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忙しい放課後

「優君。もう、お迎えに来てくれないの?」

「......うん。ごめんね」

「お兄ちゃんのせい?」

「それは......違うよ。他にしたいことができたんだ。亮介のせいじゃないよ」

「ちゃんと仲直りした?」

「......うん」

「じゃあ、また優君がお迎えに来てくれるの楽しみにしてるね」


 明莉ちゃんは笑ってお迎えをやめることを許してくれた。亮介の家の様子で俺たちが仲直りしてないことも恐らく知っているはずなのに。だから、やっぱり明莉ちゃんには申し訳ないと思うし、俺なんかよりもよっぽど大人なんだと思う。


 少し後悔は残るが、円満な形で話を終えたことに安堵していたところに一本の電話が鳴る。


『もしもし、優くん?』

「三尹! ごめん! 連絡もしないでいなくなって!」

『それはいいんだけど......何してたの?』

「ごめん、急用ができて」

『急用って何?』


 いつもと様子が違う。いや、怒っていて当たり前なんだけど、それだけじゃない「何か」が感じられてきた。


「......明莉ちゃんに――」

『嘘だよ!!』


 耳を疑うような突然の奇声、俺はとっさに携帯を耳から遠ざける。


「三尹?」

『明莉ちゃんなんて嘘! 見たもん! 優くんが天野さんの手を引いて本屋から出ていくとこ! どうして嘘つくの!』


 見ていたのか......でも、嘘をついているわけじゃない。ちゃんと説明すれば――


「三尹、ちゃんと聞いて。それは天野さんと話すためにいったん外に――」

『嘘だよ! 優くんはそのまま帰ってこなかったじゃん!』

「それは――」

『嘘だよ! 嘘だよ! 嘘だよ! 優くんが言ってることは全部嘘!!』


 だめだ。全く、聞き入ってくれない。どうすれば、


『......優くんは私じゃなくて天野さんが好きなの?』

「違う! 俺は天野さんじゃなくて三尹が好きなんだ!」


 それだけは絶対に違うと自信もって言えた。それだけ、悩んで苦しんだから。


 しかし、ツーツーツーと心虚しく電話は切れてしまい、誤解が解けたのかわからないまま一方的に会話は終了してしまった。


「三尹......」


 少し疲れたな。三尹も今は冷静じゃないようだし、明日誤解を解けばいいか......


 重い足取りで帰路につく。


 が、その帰り道、見覚えのある姿を見かける。


 金髪に眼鏡の先。あれは、


「キャプテンイタリアンさ――」


その人をキャプテンイタリアンさんだと思い、声をかけようとしたところ、俺は後ろから手を引かれる。


「何をしている。その人はキャプテンイタリアンじゃないぞ」





「何をしている。その人はキャプテンイタリアンさんじゃないぞ」


 とは言ったもの......


 どうしよう! 青井が私と勘違いしていると思って声をかけたんだが......


 なんて言い訳しよう!


 ああ、青井もなんで? と言いたげな顔をしている。そうだよな。担任の先生が自分のゲームフレンドの名前を知っていたらそうなるよな? でも、少しは私がキャプテンイタリアンなのか? って疑ってくれてもいいんじゃないかな?


「なんでキャプテンイタリアンさんを知っているんですか?」


 やばい! ストレートできた! 


どうしよう、どうしよう、どうしよう!!


「実は、」

「実は?」

「......私は、キャプテンイタリアンの姉なのだ!」

「ええ!?」

「どうだ! びっくりしたか! わっはっはっは!」


 やってしまった...... こんなの通用してくれるわけ、


「そうだったんですか。だから、俺に特別厳しかったんですか」

「そ、そうだ。差別していたわけじゃないからな」


 なんか、納得してくれているし。こうなったら、突き通すしかない!


「妹からよく話を聞いているぞ。一緒にゲームをしているって」

「そうなんですか。俺も先生の容姿が妹さんと似ていると思っていたんですよね。職業も一緒だし、似ている雰囲気が......」


 な、なんだ! そんなに目を細めて。やっぱりばれたのか!?


「本当に似てますね。キャプテンイタリアンさんの首にもホクロがありましたよ」


 なんだ、ホクロか。よかった。


「氷代子さんって」

「ふぇ!?」

「な、なんですか!?」

「い、いや、氷代子さんって」

「学校の外だから先生よりもさん付けの方がいいかなって思ったんですが......あ、やっぱり下の名前で呼ぶのはまずかったでしょうか」


ま、まったく、こいつはぁぁ!!


「ま、まあ、校外ならいいだろう」


 氷代子さんか。悪くない。


「それで話戻るんですけど、氷代子さんとキャプテンイタリアンさんって一緒に住んでるんですか?」

「なっ! なんでそう思った?」

「こないだ会うときに待ち合わせしたところも、ここの最寄り駅でしたし。氷代子さんもここにいるってことは家に帰る途中ですよね」


 ここは駅から少し離れた住宅街。確かに青井が言っていることはあっているのだが、どうするか......


「そうだ。妹とは一緒に暮らしている」


 こう言っても問題ないだろう。別に家に来るわけじゃないし。


「やっぱりそうなんですね!」

「ああ」

「氷代子さんには迷惑になっちゃうと思うんですけど......今日家に行っちゃだめですかね?」

「はぁ!? ダメだ! ダメだ! いいわけないだろう!」


 そんなことになったらキャプテンイタリアンが存在しないことがバレてしまう!


「そうですよね、無理言ってすみませんでした」

「そうだ、無理だ」

「はい」


 むぅ、そんな露骨にしょんぼりされるとな。


「どうしてだ?」

「え?」

「理由は?」


 訳を聞くぐらいならいいだろう。


「彼女ができたことのお礼をちゃんとしていないので、しようと」


 ふ~ん、いいじゃないか。


「それに今まで氷代子さんのことを黙っていたお返しに家で待っていてドッキリをしようと」

「そうか......じゃあ、いいぞ」

「え? いいんですか? よっしゃあ! じゃあ、ケーキでも買っていきましょうよ!」

「そうだな」


 中々いいじゃないか。家に帰ったら青井がドッキリでお祝いしてくれて。その後はケーキを食べながらいつも通り一緒にゲームをして......って、それじゃあ、鬼寺氷代子はどうする!?


 どうやら、これから一人二役というミッションインポッシブルをする必要があるみたいだ......



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