ゴミスキル「彼を知り己を知れば百戦殆からず」の正しい使い方~孫子の兵法で異世界を生き抜く~
このシリーズは設定厨が思い付いた設定を元に第一話分だけでっちあげてみた、というシリーズです。
設定だけなので続きとか考えていません。
もし、続きが読みたいという奇特な人が居たら、適当にパクって自分で書いてみてください。コメントに作品URL張っていただければ読みに行きます。
「僕の固有スキルは『彼を知り己を知れば百戦殆からず』です」
僕の言葉に、豪奢な椅子に腰掛けた王様は首をかしげた。
「はて、聞いたことのないスキルじゃな。ナルーセルよ、過去にそのようなスキルの記録はないか?」
王様は玉座の傍らで水晶玉とにらめっこしていた老魔導師にそう問いかける。
「いえ、記憶にございませぬ。おそらくまったく未知のユニークスキルかと。その、ユウゴ殿でしたか、どのような効果のスキルか教えていただけるかな?」
きた、この質問には慎重に答えないと……。
「自分の能力と状態を詳しく知り、敵対した魔物の弱点なども同時に探ることができるスキルです」
王様は落胆した様子でため息をついた。
「つまり、弱点看破の効果を持つスキルか……」
王様は自分の状態を知る、という能力をさらっと無視することにしたようだ。まあ、自分の能力なんてステータスオープンすればわかるのだから当然だろう。
「弱点看破は中位以上の魔導師であれば誰でも使える魔法。既知のモンスター相手であれば弱点看破するまでもなく皆知っておるもの。お世辞にも戦いで有用なスキルとは……」
「なるほどな。とすると、ユウゴ殿は知恵の勇者なのかもしれぬな」
曰く、勇者にはいくつかの傾向があり、直接戦闘に優れる武の勇者、魔法能力に秀でた魔の勇者、神の奇跡を引き出せる聖の勇者、知識でもって生活環境を改善する知恵の勇者といったモノがあるそうだ。
クラス召喚は魔物勢力に対抗する戦力確保のために行われるわけで、知恵の勇者というのはハズレ勇者を角が立たないようにそれっぽく言い換えた呼び方だろう。
つまり、僕の予想通り、このスキルは使えないスキル認定されてしまったようだ。
クラス総勢34名のうち、武の勇者が18名、魔の勇者が10名、聖の勇者が5名。それぞれ専門の教官がついて1ヶ月ほどの訓練を行うらしく、宿舎付きの専門の訓練設備に連れて行かれた。そして、ただ一人の知恵の勇者、つまるところハズレ勇者である僕は、当面の生活費を施されて市井で庶民に混じって暮らすよう言い渡された。一言で言えば城を追い出された、ということだ。もちろん、クラスメイトとも離ればなれだ。
「ユウゴ殿、ではお気をつけて」
城の門番に半ば同情のニュアンスを込めて一人城下町に送り出され、僕は人知れず安堵のため息をついた。
「なんとか乗り切った……。」
『彼を知り己を知れば百戦殆からず』とは、孫子の兵法に記された教えの一つで、辞書なんかには「敵を知り己をしらば百戦危うからず」と書いてあることもある。相手陣営と味方陣営のことを深く知って事に当たれば、百回戦をしても百勝することができるという意味だ。
このスキルのレベル1の能力は二つある。「己を知る(1Lv)」「彼を知る(1Lv)」の二つだ。
「己を知る」はMPを消費することで、3分間の間自分の体がどういう状況でどう変化したかを知ることができる。ステータスのように大雑把な数値として能力が見えるわけではなく、もっと細かい情報がわかる。全身の筋肉それぞれがどれくらい疲れているのか、集中力がどれくらい削られているのか、内臓などの疾患、毒物によるダメージ、はてはストレスの有無まで、CTスキャンも真っ青の詳細診断が可能なようだ。レベルが上がると消費MPが減り、さらに己の範囲が持ち物や仲間にまで及ぶようになるようだ。
「彼を知る」は条件がそろうと自動的に発動するいわゆるパッシブ能力で、自分に対して敵意を持って何かされようとしているときに発動する。何をされようとしているのか、そして相手の弱点や自分と比較してどれくらい優れた能力を持っているのかがわかる。レベルが上がると、敵対の条件がどんどん緩くなって商談なんかでも発動し、相手の行動意図がより詳しくわかり、さらにはつながっている背景勢力の分析までできるようになるようだ。
敵の情報と己の状況を詳しく知ることで、どう行動すればどういう結果になるかを予想し、もっとも良い結果を得られる行動を選択することが出来るようになる。それが『彼を知り己を知れば百戦殆からず』のスキルの本質だ。
クラス召喚された直後、王様に自分の固有スキルを答える直前になって、突然「彼を知る」のスキルが発動した。王様の横に控えていた魔導師に、嘘感知の魔法をかけられたからだ。魔導師は魔法全般のスキルが軒並み達人級の腕前、さらにくわえて暗殺者の訓練も積んでいて、魔力や知力はもちろん、武器を扱わせても僕が10人束になっても軽く返り討ちにされてしまうレベルの手練れだった。もちろん弱点らしい弱点なんて一つも無い。
僕を含めたクラスメイトに向けられた感情は軽蔑と、そして侮り。王様は国の窮状を訴え、隣国で魔物に支配され世界の平和が脅かされるのも時間の問題だと言っていた。世界に迫る魔の手に対抗するために若き勇者を召喚する伝説の儀式を行ったと説明していたが、どう考えても話が違う。事情もわからない若造を騙していいように利用しようという意図がスキルを通して伝わってきた。
王様と魔導師に『使えるやつ』だと思われることは破滅の入り口だ。直感的にそう悟った僕は、わざと自分の固有スキルを過小評価されるように受け答えをすることにした。もちろん、嘘感知の魔法を使われているので、嘘にならない範囲で、だ。焦りと緊張を顔に出さないように、不自然にこわばった表情筋をスキルの力で調べて力を抜き、頭をフル回転させて有用だと思われそうな部分をぼかすように、かつ嘘にならないように大雑把にスキルの説明を行った。
自分自身の能力はステータスオープンで誰でも見ることができることを逆手に取って「己を知る」の能力とかぶるような説明をし、「彼を知る」の能力はすでに存在するであろう弱点看破系のスキルや魔法と混同させるよう、弱点などという大雑把な説明をする。スキルにレベルがあると言うことも聞かれなかったので言わなかった。
もし、王宮の誰かが『彼を知り己を知れば百戦殆からず』のことわざを知っていれば、このスキルがゴミスキルではないことに気がついたかもしれない。そうなると、騙されたフリをして適当にごまかそうとしたこともばれてしまう。もし、そうなっていたら、こうやって無事に王宮の外には出てこれなかかっただろう。一か八かの危険な賭けだった。
もちろん、これで安心というわけでもない。当座の生活費はあると言っても、この世界では僕は身寄りの無い孤児同然だ。これから体一つで生計を立て、異世界で生き抜いていかなくてはならないのだ。
強力なスキルを持っているとは言っても、僕自身の能力が上がらないことには宝の持ち腐れになってしまう。職を見つけて生活基盤を確保し、いろんな能力を鍛えて、いざという時にとれる対抗手段を一つでも多く身につけなければならないだろう。
親切な門番に、これからどう暮らしていけば良いか聞いたところ、冒険者になるのが良いだろうと言っていた。スキルにも引っかからなかったので少なくとも善意で教えてくれたアドバイスと考えて良さそうだ。
「まずは当座の生活を安定させないとな。教えてもらった冒険者ギルドに向かうとしよう」
僕はそうつぶやいて、異世界での本当の意味での第一歩を踏み出した。
己を知るという能力は案外応用が利くのではないかと思います。
訓練の相手の筋肉の動きを見て、強くなるためにはどの筋肉を鍛えれば良いのか、自分の体の詳細を知ることでもっとも効率よく体を鍛えるためにはどんなトレーニングをするのが良いのか。
レベルが上がれば不随意運動すら制御して安全に限界ギリギリの特訓を続けることが出来るようになるかもしれません。
相手のことを知ることができれば戦いはもちろん、政治的な交渉ごとだって優位に進められるし、賭博なんかでもブラフを見抜くことができるわけだから無双することだってできるでしょう。
ただ、頼れる必殺技もなく、相手の能力が自分より優れてる場合、そのことも即座にわかってしまうわけでピンチになることは当然ある。先がわかってしまうからこそピンチを知って苦悩する、そんな展開の物語が相性良さそうな能力です。




