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キャプテンイタリアン

 次の日、目が覚めた俺は遅刻寸前なことに気づき、鬼寺先生の家を飛び出した。


 起きた時にはすでに先生の姿はなく、置手紙と共に鍵がテーブルの上の置いてあった。


『これで閉めろ 渡しにこい』


 簡易な文章を読んだ俺はすぐに行動に移したのだったが、時すでに遅しであった。


「遅刻とは言い度胸だな。青井」

「すみません」


 そういうんだったらなんで起こしてくれなかったんですか! なんてことはこの場では言えない。みんなの前でそんなことを言ってしまったら、大問題になってしまう。


「もういい、座れ」

「......はい」




 朝のホームルームが終わり、ため息をついていると三尹がやってきた。


「大変だったね」

「ん? ああ、うん......って、え?」


 何事もなかったかのように普通に話しかかてきたから忘れていたけど、俺達喧嘩したんだったよな?


 申し訳なさそうな顔をしてうつむいている三尹。その様子からカンカンに怒っているというわけではなさそうであった。


「優くん、ごめんね。昨日は、取り乱しちゃって」

「いや、勘違いさせるようなことをした俺が悪いんだし、謝らなくていいよ。俺こそ、ごめん」


 恋人と喧嘩したことなんてないから、どのような態度をとればいいかわからなかったけれど、自分の気持ちをちゃんと伝えてよかったのだろうか?


「...」

「...」


 んーわからない。三尹も謝ってから何も言わないし、お互い謝ったから仲直りってことでいいんだよな?


「じゃ、じゃあ! これで仲直りってことでいい、かな?」

「う、うん! これで、終わりだね」


 ふぅーよかった。それにしても、これっていわゆる痴話喧嘩ってやつだよな? これからこんなことが度々続いていくのかな? それはそれでやだな......


「あのね!」


急に話を切り出すように机に手をつく三尹に、俺は思わず「どうした?」と声を出す。


「新しく書き始めた漫画はまだ描き終わってないんだけど......前に描いたものも、今なら見せてもいいかなって思って......」


 よく見ると三尹の胸には一冊のノートが抱えられていた。


「ありがとう。読んでおくよ」


 ノートを受け取り、表紙を見る。


 青井くん物語......?


 それを見て俺は複雑な気持ちになる。


 いったい、いつから三尹は俺のことが好きだったんだ?


「感想は帰りに―」

「あ、ごめん。今日用事があるんだ」

「そっか......じゃあ明日――」




放課後、早速俺は用事を済ませるために一人、歩道を歩いていた。


 向かう先は繁華街から少しそれた社宅や団地が多い住宅街。


 預かっていた鍵を使い家の中へ入る。そこは表札でもわかっていたが、まごうかたなき鬼寺先生の部屋であった。


「やっぱり俺、昨日ここで」


 告白されたんだよな?


 俺が寝た振りをしていたから成立はしていなかったが、それは正真正銘の告白であった。


 それも、色々と。


 キャプテンイタリアンさんと先生は姉妹ではなく、同一人物だった? そんでもって、俺のことが好き? どんな夢物語だよ!


 でも、こうして鍵があって家の中へ入れるってことは、昨日の出来事は疑いのない真実ってことになる。


「そうだ! なにか、なにか二人が同一人物っていう証拠は......」


 二人が繋がる何か。鬼寺先生には申し訳ないが、それを探すために俺はタンスや引き出しをあさりだす。


何かと言っても、キャプテンイタリアンさんとは一回しか会ったことがないし、何かがあったとしても二人は同じ部屋に住んでいるわけなんだから、二人が同一人物だという証拠にはならない。


 あ! 


 下着......


 赤、黒、ピンク、紫......は!


 我に戻った俺は煩悩を断ち切るように勢いよく引き出しを閉める。


「はあ、はあ、はあ、危なかった。吸い込まれてしまうところだった......ん? なんだこれ?」


 勢いよく閉めたせいでタンスの上にあるものが落ちてきてしまったのか、頭の上に黄色い何かが覆いかぶさる。


「これは!」


 それは黄色い髪の毛。いや、金髪のカツラであった。


「これは、キャプテンイタリアンさんの......」


 わざわざ、姿を偽っていた意味。それはつまり、鬼寺先生が架空のキャプテンイタリアンさんの振りを? 


 あの妙に似合っていないサングラスもそのために?


 認めざる負えなかった。


「キャプテンイタリアンさんは鬼寺先生なのか......」


 事実を認めたわけだったが、不思議とショックや、悲しい気持ちにはならなかった。


 むしろ嬉しいという気持ちの方が大きかった。


 キャプテンイタリアンさんとは、ネット上で知り合った仲であったが、俺の中の存在はそれだけには収まりきらず、何でも話せる親友のような間柄と感じていた。


 だから、その存在が近くにいると考えると、




「なんでここにいるんだ」

「氷代子さんがカギを渡しに来いって言ったんじゃないですか」

「ここで待っていろといっていないだろ!」

「それより、早くゲームしましょうよ。待っていたんですから」

「くっ! お前まさか、ここに入り浸るつもりか?」

「キャプテンイタリアンさんが帰ってくるまではここに来ます」

「お、お前!」

「優って呼んでくれないんですか? キャプテンイタリアンさんは呼んでくれたんですけど」

「むぅぅぅ、優! いい加減にしろよ!」


 我慢の限界に来た先生が、ヘッドロックをかけてくる。


「いたい! 痛いですよ!」

「調子に乗った罰だ!」

「ギブ! ギブです! 先生!」


 少し意地悪かもしれませんが、全部知っていることは内緒にしたまま、しばらくは一緒にいさせてもらいますよ。


 鬼寺先生。



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