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第3記 −奇妙な存在(1)−


「ぇえ…!?これこれうまうま…!?ホントなの、それ!?」


 夜。魔法学園マジェーラロアンに向かう道。

 学園に近いので、周りは学生がほとんどだ。魔闘学園レビットガットの生徒も使う道だが、服の指定がないため、どの学園の生徒かは見た目だけでは判断しづらい。


「うん…怖かったよ〜…」


 通学途中でエミは、採集の時にあった出来事をとても詳しく解りやすくフリンに話していた。


「ヘルビトゥスねぇ…危険区域じゃない所に居たってのも気になるけど、1人で倒しちゃうのもスゴイよね…その人どうなったんだろ」


「あはは。人間なら死んじゃってるよ〜」


「だよねー。あ…ってかヘルビトゥスの魔核、持ってくればよかったのに」


 全ての生物は絶命した際、心臓から結晶のような物が必ず生成される。それを魔核と言い、主に生物の研究や討伐依頼の証明に使われる。

 冒険ギルドでも、魔核からその生物の大まかな情報は確認できるので、戦闘能力の無いエミは懸賞金を全額得られる可能性は極めて低い。しかし懸賞金の一部であっても、仮に全く貰えないとしても、ヘルビトゥスの魔核それ自体が高く取り引きされているので、充分過ぎる収入になったはずだ。


「あ〜、そうだよね…怖くてすっかり忘れてたよ。もったいないことしたなぁ」


 今時の若者らしく、大変な話も重さがなくなり笑い話に変わっていた。

 2人で非現実的な体験談に花を咲かせていると、エミが前方に何かを見つける。


「…ん?…え……」


 見えたと思ったら、瞬きすらしないうちに見えなくなっていた。そこに在ったものが消えたのだ。実際に在ったのかどうかも確信が持てない。見えたのか見えていないのか、幻覚と間違えるほどにほんの一瞬だけ視界に捉えた。

 普段ならこの程度の事は気にもせず、記憶にも残らないだろう。これまでなら見間違いや気のせいだと思う事ができたが、今は違う。


「あの人だ…」


「何?どしたの?あの人って?」


 記憶を思い起こし、先程の現象と一致させているエミにフリンは声をかける。エミはとりあえず、今あった事も話した。


「うむむ…幻覚とか幽霊じゃないとすると、この街に凄腕の冒険者が来たってことか…」


 顎に手を当てながらフリンはそう言い、ニヤリと笑ってエミに顔を向ける。


「な、何…?」


 不思議な表情で聞くエミに、フリンは悪戯っぽく言った。


「その人、男でしょ?カッコイイ?」


「ぇえっ?」


 突然の質問にエミは裏返った声で驚いた。これまた現代の若者と同じで、フリンも魔法より男子なのだろう。


「顔なんて見えなかったよ〜…」


 それから緊張感はなくなり、いつもの雰囲気で“影男(かげおとこ)”の話題で盛り上がった。




………………




 講義が終わり、図書館の閉鎖について講師から話があった。

 少し前に学園掲示板で通知されていたが、知らなかった生徒も多かった。理由を聞くと、本の管理に関わる魔法の改築のため危険だから、とだけ言って教室を去っていった。

 他の生徒達は、初めは何があったのか話していたが、話題が色々な方向へすりかわり賑やかに教室を出ていく。やがて教室内にはエミとフリンの2人だけになり、ふとエミがため息を漏らした。


「図書館使えないの忘れてたよ…今日はおとなしく練習かな〜」


「まぁドンマイだよ、エミ!あたしは今、初めて知ったし!」


 嘆くエミを元気に笑い飛ばすフリン。彼女はこれから恋人と会うらしい。

 目的を失ったエミは、仕方がないので一旦帰る事にする。2人は立ち上がり、教室の出口へ歩き始めた。


「図書館、行ってみない?」


 不意に背後から声をかけられ、誰もいないと思っていた2人は驚いて振り向く。前回同様、エミ達が座っていた後ろの席にハティーが頬杖を付いて座っている。

 振り向いた2人にハティーは軽く手を振った。


「ハティーちゃん、またヤートゥーポーションで…?」


 エミの質問に頷くハティー。ポーションの効果時間は10分程度なので、どうやら講義終了間際に来たらしい。そして、目的は何故か図書館のようだ。


「エミ、こっちにおいで」


 ハティーはエミを手招きして呼ぶと、フリンにはウィンクをしながら言った。


「フリンは約束があるもんね。今日のデートは冒険者通りがラッキープレイス♪」


 フリンははっとして時計を見ると、両手を顔の前で合わせて謝る。


「ごめんねエミ、今度話聞かせてね!ハティーちゃん、アドバイスありがと!またねー!」


 そう言って、フリンは元気良く教室を去っていった。


「さて、と…じゃあ少し話しましょうか」


 フリンと恋人との間に約束がある事を何故ハティーが知っていたのか…などと聞くのは愚かに思えるほど、ハティーは当然のように場の空気を流していた。

 魔法は使っていないし、フリンに触れてもいない。エミが考えても答えが分かるはずはないので、ハティーなら何となく分かってしまうのだろうと結論付ける事にした。

 エミはついさっき自分が座っていた席に戻り、ハティーに聞く。


「図書館に何かあるの?」


 エミの問いにハティーは笑みを浮かべ、楽しそうに話し始めた。




………………




 ハティーの話が終わり、エミは信じられないといった表情を見せていた。話の内容は、今までの平和な日常から離れたものだった。

 3日前、図書館で1人の生徒が何者かに襲われ、軽い怪我をした。図書館には他に誰もいなかったため、生徒の悪質な悪戯だと判断し、講師1人が調査に向かった。しかし、その講師も何者かに襲われた。重傷を負い、外で倒れているところを他の講師が発見したのだ。そこで指導主任は、レビットガットの講師2人に協力を仰ぎ、対処に向かわせた。そしてまた、重傷で発見された。

 1人は脚と背中に深い切り傷を負い、もう1人は片方を逃がすため心臓を貫かれそうになったが、鋭い何かが心臓に到達する前に斬りつけて何かに当たった。斬ったという感触ではなかったが、胸に刺さる鋭い感触も無くなっていたので、それ以上考えずに急いでその場を離れたという。

 それからすぐに図書館を結界で包み、閉鎖状態にしたのだ。


「どう?面白そうじゃない?行ってみましょうよ」


 ハティーはとても楽しそうに言う。しかし、エミは気が進まなかった。事件の犯人が、もしかしたら…と、あの時の恐怖感が蘇る。

 そこでエミは、森で体験した出来事をハティーにも伝えた。ハティーは自分の占いを無下にされた事を怒るどころか、まるで知っていたかのように笑い、占った甲斐があったと喜んだ。


「エミは怖がりだけど冒険願望が強いはず。行ってみたいって気持ち、あるでしょ?」


「う…それは……で、でも〜…」


 エミはさりげなく性格を言い当てられて驚くが、やはりあの恐怖感が拭えない。

 答えに迷っているエミに、ハティーが軽い調子と自信を含んだ態度で言い放った。


「大丈夫。エミにとっても良い方向に進むわよ。私が言うんだから間違いないって♪」


 人気の占い士で先見の明があるハティーの言葉は、悩んでいるエミを説得するのに充分な効果があった。同じ歳なのにハティーは大人で、安心感がある。


「う〜ん……じゃあ…行ってみようかな…」


 不安げな顔をしているが、内心は少し弾んでいる。その様子を感じ取ったのか、ハティーはうんうんとにこやかに頷きながら話を進める。


「それじゃ、0時に北側の小門に集合ね」


「えっと…何か準備するものは?」


 エミの問いに、ハティーは人指し指を立てて答えた。


「当然、冒険心でしょう♪」




………………




 待ち合わせの時間。

 ほんの少し欠けた月が世界を見下ろしている。

 学園敷地の北側、あまり使われていない小さな門の前には2人の少女−−エミとハティーが合流し、軽く挨拶を交わしたところだ。通りには2人の他にもちらほらと人が見える。


「それじゃあ行こっか」


「う、うんっ…」


 スラリとしたボリュームの無いドレスは、体の線をくっきりと映している。凛としていて優雅に歩くハティーの後ろを、エミが緊張を隠せない様子で付いていく。

 少し歩き、図書館が見える位置でハティーが足を止めた。


「エミ、ここからは誰にも見つからないようにね。外口から入るわよ」


 声を落とし、図書館の外口方向を指差しながら言うハティー。


「うん、わかった。あ、でも…」


 エミもハティーと同じく、声を落として答えた。そして、当然の疑問を今更ぶつける。


「…結界があるのに、どうやって入るの?」


 その疑問に、ハティーは当然のように答えた。


「考えてみて。空気や風の魔法が得意な先生が逃げるしかなかった理由。焔の肉体と言われる先生も太刀打ちできなくて、500m先からの狙撃すら感知する居合いの先生も、触れる事しかできなかった理由。確実に魔力は通じない。物理的には通じても感知できない。そんな相手に対して結界なんて意味あるのかしら?」


「え、じゃあ…閉鎖されてないの…?」


「いいえ。多分、錬金魔法で建物を無理矢理閉め切って、物理的に魔物を閉じ込めたんだと思うわ。結界って言っておけば、生徒達は入ろうなんて考えないでしょうしね」


「なるほど〜…ハティーちゃん、すごい…」


「ふふっ、ありがと」


 ハティーの名推理で疑問が綺麗に解消したところで、2人は慎重に図書館の外口前まで移動した。

 図書館には4つの出入口がある。そのうち3つは学園本館と渡り廊下で繋がっており、内部の3階と2階と1階から図書館内へ直に行けるのだが、学園はまだまだ開放時間内。人目を避けるために、あまり使われない外口からの浸入を試みるという訳だ。外口から入ると、長い廊下の半ばに図書館へ入る扉があるのだ。

 2人が外口前へ到着したところで、今更ながらエミが疑問をぶつける。


「ねぇハティーちゃん。結界はなくても、錬金魔法で開かなくしてあるんだよね?」


 錬金魔法とは複雑な技術の1つで、最も科学に近い魔法として知られている。

 簡単に言えば科学の理論を基にした魔力操作技術である。物質の密閉など、熟練した者であれば分子分解に近いやり方で即座に錬成してしまうだろう。

 感覚的な魔法と科学的な錬金術を合わせた、非常に高度な魔法。頭脳明晰かつ想像力に長け、才能と経験豊かな者にしか出来ない。無論、エミには出来ない。


「目には目を、ね」


 おつむが平和なエミに簡潔に応えると、ハティーはドアと向かい合った。

 ドアに両手を当て、短く息を吸い、ゆっくりと力強く吐く。しばらくの沈黙の後、少し光ったと思うとハティーは肩の力を抜いて息をついた。


「…よし、入りましょうか」


「ハ、ハティーちゃん…錬金魔法もできるの…?」


 エミは驚いていた。頭の弱いエミでも、錬金魔法の難度や複雑さは分かる。そしてハティーは当然のように答えた。


「途中までやってみたけど、無理だったから壊しちゃった♪」


 そうお茶目に言いながら、ハティーがドアノブを回さずに引くと、がこんという音と共にドアがそのまま外れた。


「わひゃぁ…!怒られるよ〜…!」


「バレなきゃ大丈夫。さ、行こ」


 ハティーはドアを少しずらし、するりと中に入り込んだ。動揺しながらもエミは頷き、恐る恐る入った。


「ここまでは問題ないわね」


 ドアは破壊したが、問題はないようだ。

 ハティーが周囲を見回している後ろでは、エミがわたわたとドアを戻すのに苦労していた。


「エミ、気をつけてね。相手は感知すらできないんだから」


「う、うん…でもどうすればいぃか…」


 外からの明かりは多少入ってくるものの、閉鎖中の館内は暗くて不気味だ。2人はしゃがみ込み、なるべく静かに相談する。

 ハティーが腰の小さなポーチから、見た事のある瓶を取り出した。


「これを使って探索するのよ。コペナス・クアッロの本を探して」


 ハティーが持っているのはヤートゥーポーションだ。エミはそれを2つ受け取り、1つをしまいながら話を進める。


「どんな本なの…?」


「表紙は緑で、コペナス・クアッロって書いてあると思うわ」


 そう言ってハティーは自分の分のポーションを取り出し、くいっと飲み干した。そして、エミにそっと触れる。これでエミには存在が知られたという事だ。慌ててエミも飲み干し、ハティーに触れる。不良品でなくても苦かった。


「思うってことは、ハティーちゃんも見たことないの?」


 2人は立ち上がり、図書館内への入口に向かって歩き始める。


「うん。でも夢では見たから、たぶん大丈夫よ」


 ハティーの言葉に、ひーひー嘆いているエミ。

 しばらく歩き、両開きの大きな扉の前にたどり着いた。建物自体が相当な規模の為か、それに比べれば小ぢんまりしていると言える。


「静かに、慎重にね」


 ハティーが口元に指を当てながら扉を押すと、こくこくと緊張した面持ちで頷いて後ろに付くエミ。そして2人は、図書館の中へ入った。

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