ダブルデート+ワン
次の日の木曜日。
話していた通り、今日は学校が休み、
「ヤッホー寂野椎です! よろしくね!」
俺達は明日への準備のために必要なものを買いそろえるという理由でショッピングモールへ訪れていた。
寂野の挨拶が終わり、前後に分かれて歩き始める。俺と三尹が後ろで、寂野は前にいる目的の天智先輩のところへ走っていった。
大丈夫かな、あいつ。とりあえず、みんなに嫌な顔はされなかったけれど、天野さんは天智先輩の彼女だからな。迷惑かけなければいいけど。
まあ、紹介するという約束は果たしたから、俺はもう気にしないで三尹と―
って、めちゃくちゃ機嫌悪い顔してる!
「三尹? 大丈夫?」
「んーなにが?」
「いや、天野さんたちもいて」
「別に。優くんがそうしたいならいいよ」
「...」
また、やばいことになっちゃったなぁ。
どこに行くっていう話になって何も思い浮かばなかった俺たちは明日には必要ないけど、水着屋に行くことになった。
水着屋にはサーフボードやリュックサック、水泳器具も置いてあり、水着屋というよりは海や夏をモチーフにした専門店みたいな感じであった。
女性陣は店に入るとすぐ、ウキウキの表情で自分の水着を探しに行った。
もうすぐ夏だし、俺も着る機会があるかもしれないから見といたほうがいいかな。
男用の水着を手に取ってみる。
最近のは派手だな。壁に貼ってある広告にも『ダサい水着とはサヨナラ』なんて書いてあるし。
......家には中学の授業で使っていたやつしかない。
買わないとまずいじゃん! 三尹にかっこいいと思ってもらうためにも!
自分の水着を探してたところ、更衣室から顔を出している天野さんに優君と呼ばれる。
「どうしたの、天野さん」
「天智先輩は?」
「えっと、あっちにいると思うけど。呼んでこようか?」
「んーやっぱいいや。それより、優君も中に入ってきなよ」
「え? って!」
返事をする間もなく、腕を引かれ中に引きずり込まれる。
中に入る間際、天野さんの生太ももが目に入った俺はとっさに手で目を隠す。
「まずいって! 天野さん!」
「別に水着姿を見るくらいどうってことないでしょ?」
「......そうだけど」
「じゃあ、見て」
天野さんにそう言われ、恐る恐る手を放す。
初めに目に入ってきたのは黒色であった。
黒色のビキニに名前は知らないが、ひらひらのやつがついているタイプの水着。
明るい色が似合いそうな天野さんだが、それが逆に天野さんを表す白色と対を成すようで、抜群なコンビネーションに見えた。
身体のラインもきれいで、くびれが......
だめだ! これ以上見たら!
「どう? 私の? 似合っている?」
「......似合っているよ」
「本当に? 優君、ちゃんと見てる?」
もっと見ろというように視線をずらす俺に顔を近づける天野さん。
狭い更衣室の中、理性を抑えながら俺はないとわかっていながら逃げ場を探す。
ど、ど、どうすれば!
その時、三尹の俺を呼ぶ声が聞こえ、俺はそれを理由に更衣室を飛び出す。
「もう、照れ屋さんなんだから」
「ごめん! 三尹、呼んだ?」
声が聞こえた方へ行き、更衣室のカーテンを開ける。
すると、そこには鏡の前でポージングをしている寂野がいた。
「あ......」
鏡越しに目が合い。気まずい空気が流れる。
これ、どうしようかな。
「もう何やっているんですか! 早く入ってください!」
寂野にそう言われ、俺はねじを回したおもちゃのように素早く動く。
なんでまた同じ展開になるんだぁああ!!
「まったく、先輩がこんな覗き魔なんて思っていませんでしたよ。優しい青井先輩という二つ名は名折れですね」
「ち、ちげーよ! 間違えただけだよ」
「へーそうなんですかー」
くっ、こいつ、疑ってやがる。
「そ、それより、どうなんだよ」
「どうって何がですか?」
「天智先輩に決まってんだろ?」
「そんなことより! レディーの水着姿を見たんですから、いうことがあるんじゃないですか!」
「ああ、そうだったな。かわいいな」
「なんですか!? その反応は!」
紫と白の水玉模様のビキニ。
こいつの特性通り、小悪魔っぽい感じを見せたかったみたいだが、天野さんの水着姿を見た後だからな。特に感動はない。
「で? そっちは?」
「本当にこのまま終わるんですね」
「ああ」
「もういいですよ! こっちは順調......と、でも言うと思いましたか? なんですか、あの人は! あんな完璧な彼女がいるなんて聞いてなかったですよ!」
そうだろうな。こいつがいくら可愛かろうが、天野さんには勝てない。天野さんはそれ以上にかわいいからな。
「ちょっと意地悪なこと言っても全然笑顔を崩しませんし、まったく入る隙がありませんよ」
「じゃあ、もうあきらめがついただろ。辛いなら帰ってもいいぞ? もともと、あの完璧な天野さんにお前が勝てるなんて思ってなかったし」
「私じゃ勝てませんか」
ちょっと言い過ぎたかな?
「いや、いい過ぎた。寂野だけじゃない、誰でも勝てないよ。天野さんには。だから心配するな」
「ふーん。妙に天野さんの肩を持ちますね」
「同じクラスで天野さんの活躍を見てきたからな。クラス委員長でできたばかりのクラスをまとめて、テニス部でもないのに代打で大会に出て活躍して......天野さんはその見た目だけじゃなくて、性格も完璧だから」
だから、こんな俺でも好きになってしまったんだ。
「なんか、まるで自分の彼女よりもかわいいって言い草ですね」
「え?」
「もう一人いる女性。椎名さんって人、青井先輩の彼女ですよね? びっくりしましたよ。青井先輩ごときにあんなかわいい彼女がいますなんて」
「おい! 今、本音出てたぞ!」
「失礼しました。でも、さっきの先輩はその彼女よりも天野さんの方がかわいくて、完璧!って、感じじゃありませんでした?」
「それは......」
確かに頭の中で無意識にそう思ってしまっているかもしれない。
でも、俺が好きなのは三尹であって、もう天野さんは......
「それに! 私諦めてないですから! まだまだアタックしていきますよ!」
その後、急いで三尹がいる更衣室を探した俺だったが、見つけた時はすでに呼ばれてから十分ほど過ぎてしまった後だった。
「もう遅い! 何してたの!」
「ごめん、ちょっとあって......」
変にごまかしても三尹が不安になるだけか。
「二人の水着姿を見ていました。ごめんなさい」
俺は頭を下げ真面目に謝る。
「正直に言っても許さないんだから」
しかし、簡単に許してくれるわけなかった。
どうしよう、なんて言えば。
そうだ!
「三尹の漫画、読んだよ」
「え? ど、どうだった?」
「おもしろかったよ。三尹が俺のことをそう思っていたなんてびっくりしたよ」
嘘は言っていない。面白かったのもそうだし、びっくりしたのも違う意味で。
「そっか。それはよかったです」
顔をリンゴみたいに赤くしてモジモジしだす三尹。
俺はここぞばかりに水着姿を褒め始める。
「それ、すごく似合ってるよ。今度、二人で海に行こうね」
「うん!」
確かに水色の控えめの水着はかわいくて似合っているんだけど......
天野さんみたいな感動があるわけではなかった。
まあ、三尹の機嫌が取れたならそれでいいか。
水着屋を出た後、他にもいくつか店を見てフードコートで休憩をすることになったんだけど、突然俺は天智先輩に呼び出される。
「どうしたんですか、急に」
「青井、お前は愛名と仲がいいから聞くが」
愛名、天野さんの下の名前だ。
もう下の名前で呼ぶようになったんだなぁ、なんて思いながら話を聞いているとそのことよりも驚く話が出てくる。
「今日この後、サプライズで愛名にこれをプレゼントしようと思うんだが」
そう言って、天智先輩が取り出したのは小さな宝石が付いた指輪であった。
そうか。今日は天野さんの誕生日であった。
やっぱり、むかつくけどいい彼氏だな。この人。
ありえない話だけど、自慢しているのかと疑うくらいだ。
「いいんじゃないですか? 天野さんはいい人ですから何あげても喜んでくれますよ」
「そうか。それならよかった」
安心した顔しやがって。
そんなものもらったら、誰でもうれしいに決まっているのに。
そんなひねくれたことを考えている自分を軽蔑しながら俺は席に戻ったのであった。




