WAWAWAの憂鬱
私は雨の日が大好きでした。雨が降ったら部活がなくなっていたので。
今日も雨。しかも今までで一番ひどい。
「あら、こんな日に出かけるの?」
一言っただけで十理解する、そんな姉様の褒めるべき部分が今は怖いから詳しいことは言えない。
「ちょっとデートです」
冗談っぽくほのめかすが、姉様から見たら女性と会うだけでもデートになるのだからこれは冗談ではないのだろうな。嘘はついていないから問題はないはずなのだけど。
「そう。家に入れなくなってても知らないから」
清々しいほどの笑顔が怖い。けど、俺は先輩の家へと向かうべきだろう。この笑顔をより良いものへとするために。
「大好きな弟が雨の中凍える様を見て楽しむ、中世ヨーロッパの貴族のような姉がいる家には帰りたくありませんね」
行ってきますとは言わず。けど、仲が悪いわけではない。むしろ良すぎてるくらいで、力一杯抱きしめたら力一杯抱きしめ返してくれるだろう。ああ、でも。力一杯抱きしめたら胸のなさを痛いほどに感じてしまうからできないな。
「おい、アホ野郎。早く乗れ」
「ワリィな」
一度アホの家に行ってから、先輩の家に行く。多分ほっといたら傘さして先輩の家を訪れるだろうし、先輩のためにだ。
「てか、お前って結局先輩狙ってんの?」
「狙ってないってずっと言っているんだがな。狙っていると言って欲しいのか?」
今日先輩の家を訪れることが決まった日から、ずっと聞いてくる。そして毎回同じ答えをだすだけで、この不毛な会話はうんざりだ。
「いや、それだったら今日来る必要あったのもかな〜って思って」
お前から先輩を守って、神楽坂家の、大和学園の、四条家の名を汚さぬためだ。とは、流石にコイツにでも言えない。コイツ自体は大して悪いやつではない。ただアホなだけであって。
「だからこれも何回も言っているだろう。姉様にお世話になっているからだって」
「お前んちって専属のシェフとかいるんだろ?その人に聞けばいいのに」
「全世界の人間がお前みたいに暇じゃないんだ。ましてや一流のシェフと高校生だぞ」
俺の家が雇っているのだが、世界の宝を独り占めすることは難しいらしい。毎日料理を作りに来るんだが、いつもあたふたとしているのが現状。
「じゃあ母親とかは?金持ちにだっておふくろの味とかあんだろ?」
「ああ、もう!どうしてお前はそんなに俺を行かせたがらない!どうした?先輩でも狙ってるのか?なんだ、言ってみろ?」
このアホの質問に答えるのが面倒だ。そして俺を行かせたがらないところが癪に触る。
「いやいや。そんなことはないから。確かに大きな盾になるけど、お前がいるし」
「俺はお前を裏切るが、先輩に入れ込みすぎるな。あっちは純粋で無垢な女の子だ。汚れ、腐れきった人間とは違うんだ」
俺はあいつに釘をさす。コイツと先輩が恋仲にでもなってみろ。神楽坂家において大混乱が起きて、少なからず俺にも影響が出る。それに先輩の拠り所に俺があるから、困った時に俺のところに来る。悪いが俺は爆弾を抱えた少女を救うことはできないんだ。一緒に死んでやるなんて、姉様以外の人間は断らせてもらう。
「お前はお前が思ってるほど悪いやつじゃないぜ。こうやって世間知らずの俺になんの利益もないくせに色々とアドバイスしてくれるし。困った人間がいたら力になってやれるしさ」
「ああそうだを俺は善人だ。だからもう黙れ。少しだけ放っておいてくれ。雨のおかげで調子が狂ってるんだ」
全部雨のせいで、これが止んだら全て流れきって行く。何故なのかなんてわかりやしない、俺の心の異常気象も全て晴れるんだ。梅雨が終われば。
「…着いたみたいだな。行くぞ」
「お、おう」
アホを連れていると俺のイメージも下がるから少し萎縮させておいたが、少しやりすぎかもしれんが…まあいい。先輩の顔を見ればまた伸長するだろう。
「先に言っておくが、ここは俺の部屋とは全く勝手が違う。家の中にあるもの全てを慎重に扱えよ。お前が弁償できない額のものなんて数え切れないほどにあるんだからな」
「ほ…本当か?」
「一度入ったことがあるが、とっても素晴らしい無駄遣いだと思ったよ。…っと。そろそろ猫を被るから、少し大人しくしてろ」
大きく深呼吸をして、深く猫を被る。薄っぺらい愛想笑いと、幼少期に身につけた作法をもって俺は果敢に豪邸へと足を踏み入れる。
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