33番はきくち
俺は純粋に蛍を楽しみたいし、そのつもりで来ている。だがこれを主催したやつやほとんどの参加者はそんなの思ってないし、蛍なんていらないとさえ思ってるだろう。悲しいことに。
「ダイちゃん〜眠たーい…」
「子供じゃないんですから。それに参加するって決めたのは姉様でしょう」
「ダイちゃんの子供だよ〜おとーさん」
こんな可愛い娘がいたら嫁なんていらないな。
「ということは僕は誰かと結婚してることになるんでしょうね。姉様を独り残して」
「お姉ちゃんの許可なく結婚することを禁止します」
娘が姉に代わってくれて一安心。していいのかな。これだけで疲れるのに、気を抜けない。
「弟の許可なく被ってる猫を脱ぐことを禁止します」
「もともと着ていませーん」
「じゃあ猫かぶったら、お家でぎゅっとしてあげます」
「さっさと挨拶済ませて帰ろうか。ダイちゃん」
現金だな。でも、そこがものすごく可愛い。
ーー
「ごきげんよう。菊池様」
脂ギッシュな小太りで頭を禿げ散らかしたおじさん。と、180センチはあるガッチリとすっきりとした体格のお兄さん。おじさんが横にいるから余計にかっこよく見えるね。
「おお、さゆりちゃんにダイスケくんか。久しぶりだね」
太っているから首が太く、低い声が出るかと思いきやのピエロみたいな高い声。なんで散々バカにしてるけど、親戚のおじさん。母上の弟。
「お久しぶりです。修さんもお久しぶりです」
「ああ。久しぶりだな」
クール、口数が少ない、真面目というか鉄仮面というか。父親の感情の豊かさをこれっぽっちももらわなかったような人だけど、かっこよくて昔は憧れた。頼りになる兄のような存在は、甘えて甘えられての姉とは違ったけどほんとにありがたい。
「あ、遅れたけどダイスケくん高校入学おめでとう」
社会で覚えた営業スマイルなのか、俺を愉快にさせる笑みを浮かべている。強いな。
「ありがとうございます」
「学校は楽しいかな?」
「充実してて楽しいです。楽しい分疲れるんですけど、それでも今しかない時間なんで精一杯やらせてもらってます」
紛れも無い事実だ。部活は面倒だし、入っていたら色んな奴がたかってきて練習に力が入らないだろうしでしていないけど、勉強はまあまあ頑張ってる。あとは交友関係かな。こんな俺なりには頑張ってるつもりだ。
「うんうん。元気があっていい。これからも頑張ってくれよ。こんなおじさんになってしまったら味わえないものなんだから」
「はい。今ある時間を大事にすることはいつも心がけているんで」
「それがわかったんだったらこんなおじさんにかまってないで。友達と時間を過ごしたらどうだい?」
無駄にかっこいい。大人の余裕があるのか、いい性格の人間だ。お言葉に甘えさせてもらって、姉様とイチャイチャするかな。
「では、失礼しますね」
俺と離れた叔父さんは、綺麗に料理が盛られた皿に小走りで向かっているようだ。かわいいかよ。
「姉様」
「これで全部だから、帰ろうか」
おっ。まだ保ててるんだな。えらいえらい。褒めてあげないといけないな。
「そうですね」
同意して、姉様の手をとってあげようとすると姉様も同じことを思っていたらしく二人の手が衝突する。
「ごめんなさい。姉様も同じ気持ちだったとは」
「いいよ。これが愛だって受け取っておくから」
そうして、今度はちゃんと手をとってあげる。
「やっぱりいいや」
「ん?どうしたんですか?」
「眠たいから、ぎゅっとしなくてもいいよ」
「僕がしたいんですけど?」
「大ちゃんの手のひらで踊ってたのか。じゃあなおさらしなくていいよ」
「こんな急に言われたら、普通嫌われたって思うのが当然ですよ。弟心がわかってないんですね」
「大好きだから。だから、とっとく。もっとダイちゃんが必要になった時のためにね」
「僕も大好きですよ」




