#28
教室に入ると小柄な人影が。
「おはよう。中条さん」
毎日俺より朝早くに教室に一人でいる。机の上に勉強道具を広げたまま中条は振り返る。
「おはようございます。いつもより少しだけ遅かったですけれど、何かあったのでしょうか?」
「さっき生徒会長と会って立ち話してたんだ。待っててもらってたならごめんね」
「いえ…待ってなかったのでお気になさらず」
自分から誘っておいて、妙なところで照れる。
「そう?ならよかった」
「今日も頼ませてもらってもいいでしょうか?」
「うん。始めようか」
中条 柚月は色々と変人だ。勉学の成績は俺と二位を争うぐらいにレベルに高い。が、体を動かすことはまるっきしだめだ。で、そんなこいつが考えた戦い方は情報戦。だからか知らないが、俺が話した情報を書き記している。しかも、積極的になったら消極的になったり。こんな人間を表す言葉は変人が妥当だろう。
「この問題が解けたら100万円とのことなんですが」
まあ、こいつにとっても俺にとっても100万円なんかいらない。が、この問題の難しさを表現するには適している。
「形は読み込めた。けど…難しいね」
「一応解いてみたんですわ。でも、途中までしか解かかとができなくて」
そうやってノートを広げてくれる。いっぱい消した跡もあるし、どんどんとぐちゃぐちゃになって行っているからこれは高校一年生がとくものではないんだろうな。
「これ、拾ってきた問題なの?」
「前に兄様の大学に行った時に教授の方からもらったものですわ」
大学教授が手を挙げる問題を解こうってか。燃えるじゃん。
「あと10分で答えまでは厳しそうだけど、2人ならできるよね…」
「できますわ…」
なんてカッコつけちゃって、気づけば教室には人がいっぱい。いつもは囲んで来るくせに朝だけは手を出してこないんだよなぁ。学年一の財力と頭脳の2人がマジになってたら来づらいのはわかるんだけど、齋藤も声くらいかけてくれよ。
「時間的に厳しかったかな…」
「ほんとですわね…もうこんな時間だなんて」
中条はそそくさと片付けを始める。
「あ、今日中に返すから貸してくれないかな?」
「いいですわよ」
あってる気がするんだけど、答えが出ない。こうなったら最終秘密兵器だな。しゃーない。
「おいアホ野郎。お前を頼りに来てやったぞ」
「そういうツンデレのところも好きだぜ。相棒」
死ぬまでこいつにデレることはないだろうな。まあ幻想を抱くことぐらいは許してやる。
「中嬢から朝貰ったんだが、どこか違うんだよ」
中条の嬢ちゃんだから、中嬢。日依姫と同じでこいつがつけたあだ名だが、使ってやっている。
「ん?これ答え出てんじゃないの?」
ちらっと問題を通し見て、中嬢と俺の式を追っていく。いつも通りのアホそうな顔で呑気に聞いてきた。
「は?」
「ああ、言い方が悪かった。ここの式をここに代入で…答え出るだろ」
わお。アホの人差し指を追っていったら答えが出てしまった。
「ていうかこれ、昔話題になってたぞ。50年以上とかなかった問題が解かれたって」
「は?」
俺は耳を疑う。
「危険性があるから解き方の一般公開はしないとかわけわからんこと言ってたけど。こんな答えだったんだな〜」
気が抜けた。金はいらなかったんだけど、中嬢がマジな顔で言ってきたから世界で誰も解いてないとか勝手に思ってたけど…こんなオチとはな。
「つまらん」
言葉が出なかったな。
「おっ。その風格いいね〜大河ドラマとかで出てくる織田信長みたいじゃん」
「お前は大河ドラマに出てくる悪人Aみたいだな」
「悪人Aだって、選ばれた上での悪人Aなんだからな。あれを演じるためにどれだけの想いが詰まっているのか…」
「バカにした覚えはない。悪人Aは褒め言葉だ」
「悪人Aについてわかってるじゃないか。悪人Aの他にも生徒Aとかもあってな。生徒Aにもいろんなものがあってだな…新人声優が出たり、ネタで大物声優を出したりな…いろんな思いが詰まってんだよ、ほんと…」
語り出した…
「そうか。よかったな。じゃあ俺は神楽坂先輩のとこに行くから勝手に感傷にでも浸ったろ」
アホの手の中から問題を奪い取り、そこをあとにした。元気だな…
ここまで読んでくださってありがとうございました。上昇気流に乗ってるうちは頑張ります。楽しいので。




