後輩
あれから二日が経った。あれというのは、三尹から漫画を受け取った日のことだ。
日に日に三尹の感想を期待する目は大きくなっていくんだけど、俺は未だにそれに応えれていなかった。
とっくに読み切ったんだけど、内容が内容だからな......
この気持ちをなんて伝えればいいんだ。
三尹の描いたストーリーは主人公で王子の俺が姫である三尹を助けに行くといった中世風の恋愛物語であった。
絵や話はとても面白くていいんだけど、自分を主人公だと考えて読むと、なかなかときついものがあった。
「まあ、いつまでも先延ばしにしていても三尹に悪いし、腹を決めるか」
放課後、脇にノートを挟みながら図書室に向かうため廊下を歩く。
付き合い始めた後も図書室で待ち合わせをしているのは、結婚後の夫婦がたまの休日に家から直接行くのではなく、待ち合わせをしてデートをするのと同じ感覚なのだろうか。
というのも、俺の両親がそのタイプだったんだけど―
その時、すれ違いざまに向かいから歩いてきた女子と肩がぶつかってしまう。
「あ! すみません」
見慣れない顔。上級生かな?
手を差し伸べ、「大丈夫ですか?」と声をかける。
しかし、彼女がつかんだのはぶつかった際に落とした三尹の漫画ノートであった。
「人質もーらい」
「は?」
すると、急に立ち上がり、まるで俺からノートを取り返されないように距離をとる女の子。
「青井優、今からお前に人質交換を命じる!」
指をビシッと俺に向け、勝ち誇った顔をする。その表情はどこかで見たことがあるような気がした。
「なんで、俺の名前を......って! お前、うちの生徒じゃないだろ!」
そのことに気づいたのは立ち上がって制服の全貌が見え、すぐに違和感を覚えたからだ。何より、その制服は俺の母校のものであった。
こいつ、俺の後輩だ!
「流石っすね先輩。すぐに感づくなんて」
「感づくも何も全然見た目が違うだろ。てか、それ返せよ!」
うちの高校の女子の制服は紺色のブレザーに赤い蝶ネクタイだ。それに比べ中学の制服は、今は珍しいチェック柄のセーラー服だ。
見ればすぐにわかる。
「じゃあ、返します」
「返すのかよ!」
あまりにも素直な受け答えに俺はずっこける。
返すなら最初からとるなよな。
「あまり中を見られたくないようですし。それに、優しい青井先輩ならそんなことしなくても私のお願いを聞いてくれますよね?」
さっきからこいつ、俺のことを?
小柄な身長に茶髪の短いツインテール。その小さな体と小悪魔的な顔をする彼女はまるで守ってあげたい子猫のような気分にさせてくる。
でも、わからない。中学に親しい後輩なんていなかったはずだけど。
「なんだよ。お願いって」
「簡単なことですよ。天智先輩を紹介してほしいんです」
どいつもこいつも天智先輩、天智先輩って!
「へぇーそうか。で、まずお前は誰なんだよ。誰から俺のことを聞いたんだよ」
記憶にないってことは、中学の俺の知り合いの誰かから俺のことを聞いてきたってことなんだろう。
それにしても誰だよ。俺と天智先輩が仲いいって言い振り回している奴は。
「亮介先輩です」
あいつかぁぁぁぁぁぁぁあ!!
こんなことしてくるなんて亮介らしいな。
......早くあいつとも仲直りがしたい。
「亮介先輩があいつは優しいから手伝ってくれるって」
「もうわかったから。君の名前は?」
「えーっとねー」
なんだ? 名前を明かすかどうか悩んでいるのか?
「私の名前は、寂野椎。よろしくね? せんーぱい」
いたずらな笑みで甘くささやく寂野に俺は不覚にも頬を赤らめてしまうのであった。




