火野の思い 《いつかきっと…》
「いつまで寝てるの…やまと…」
「そうよ、そろそろ起きなさい」
「……んぁ?…………ああ」
どうやら寝てしまっていたようだ。
まだ回らない頭を振り、上半身を起こす。
周りを確認すると河川敷の草むらにいた。
どうやら休むつもりで立ち寄ったが寝っ転がっているうちに寝てしまったようだ。
今日は天気も良いし仕方ないな。
「大和も起きたことだし行きましょうか」
「そう、だね…やまと…行こ…」
「だな、行くか」
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「…………んん」
目を開けると見知らぬ天井が広がり、見知らぬ場所のベットで横になっていた。
医療品や薬の独特の匂いからここがメディカルセンター、簡単に言えば保健室と予想される。
どうやら倒れた後に運ばれたのだろう。
「目が覚めたか、刀鞘」
見下ろしていたのは酒見先生だった。
「先生……ッ…!」
途端、体全体に痛みが走る。
1番ひどいのは右腕だ。
痛々しく包帯が巻かれている。
「あまり体を動かすな、骨は折れていなかったが右腕にはヒビが入ってるぞ」
指先や手はまだましだが、右肩から肘を軽く動かすだけでも痛み出す。
「火野から話は聞いてた。
部分武装が出来るようになったようだな」
「はい…まだ右腕しかできないですけど」
「おそらく右腕の負荷に右肩や右肘が耐えられなかったのだろう。
わかっているだろうが部分武装をしていても他はどうしたって普通の人間の肉体と変わらないんだ。
あまり無茶をしすぎると体が持たんぞ」
「分かってます…そうだ!サイクリードは!?」
あの後また暴れ出したりしていたりしていないのだろうか。
「それは大丈夫だ。
サイクリードは完全に倒されていた。
火野も無事だ。一応新木の奴も怪我がひどいが生きている」
「そうですか…よかった…」
エリスとの約束は守れたことに安堵する。
「刀鞘のおかげで被害を最小限に抑えられた。死人も出ていない。
お礼も言いたいがまずは謝らしてくれ…すまなかった…お前や火野…それにクラスの皆を守ると言いながら大事な時に居てやれなかった」
先生は頭を下げて謝ってくる。
先生に謝らした罪悪感で逆に胸が痛くなる。
「いえ…非常事態でしたから…でも良かった。皆無事で…」
「お前には感謝の言葉じゃ足りない…ありがとう。
後処理は任せて今はゆっくり休んでいろ」
「はい…」
言い終わると酒見先生は外へ出る。
『やーまと』
「ッ…!この声クロアか?」
突然耳に聞こえてくる声。
『ええ、あなたの呪いが少し解けたおかげで会話することが自由に出来るようになったの』
「呪い…そういや俺にかけられた呪いってのは…ぐっ!」
自分の呪いを聞こうとするも頭痛が起こる。
まるで聞くのを嫌がるように。
『やっぱりまだ駄目ね…おいおい教えてあげるから今はあの女の言った通り少し休みなさい』
「ああ……」
自分が過去に何かあったのか自分は何者なのか知りたくはあるが今は言われた通りに休ませてもらおう。
しばらく寝ているとエリスが中に入ってくる。
「刀鞘君……」
「エリス…」
『エリス…じゃないわよ!』
クロアがぎゃあぎゃあ騒いでるけど無視する。
エリスは見た所目立った外傷もなく足取りもしっかりとしていた。
ゆっくりと側によってくる。
「あの…ありがとう。
私や…みんなを守ってくれて」
「いや、俺が守ろうと思えたのはエリスが皆の為に命を懸けて戦ったからだ」
あの獅子奮迅の活躍が出来たのは頼もしいエリスの背中を見たからに違いない。
「…あぅ……」
照れたように顔を下げる。
しばらくな沈黙。
耐えきれなくなり、話題がないか考える。
「そ、そういや人を守りたいって行動すんのは昔からずっとなのか?」
まるで取り憑かれたような彼女を見た俺には疑問に思った。
「……そうね。
刀鞘君には…教えてあげるわ」
顔を上げてゆっくりと口を開く。
「3年前に起きた大災害とも伝えられるほどの人と魔物との戦争があったことは知ってるわよね」
「ああ、入院した当時がその戦争のすぐ後だったからな」
戦争時代の記憶はないが多くの患者が入院したことや死人が出たこともニュースで知った。
「あの時、私はまだ全身武装が出来ないでいた…当然よね。でも私はどうしても戦争に参加したくて火野家の力を使い無理やり戦場にいった。
そしたら多くの死骸に囲まれて、悪臭や悲鳴が鳴り止まない…まさに地獄だったわ」
「それで怖くなって1人泣いていると、1匹の魔物と出会い殺されかけたのよ…」
「……」
俺は黙って話を聞く。
「その時偶然通りかかった1人の少年に助けてもらった。
なぜか顔も名前、喋っていた内容さえ思い出せないけれど、助けてもらえたことだけは覚えてるの」
「そんなことが……」
「その姿に私は《英雄》だと思ったわ。
だからあの人に追いつく為に必死で必死で頑張ってきたの…いつかあの時の感謝の言葉を伝える為に…でも蓋を開けてみたらこの程度、なんて笑っちゃうわ」
自嘲気味に笑みを浮かべる。
そんなことはない、エリスは強いと言ってやることが優しさなのかもしれないがこんな言い方をされても嬉しくないと分かっている。
「ああ…ごめんなさい。お礼を言いにきたのに愚痴っちゃったわね」
「いつか…」
「…え?」
《いつかきっと追いつける》
「…ッ……!」
エリスは息を飲み、目を開けたまま固まる。
「(今の感じ…何処かで……)」
「だって火野家の娘さんだろ?潜在能力なら確実にある。それに自分の信念を貫く気持ちが成長に繋がると俺は思うぞ……聞いてる?」
「え、ええ…ありがとう……そうね諦めなかったらいつか…きっと」
絶対最後の方聞いてなかった気がするけど…まあ、いいか。
元気が無いよりあったほうが断然いいからな。
『何が、いいのかしらねぇやーまと』
こっちは笑顔でも恐ろしいがな。
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「そういえば貴方の話を聞いたんだけど昔の記憶がないらしいわね」
軽く話し合っているとその話題が出てきた。
「ああ、断片的に思い出すときもあるけど基本は何も覚えてねえ」
「それって心器が破壊されたことで起きた記憶障害じゃないかしら?」
心器が破壊されると心を無くし廃人と化すが、稀に自分の記憶を失って自我が残るタイプもある。
「俺もそう思って武装機関に俺が活動した記録やらを調べてもらったけど何も無いんだとよ」
それに3年も前だと戸籍上は俺はまだ13歳、全身武装が出来たのかさえ怪しい。
「じゃああの戦争の事故によるものかしら…」
「…そのうち思い出せたらいい。しばらくは今を楽しむさ」
「前向きね…そういうとこ…嫌いじゃないわ」
「あ、ああ…ありがとう……」
クロアがまた騒ぐが無視を貫く。
部屋に夕日が差し込む。
そろそろ良い時間帯だ。
「そろそろ私は部屋に戻るわ」
「そうか…んじゃまた今度な」
「…貴方ってまだ酒見先生の部屋に泊まっているのよね?」
「そうだな…空き部屋が無いそうでしばらくわお世話になるかな」
「ふーん…なら、私の部屋に来ない?」
「……え!?」
意外や意外。
「もともと同じ部屋だったわけだし、貴方なら別に『駄目よ!ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!』
クロアが物凄い勢いで反対してくるせいで上手く聞き取れない。
少し静かにしてくれ…
「……どう?」
少し不安な表情でこちらを見据える。
「先生に迷惑かけっぱなしってのも嫌だし…エリスがよければお願いしようかな」
「…ええ。これからよろしくね」
「あ、それと私に迷惑かける、なんて思わないで…
私も……嬉しいから」
朱色に染まる頬が夕日のせいかは分からない、が頼むからクロアは呪詛を唱えるのをやめてくれ。
俺が2重で呪われそうだ……
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光は完全に消え闇夜となった中で不穏な影は動いていた。
「サイクリードが倒されたんだって…?」
「ああ…しかも普通の学生が1人で倒したとの情報だ」
「マジかよ!あいつを倒せるってことは武装機関に属してる奴か!?」
「いや…転校してきたばっかのガキだそうだ」
「名前は…刀鞘大和…知らぬ名だな」
「要注意人物だ。警戒をしろと皆に伝えろ」
「はっ!」
「一体何者だ……」
さて第1章も幕切れです。
20000pvに140件以上のブックマークに感謝しております!ありがとうございます!
これから第2章が始まります!応援の方、よろしくお願いします!拙い文章ですが精一杯書かせていただきます!




