お家
睡眠薬もりもり
無駄な思い付きとテンションが上がったノリで先生の家に行くことになったが、実際に行ってみると......
気まずい!
部屋の中の生活感が丸出しになってリアルだし、何より部屋着が可愛すぎて直視できない。
あんなもこもこのパーカーを着ているなんて、学校とのギャプが激しすぎでしょ!
「キャプテンイタリアンさん、もう少しで帰ってきますよね?」
「そ、そうだな」
よし! 二人きりじゃなくなればこの空気も良くなるだろう。あとはキャプテンイタリアンさんが帰ってくるまでこの場をつなげれば。
「氷代子さんも、よくゲームをしたりするんですか?」
「そーぉだな。私もたまにするが......」
「じゃあ、待ってる間二人でやりましょうよ。帰ってきたら俺と氷代子さんがゲームしてたら面白いと思いますし」
「......いいが」
こうして二人で野原行動をすることになったのだが......
全然帰ってこない!
もう三戦目に入るんだけど!
このゲームは最後まで生き残ると一戦、三十分くらいあるから結構時間経ってることになるんだけど、俺達は無言でモクモクやり続けちゃってるよ!
「やっぱり、姉妹なんですね。キャプテンイタリアンさんとプレイングが似てますよ」
「そ、そーなのか?」
「はい。そっくりです」
「そういえば、前に一度、あまりに似ているんでお二人が親類なのか聞いたことがあるんですけど。その時は親類に鬼寺はいないって言っていましたよ。やっぱ、苗字を知られたくなかったんですかね」
「......」
「まあ、キャプテンイタリアンさんはキャプテンイタリアンさんなんで、名前を知っていてもいなくても変わらないですけどね」
「部屋ってここだけですよね? じゃあ、いつもここで俺と電話しているんですか!? 会話駄々漏れじゃないですか!」
「......まあな」
「このコーヒーおいしいですね」
「ああ」
「何使っているんですか?」
「普通の市販だ」
やばい! 全然話が続かない!
学校では荷物を持ったり、いろいろ手伝いをさせられているが、それ以外に接点はないし、会話もしたことがなかったんだった。
早―く! キャプテンイタリアンさん! 早く帰ってきてー!
「珍しく残業でもあるんですかね。なかなか帰ってきませんね。もう先にケーキ食べちゃいます? 流石にそれは――」
「妹な、お前のこと好きっていっていたぞ」
「ふぁ?」
場を和ませるために適当に冗談でも言おうと思ったら、爆弾が落ちてきたぞ?
「も、もちろん、生徒として好きだという意味もあるが、普通に男としても好きだし、彼女ができてショックだって......」
「ん? 生徒?」
「なっ! ほ、ほら! 青井、お前よく妹に相談してただろ! そういう意味じゃないか?」
「でも、俺達一回しか会ったことが......」
「一回じゃない!」
「え?」
「あ......遠くから何度か見たことがあると言っていたぞ?」
「そ、そうだったんですか」
キャプテンイタリアンさんが俺のことを好きだったなんて。でも、それだったらなんであんなに相談に乗ってくれたんだろうか。
「それでどうなんだ」
「どうって」
「聞いたお前の気持ちだよ!」
「そうですね......」
俺の気持ち......か。
もちろん好きと聞いて、「はい、そうですか」で付き合うこともできない。三尹もいることだし。
それに、キャプテンイタリアンさんが俺のことが好きなんてやっぱり信じられない。直接、キャプテンイタリアンさんの口からきかない限りは。
「やっぱり信じられないです。キャプテンイタリアンさんのことは、俺も先生のような気持ちで思っていたので」
「そうか......なら、しょうがないな」
「はい。それに、キャプテンイタリアンさんは氷代子さんにも告白をしろと言っていましたよ」
「それは......花を持たせてくれたんじゃないか? 私が認める男をお姉ちゃんに的な?」
「姉思いな妹なんですね......キャプテンイタリアンさんは」
「......」
やばい! さっきよりも空気が重くなったじゃん!
これ、キャプテンイタリアンさんが帰ってきたとしてもこの空気は直らないぞ! むしろ悪化しないか? こんなこと聞かされたら意識せざるを得ないでしょ!
ここはいったん帰って、お礼は改めて後日にするか。
「すみません。今日はやっぱり帰りますね」
俺は帰ろうと荷物に手をかける。しかし、立ち上がろうとした瞬間、めまいがして机に手をついてしまう。
☆
倒れそうな青井に私はすかさず手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「すみません。今日疲れてて」
疲れ? それもあるのかもしれないが、理由はそれだけじゃない。
休憩がてらに入れたコーヒー。その中には調節された微量の睡眠薬が入っている。だから、すぐに眠りはしないが、眠くて体はだるいはずだ。立ち上がるのにも力がいるくらいにな。
ふふふ、逃がさない。逃がさないぞ、青井。
こうなったら、私の気持ちを伝えきるまでは家に帰さないからな。
「疲れてるなら、帰るのは休憩してからでもいいんじゃないか? 腹も空いただろう。何か作ってやるから」
「え? いいんですか?」
「言っておくけど、適当に作ったものしかできないからな。あまり期待するなよ?」
「いえいえ、期待して待ってますよ」
「まったく」
やれやれといった素振りで私はキッチンに消えていく。内心はガッツポーズだが。
よし、これで延長完了だ。あとはどうやって私が青井のことを好きだと証明するかなのだが......
何をやっているんだ私は必死に! 二十五にもなって年下相手に踊らされて!
まあ、恋愛は好きになった方が負けだというしな。もう、一人二役でも、睡眠薬を一服盛ることでも、何でもやってやろうじゃないか!
二十分後。
「ほら、できたぞ」
適当に作りあえたものではなく、ガッツリ本気で作った生姜焼きを青井の前に置く。
「めっちゃおいしそうじゃないですか!」
そうだろ? そうだろ?
「建前はいいから冷める前に食べろ」
「いただきます」
一切れサイズをパクリ。大丈夫だろうか。ちゃんと満足してくれるだろうか。
「や、やばいです」
「え?」
体を振るわせている。もしかして、まずかったのか?
「めっちゃうまいです!」
「そ、そうか?」
「はい! 全然いけますよ!」
よかった。私の一番得意な料理だからな。
「でも、やっぱりこんなにおいしいとご飯もほしくなりますね」
「ふん、そういうと思って温めておいたぞ」
「まじですか! ありがとうございます!」
流石に炊飯器で炊く時間はなかったが、うちは非常食用にサ〇ウのごはんを常備しているからな。用意することは可能だ。
これでかなり胃袋はつかめたはずだ。あとは色々告白するだけなんだが......
「それにしてもキャプテンイタリアンさん、帰ってきませんね」
これだ!
脳内シュミュレーション
『それにしてもキャプテンイタリアンさん、帰ってきませんね』
『キャプテンイタリアンは帰ってこないぞ』
『え? どういうことですか?』
『なぜなら......キャプテンイタリアンは私だからな!』
脳内シュミュレーション終了
これなら完璧だ。
「氷代子さん? 氷代子さん?」
「ん? ああ、なんだ」
「大丈夫ですか? ボーっとして」
「もう一回言ってくれ」
「え? 大丈夫ですか、ボーっとして」
「違う! その前だ!」
脳内シュミレーションは完璧だ。あとはミスせずに完遂するだけ!
「ええ。それにしても、キャプテンイタリアンさんは帰ってきませんね? でしたっけ」
「キャプテンイタリアンは帰ってこないぞ」
「え? どういうことですか?」
「なぜなら......」
いけ! 勇気を出せ私!
「なぜなら......なぜなら、キャプテンイタリアンは!」
「はぁ」
「じ、実家にぃ帰ってぇいる......からだ」
このへなちょこ野郎め!
「そうだったんですか! なんでもっと早く教えてくれなかったんですか!」
「それは......」
すると、青井は立ち上がり玄関に、
と思ったが、自分のバックを持たず、向かった先はキッチンであった。
「青井、帰らないのか?」
「そりゃ帰りませんよ。夕飯をごちそうになったわけですし。それに、お礼とは言いませんが、皿洗いくらいはやりますよ」
そう言って、後片付けを始める青井。その姿に私はたまらずへたり込んでしまう。
年下のくせに気使いやがって......
まあ、そういうところがいいんだけどな。まったく。
その後、キッチンの後片付けやテーブルの掃除が終わった私たちは互いに携帯をいじっていた。
「なあ、青井。なあ、青井。聞いているか?」
「なんですか?」
「実は話したいことがあって」
もう別に緊張することも強がることもしなくていいじゃないか。息を整えてちゃんと話そう。
「青井、あのな......私、本当はキャプテンイタリアンの姉じゃないんだ。私自身がキャプテンイタリアンなんだ。青井......驚いたか? だましていた私を許してくれ」
......って!
「寝てんじゃねえか!!」
あまりにも反応がないと思ったら今頃睡眠薬が完全に回りやがった! 何で今なんだ!
「ああ、もう! 寝ているなら言うからな! 私は諦めないからな! 絶対にお前の彼女になってやるからな!!」
「まったく、なんで私の恋愛はこうもうまくいかないんだ!」
私は寝ている青井の寝顔を盗撮し、それで許すことにした。
☆
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
あっぶねえ? なのか?
先生が急に「実は話したいことがあって」なんて言ってきて、シリアスな空気にするもんだから、怖くなって寝たふりをしたんだけど......
鬼寺先生がキャプテンイタリアンさんの正体? そんでもって「絶対にお前の彼女になってやるからな」?
とんでもないことを盗み聞きしてしまった気がする。これが盗み聞きと呼べるのかわからないけど......
なんだか、考えていたら本当に眠く......なってきた。
もう寝てしまお......う......




