談はここまでにしといて。ここには古くから使われている屋敷があって。ほら、あそこ」
山野さんが指をさす山の上の方には確かに赤い屋根の古びた屋敷が建っていた。
「幽霊が出てきそうでおもしろそうだね! ね? 優くん」
「う、うん」
「将来はあんなお家に住む?」
「え? えーっと」
「むー! 優くんが住むなら私も住む! 天野さんは住まないで!」
「えーどうしよかなー」
「むむむー!」
二人で話しているところ悪いけど、俺なら絶対に住めないな。
「インターネット回線悪いし、おかげでゲーム生活に影響が」
だんだん山野さんの生活が透けてきているけど、いいのかな? これ。
「本当に古いんですよねぇー座敷牢とかもあったくらいだし」
そんなに古いのか。本当に幽霊が出てきそうだ。
「まあ、あそこに僕はいるので何かあったら来てください。あ、僕に一目ぼれした子がいたらみんなに内緒で来るんだよ」
あまりの発現に先生が「そろそろ」と割って入って山野さんは退場していった。
結局なんだったんだ......あの人。
日が落ち、辺りが暗くなり、満面の星空が顔を出す頃。
キャンプ場最大イベントのキャンプファイヤーが始まろうとしていた。
中央に組まれた薪を中心に大きな人の円を作る。
そして、松明で着火すると、火が高く上がり、それ同時に歓声も上がる。
きれいだ。
パチパチと火がはじける音が心を気持ちよくさせ、飛び散る火の粉が心を躍らせる。
気が付くと、みんなそれぞれ二人一組になって踊り始めていた。
「優君、私と組んでくれないかな?」
「ごめん、天野さん。俺には三尹がいるから」
俺はそういい、三尹の手を握る。
すると、三尹は今にも燃えてしまいそうなほど顔が赤くなっていた。
「そっか、優君は椎名ちゃんと付き合ってるんだもんね......仕方ないよね」
悲しそうな顔をする天野さん。
でも、これでいいんだ。
天野さんは俺の初恋の人だったけど、今は自信もって三尹のことを選べるんだ。
それに天野さんの後ろにはこの瞬間にも声をかけたがっている男子たちがいるし。
顔を隠す三尹を連れて輪に混ざり歩き出す。
手をつないで歩くだけだけど、俺達にとってはこれが最高のダンスであった。
ちゃんと口で言わないと。
俺は輪から少し離れて立ち止まる。
「優くん?」
今思えば、ちゃんと口で好きといったのは水族館で告白した時だけだった。
言葉で伝えなかったら、そりゃ三尹も心配になるよな。
震える手で三尹の肩をつかみ、目をしっかりと見つめる。
こんなに緊張するなんてかっこ悪いよな。
「三尹」
「なに......? 優くん」
「俺......三尹のことがっ」
その時だった。
おーい、と実行委員を呼ぶ声が聞こえ、とっさに三尹の肩を放す。
「ごめん」
「ううん。行ってきて」
ニコッと笑う三尹になぜか心が痛くなった。
「ありがとう」
すぐ戻るから。
「おーい! 誰か実行委員はいないか?」
「はい。二組の実行委員ですけど」
「鬼寺先生のところか」
「はい。そうですが。どうしたんですか?」
「ああ、ちょっと薪がたらなくなってしまってな」
「薪?」
キャンプファイヤーの方を見ると、先ほどと比べ火が少し小さくなっていた。
「それで山野さんの屋敷の倉庫に予備の薪があるみたいだからとってきてくれないか?」
「えーそれって重労働じゃないですか」
「じゃあ、頼むな」
俺の肩にポンと手を叩き、行ってしまう先生。
今だから言える。なんで俺はこの時、ちゃんと断れなかったんだろうか。
ちゃんと断っていたらこの後に起こる悲劇を避けることはできたのだろうか。




