三尹
駅に隣接して並び立っているショッピングモール。ここは、この辺では少ない映画館が複合していることや周りに学校が多いことから、平日休日問わず人が賑わうことで有名だ。
そんな場所の中、俺は美少女二人と手をつないで歩くという暴挙に出ていた。
なんでこうなったんだ......
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土曜授業。最近では午前中だけだが、土曜日でも授業をするのが当たり前になっている。
いつもよりも早く終わる学校。部活などがない学生にとっては恰好の遊び日和なのだが......
「すまん!」
それだけ言い、頭を下げ続ける亮介。その姿から理由は言わなくてももうわかっていた。
「部活があるんだろ? じゃあ、しょうがないな」
今日は亮介の入ってるバレー部が土曜日に休みがあるということで約束した会だったんだけど。部活を休むことが大罪だということは俺も知っているからな。それに椎名と仲良くなりたがっていた亮介が一番残念がってると思うし。
「ホントにすまん! 椎名さんも、ごめん!」
「部活があるならしょうがないよ」
「また、来週にするか」
「そうだね」
椎名もうなずいているし、それがいいだろう。三人でお昼を食べ始めて仲良くなり始めている流れを断ちたくないし。
「いや、二人で遊んできてくれ。せっかく約束してきたのに、椎名に悪いし。な? 優、いいだろ?」
「いや、俺は別にいいけど」
チラッと横目で椎名の反応を見ながら俺は思考をめぐらす。
このままだと椎名と二人きりという状況にならないか? それは想定していた気持ちだとゲージが耐えられないぞ。目標は達成しやすくなるが......
しかし、俺の答えが出る前に椎名の答えが出ることになった。
「せっかくだから、私も青井くんと遊びたいかな。青井くんは私と二人じゃ、だめ?」
上目づかいで小動物のように頼んでくる椎名に俺は首を横に振ることしかできなかった。
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「それでなんで俺たちは手をつないでいるんですか? せんせっ、明莉ちゃん」
「仲良しさんは手をつながないとだめなんだよ」
「せめて俺を真ん中にしないでくれよ! 恥ずかしい!」
亮介に頼まれて保育園で明莉ちゃんを迎えて一緒に行くことになったから、結局二人きりじゃなくなったんだけど。これはこれできついな。
「だーめ。優君は私と椎名ちゃんとつなぐの」
「罰ゲームか!」
なにより、今日椎名を誘って下の名前で呼べるようになるまで帰ってくるなっていったのは明莉先生だからな。俺は勝手に亮介も誘ったけど。
あれから、俺は迎えにいくたびに公園のベンチという恋愛相談室で齢五歳、明莉先生によるご指導を受けていた。
今回もその罰なのか、まさか亮介に頼んでついてくるなんて。てか、あいつまた妹に今日のこと話してたのかよ。全部筒抜けじゃん!
「それにしても、上谷君にこんなかわいい妹さんがいたんだね。少しうらやましいな」
「椎名は兄弟いないの?」
「うん。一人っ子なんだ。青井くんは?」
「俺も一人。兄弟がいるのは憧れるよね」
「そっか、青井くんも一人っ子なんだ。一緒だね」
距離の近さによる気持ちの高ぶりを抑えながら、俺は冷静にベロを回す。
ついてくるということは俺が椎名を下の名前で呼ぶことを手伝ってくれることを期待していいだろう。ここは普通に会話して、解散する直前くらいにできれば。
って、いたっ。なんか足を蹴られて......え!?
急に痛みを感じた左下方を見るとそこには期待のまなざしで見つめてくる明莉先生の姿があった。
やっぱり、全然憧れない! 兄弟なんて全然憧れない!
こいつ、先生じゃないな! ただ単に他人の色恋沙汰を楽しんでいるませたガキじゃねえか!
俺はここでやっと我に返ることができた。なんで今まで五歳児のいうことを信じてきたんだ。
......でも、なぜか。遊ばれているってことがわかっているのに。女児の言葉を信じてしまう自分がいる。
「青井くん?」
「三尹」
「え?」
「その、これからは三尹って呼んでいいかな?」
「え、ええ!?」
急にこんなこと言って引かれる、と思っていたら案外そんなことなかったようだ。
「じゃ、じゃあ、これからは私も......優くんって呼んでいい?」
「あ、ああ! もちろん!」
「そ、そっか......優くん」
「う、うん。三尹」
「......」
「......」
やばいやばい! めちゃくちゃ心臓がバクバクするし、この空気どうすればいいの? だから、帰る直前にしようと思ってたのに! 椎名も気まずくて喋れてないじゃん!
その時、予想外の助け舟が来航する。
「トイレ」
なんて素敵な三文字なんだろうか。小さな女の子がそんなことを言えば必然と次の流れが生まれる。
「じゃあ、私明莉ちゃんと一緒に行ってくるね」
「あ、ああ。待ってるよ」
思った通りに椎名がトイレに連れていくという展開になった。これで気持ちのクールタイムが生まれる。
トイレに行く刹那、明莉ちゃんがこちらに振り返り笑う。それはミッションが成功したことを祝福する女神のものだろうか。
明莉先生。やっぱり、あなたのことを信じていいんですね。
そして、俺はまた五歳児のいうことを聞き始めるのであった。




