名前の呼び方
早速呼び捨てで呼んでみることにした。
シチュエーション1、キャプテンイタリアンさんの場合
今日も今日とて、いつものようにキャプテンイタリアンさんと一緒に野原行動をしているわけだけど......キャプテンイタリアンさんの呼び捨てってなんだ?
キャプテンイタリアンって呼べばいいのか? それはそれで意味があるのか? そもそも、ただのプレイヤー名なわけなんだし。
まあ、とりあえず呼んでみるか。
「きゃ、キャプテンイタリアン!」
「ど、どうした優?」
「い、いや......なんでもないです」
だめだ。なんか名前がヒーロー名だけあって、なんか助けを呼んでいるみたいになっちゃった。
想像していたのはなんかもっとこう......ああ、もう。恥ずかしくなってきた。
「キャプテンイタリアン、さんの名前ってなんていうんですか?」
「どうしたんだ、さっきから急に。名前なんて聞いて」
やっぱり、めちゃくちゃ不審がられてる。急に名前なんて聞かれたらそうなるよな。いままで聞いてこなかったわけだし。
どうするか。流石にまだ作戦中止するわけにはいかないし。とかいって、訳を話すわけには......
「実は......」
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「呼び捨てだと?」
俺は秒で話してしまった。
なんかキャプテンイタリアンさんの前だと何でも話してしまうんだよな。頼ってしまうオーラがあるというか、安心感というか、んー。年の功ってやつなんだろうか。
「それで私の名前を?」
「はい。キャプテンイタリアンだと、呼び捨てがなんか微妙で」
「まあ、確かにそうだが......すまないが、本名は教えることはできない」
「そうですよね。こちらこそ、すみません」
キャプテンイタリアンさんの本名か。いったいどんな名前なんだろうか。
そういえば。
「もしかして、キャプテンイタリアンさんの親戚に鬼寺って苗字の人っていたりしますか?」
「お、お、お、お、鬼寺!? そ、そんなやつ聞いたことないが」
「そんなに驚かないでくださいよ。別に本名を探っているわけじゃないんですから。ただ、俺の担任の先生とキャプテンイタリアンさんの雰囲気やしゃべり方が似ていて。もしかしたら、親戚なのかなって思っただけです」
「そ、そうなのか。残念ながらそんな奴は知らないからな」
二人の関係はなかったのか。世界には似ている人が三人はいるっていうしな。
「優君」
「え?」
突然の違和感に思わず俺は声を漏らしてしまう。
「これからは優君って呼んでやるから許せ。それにそっちの方が興奮するだろ?」
「た、確かに。なんかそっちの方がいい気がしますね! なんかいつもよりドキドキします!」
俺はキャプテンイタリアンさんにいつも「優」って呼ばれていたからな。そのせいで歳の差も相まって少し弟感が出てしまっていたが、「くん」付けをすることによって一気にそれがなくなった。
単純に呼び捨てにするだけじゃなく、こんな方法もあるなんて。奥が深い。
それにしても、「許せ」ってなんのことだろうか。別にキャプテンイタリアンさんは悪いことをしていないのに。
「それで優君はどうしてくれるんだ?」
「え? どうするって?」
「呼び方だろ! 私の呼び方もいい感じに......変えてくれよ」
そうだった。元々は俺が呼び捨てにして新鮮さを出すって話だったのに。これじゃあ、やられっぱなしだ。俺も新しい呼び方を開発しないと。
「キャプテンイタリアン、キャプテンイタリアン......きゃぷて、イタリーちゃん?」
「イタリーちゃん?」
「イタリー......ちゃん」
「......なんか、微妙だな」
「......すみません」
シチュエーション2、椎名の場合
椎名の場合は簡単だ。ただ単に下の名前で呼べばいいだけだからな。
簡単。簡単なはずだった......
「今日もかわいい弁当してるな。みー、椎名」
「そ、そう? 青井くんに言われるとうれしいな」
難しい要素1、まず名前が可愛すぎる。椎名の下の名前は三尹だ。
なんだよ! みいって! 可愛すぎだろ! こんなん、呼びづら過ぎるわ!
難しい要素2、外野が気になる。
「そうですよ。めちゃくちゃうまそうですもん。一口食べたいくらいですよ」
こいつだ。こいつ。うるさい外野は。亮介がいるせいで恥ずかしさが倍増する。何よりうるさいし!
それに外野は亮介だけじゃない。周りにいるこいつらもだ。
椎名の椅子の周りにいるこいつら。椎名が俺とどんな会話をしているか耳を立ててやがる。これじゃあ、おちおち安心して会話もできないよ。
しょうがない。放課後、図書室でするか。
放課後。
図書室前までやってきたが、緊張で中に入れねえ。
さっきは名前や外野のせいにしていたが、女友達を下の名前で呼び捨てにすることがこんなに難しいなんて。
しかし! ここでうじうじしていても仕方がない! 思い切って行くぞ!
俺は意を決して扉を―開けようとしたが、背後からの突然の声に体を固まらせる。
「青井、ここで何をしているんだ?」
「鬼寺先生!?」
シチュエーション3、鬼寺先生の場合。
なんってこった。先に最高難易度のナンバー3が来るなんて。
「入らないのか?」
「いや、今入るところでしたので......」
くそ! 逃げ場がない!
こうなったら、もう行くしかない!
「ひ、氷代子先生は何をしていたんですか?」
下の名前はひよこであっていたよな? 流石に先生はつけたが、ちゃんと下の名前で呼んだぞ。反応は?
「わ、わ、私はただ廊下を歩いてただけだが」
あれ? 意外といける?
「そうなんですか。氷代子先生のことだから俺のことをつけているのかと思いましたよ」
「な、なんで私が」
すると、鬼寺先生は顔を赤らめて視線をずらす。
て、照れてる? なんだか、鬼寺先生が可愛く見えてきたぞ。
「だって、氷代子先生。俺にばっか雑用押し付けるじゃないですか」
「それはお前が問題児だからだろ」
「えー? どこがですか?」
調子に乗った俺は視線をずらす鬼寺先生の前に顔を出す。
「そういうところだよ!」
「いてっ!」
俺の頭頂部に拳の鉄槌を落とし、あせあせと歩いていく氷代子先生の後姿を俺はじっくりと眺める。
「担任の先生もいいかもしれない......」




