ホームルーム
ここまで読んでくれている人はどれだけいるんでしょうか?
皆様の存在がやる気になります。
すがすがしい朝。月曜日をこんなに快く迎えたのは初めてだ。学校に行くのが楽しみ。早く三尹に会いたい。
その願いはすぐに叶うことになり、俺達は下駄箱の前で顔を合わせた。
「おはよう。優くん」
「お、おはよう。三尹」
ただ挨拶してるだけなのにすごく照れる。この調子じゃまともに会話なんてできないぞ。
「大丈夫? 疲れ残ってない? ちゃんと寝れた?」
「うん。大丈夫だよ」
キャプテンイタリアンさんとのゲームも一戦でやめたし、休息はばっちりだ。てか、そんなこと聞いてくるなんて三尹は優しいなぁ。
「そっか」
「三尹は?」
「私も......あ、亮介君。おはよう」
三尹のそれで後ろに亮介がいることに気づく。
俺はいったいどんな声をかければいいのだろうか? 迷惑かけて「ごめん」? 何もなかったことのように「おはよう」? それともおかげで三尹と付き合えたよ「ありがとう」?
「......」
結局、俺が声をかける前に亮介は何も言わないまま行ってしまった。三尹も俺たちが喧嘩していることなどつゆ知らず、「どうしたんだろう?」とつぶやくほどだった。
どうしたら、亮介と仲直りができるんだろうか? 亮介が受けたものは俺と三尹の勝手な都合に振り回された嵐のようなものだ。挙句の果てに俺たちは付き合っているし。どう謝ればいいのだろうか? 謝り方が見つからない。いっそ、もうこのまま関わらない方がいいのだろうか......?
朝のホームルームが始まり、前で鬼寺先生が大雑把な今週の予定や保健室の先生の有無などを説明している。
しかし、今日の先生は覇気がないというか、元気がないように見えた。「以上だ」と説明を終え、先生が教室を出ていく。
心配になった? のか、俺はその後を追う。
「氷代子先生、今日は荷物持ちしなくていいんですか?」
俺がそう言うと、先生はゆっくりと立ち止まり振り向く。
「青井......教師を下の名前で呼ぶな」
「え?」
堕落しきったしゃべり方もそうだが、近くじゃないと気が付かなかった目の下のクマに俺は驚く。
「荷物も、もう持たなくていい」
虚空を見つめるような目で先生は再び歩き出す。
「どうしたんですか!」
「どうもこうもないだろ......最初から」
「先生......?」
元気がっていうレベルじゃないぞ。これは。
「それと......これやっといてくれ」
「これって」
渡されたものは来週に予定されてる校外学習の班決めの紙であった。
やっといてくれって、一限目のホームルームでか?
「なんで俺が? クラス委員長とかに任せばいいじゃないですか!」
「じゃあ、お前が実行委員だ」
「そんな......」
教室に戻ると三尹が心配そうに寄ってくる。
「どうしたの? 急に飛び出して」
「ちょっと、鬼寺先生に用があってね」
「へーそうなんだ」
何かありそうな反応して。どうしたんだ?
「何かあった?」
「ううん。ただ、優くんは鬼寺先生のことを鬼教師って呼ばないんだなって思って」
このクラスの男子は鬼寺先生の厳しい指導と名前からとって、鬼教師と呼んでることが多い。流石に面と向かっては呼ばないが。
この規模までいったら、鬼寺先生自身の耳にも噂は入ってるんじゃないんだろうか。それをわかっていながら影で言い続けるのはちょっとな。
「やっぱり、失礼かなって思って。おかしい?」
「ううん。そういう優しいところが優くんのいいところだから」
「そ、そうかな」
そんなこと言われると恥ずかしいんだけど。
「優くん、それは?」
もちろん、三尹が言うそれは班決めの紙のことだ。
「先生に頼まれちゃって」
俺は紙を渡す。
「校外学習の班決め? 優くん! 一緒の班になろうよ!」
「そうしたいんだけど、難しいんじゃないかな。この班はキャンプとかとの同じ班だし」
俺達が行う校外学習は山に登りキャンプを一泊するというもので、目的は自然の中の共同作業でクラスの仲を深めるというものだった。
同じテントで一晩過ごすなんて、いろいろ無理に決まってる!
「そっか、残念だね」
「うん。じゃあ、そろそろだから」
時計を見てもうすぐチャイムが鳴ることを確認した俺は教卓の前に行く。
この歳になれば「席についてください」なんて声をかけなくても、チャイムが鳴ればみんな自然に席に着いてくれる。厳しい鬼寺先生の指導のせいかもしれないが。
なんでお前がそこに? といった顔で俺を見つめるみんな。俺は早く誤解を解くためにさっさと説明をすることにした。
「これから、来週の校外学習の班決めをしたいと思います。鬼寺先生の体調が悪そうなので代わりに俺が指揮を執ります」
「鬼教師の体調が悪いからってなんでお前が?」と言うただの真面目くんAごときが指揮を執ることに不満そうな陽キャAがいたが、「鬼寺先生に任命されました」と言うと、でしゃべってきたクラスのモブを見る目からパシられてかわいそうだなという悲観の目に変わった。
「女子の実行委員は決まってないんだよね? じゃあ、私がやってもいいかな?」
そう名乗り出たのは、天野さんだった。
「いいよね? 優くん?」
「う、うん」
元々、クラス委員長である天野さん。性格や人柄も相まって反対する人などいるはずなかった。三尹はなぜか俺をにらんできたが。
青井うらやましいなとつぶやくクラスメイト達。普通ならこうなった場合、天野さんの隣を争って、男の方の決め直しが起きるのだけど、鬼寺先生に任命されたという事実が俺を守ってくれたみたいだ。
「じゃあ、私達が進行していくんだけどー進行するっていうほど内容ないね! じゃあ、自由に班決めしていいよー!」
天野さんが促すとみんなは席を立ちグループを作り始める。
「一班三人だからねー!」と言い、手を振る天野さん。その姿はやっぱり流石だなって思う。天野さんはどうしてこんなに人当たりがいいのだろうか?
やばい、そんなこと考えている暇なかった。天野さんは人気者だからいくらでも組んでくれる人がいるのかもしれないが、俺はそうはいかない。唯一の友達の亮介とも喧嘩中だというのに。
「じゃあ、私達は実行委員で同じだといろいろ便利なわけだし、同じ班になろっか」
「は?」
何も問題ないようにニコッとする天野さん。だけど、クラスのみんな(主に三尹)は問題大ありのようだった。
「それはおかしいだろ!!」
「青井がずる過ぎる!!」
「実行委員の決め直しをしろ!!」
「お前そうやって天野さんを!!」
教卓まで詰め寄り、抗議をする男子たち。その光景は欲望がむき出しの阿鼻叫喚だった。
「ちょ、ちょっと押さないで」
俺は握手会で詰め寄るファンからアイドルを守る警備員のように手を広げる。一方、天野さんもアイドルのように怖がりながらそれを見守ってた。
ちょ、ちょっと、天野さん!? そんなこと言ったらこうなることくらい予想できたでしょ! 見てないで、た、たすけ......おぼれる―
「お前らやめろよ!!」
その怒鳴り声を上げたのは......亮介だった。
「そいつがいくら馬鹿だからってお前らが考えているようなことは流石にしねえだろ。鬼教師が決めた実行委員だろ? だったらルールを決めるのなんてこいつらの自由だろ。それにそんなに女子と同じ班になりたいんだったら、他の女子となればいいじゃねえか。まあ、そんな度胸があればな」
普段、俺の前では陽気な顔を見せる一方、一人でいる時は徹底して一人狼を貫いている亮介。その風格に反論ができる奴はいなかった。
「ずるいよ!」
いや、一人いた。
「優くんと同じ班になろうって先に約束してたのは私なのに!」
ちょっと、三尹さん!? 約束はしてないし、今そんなこと言ったら......
「っち」
ほら! 舌打ちが聞こえた!
「じゃあ、椎名ちゃんも同じ班になろ! それならいいでしょ?」
「う、うん」
いや、まだ不満そうなんですけど。ってなんで俺をにらむ!?
「そういうことで! 私達のクラスは男女、同じ班、オッケーです! さあ、散って、散って!」
「ちくしょー」、「青井ずりーな」とぼやきながら教卓から離れる男子たち。
これ一番、損したの俺じゃない? クラス中のヘイトを買った気がする......




