称号列挙=タイトル
「もうすでに東拓には、ここに私たちが集まって話している事を知られているわ。少なくとも“軍師”優谷梨樹の耳には届いている。それを前持って知っておいて」
つらつらと曹沙が現状を述べる。
「東拓の拠点は北、北西、西の砦の3つ。拠点を一つ得るための条件は派閥の人員が50人になった時。すなわち簡単な計算、今の東拓派閥は150人以上が所属している。一つの派閥が対抗しようとしても、まともに太刀打ちできないわ」
だから、と曹沙は3階の休憩スペースに自然と集まった面々を見渡す。
「だから、ここにいる全員で東拓と対抗する。150人もの数を相手にしようと言う話だけど、ここにいる私と紹美の派閥を合わせて最低でも100人は確保できてる。後はあなた達の協力次第」
「なあ」
話の途中で苑珠が割り込んだ。
「お前、東拓の仲間になったんじゃねーの?」
「あの放送でそう見えた?」
「見えねーけど、ただ———お前が俺ら全員をハメようとしてる可能性は考えねーとだろ」
「確かにな」
苑珠の言葉に、隣に座る竜崎雹が同意した。
「お前は東拓の仲間になった。真偽定まらないとは言え、事実あんな放送で大々的に打ち出したんだ。だったらお前が東拓と結託して、俺ら反対派をまとめて潰そうとしてるかも知れない」
「信用してはくれないのかしら」
「して欲しいなら証明が必要だろう。俺らは規模は小さくとも、人をまとめる派閥の長だ。感情論だけで大事な仲間を動かせない」
竜崎の言葉に他のみんなは各々頷いたり、同意する表情を見せた。みんな考えは違ったが、大事な仲間と言う言葉には同意を示す。
曹沙は考えてから、二本指を立てた。
「じゃあ二つほど。一つ、私はこの作戦で指揮を執らないことにするわ。この連合をまとめるリーダーは……紹美が適任かしら」
「はあ?」
「勝手に決めるな」
苑珠と琥珀が不満の声を上げた。琥珀の隣では秋結が静かに頷いていた。
「けど紹美以外にいるかしら。それともう一つ……」
曹沙は腰のポケットから小さなナイフを取り出した。そしておもむろに自分の髪を切ったのだ。パサッと綺麗な黒髪が床に落ちる。
「これが私の首の代わり。私が、東拓に加担していない証明」
短くなった髪をゆっくりと振ってから、曹沙はその美しい顔を皆に見せる。
思い切った行動に場は静まり返る。
そんな中で、苑珠は容赦なく口を開く。
「……つまり、もしも本当は東拓と組んでいて、俺らをハメてたとしたら、今度は本物の首を切り落としてくれるって約束でいいか?」
「ええ、約束するわ。その代わり、紹美をこの連合のリーダーとする。そして作戦の指揮は執らないけど、作戦を考える仕事はさせて欲しい———私は東拓を降ろし、今あるこの混沌とした学園を変えたい。ただそれだけ」
コト、と静まり返った場に、曹沙がテーブルの上にナイフを置く音だけが響いた。
外から話を聞いていた猿荻は内心舌を巻いた。
(操神曹沙。人心を操る事に長けている。事実、今のパフォーマンスでほとんどの派閥の長達は連合を組んで東拓と対抗する意思を固めつつある)
同時に、今日仲間にさせてもらった苑珠に対しても感心の念を抱いていた。数時間程度の付き合いだが今の問答で苑珠の凄さがわかった。
なぜ橋渡達四人衆が苑珠に付いていくのか、その理由も。
(度胸がある。誰もが踏み込めないような事を、歯に衣着せぬ物言いでズバズバ切り込んでいる。一切表情を動かさず答えを返す操神曹沙も凄いが、苑珠の方もこの場において目立つポジションに自分を置いた。この連合……苑珠にとって得がある)
猿荻の分析の間にも話は進んでいた。
リーダーとなった紹美がみんなの前に立ち、意思をまとめようとする。
「では、改めて整理しよう。数においてはここにいる全員が力を合わせれば150という大きな力を持つ東拓に対抗できる。しかし次に問題となるのが質だ」
「個々の実力的に対抗できるのか、と言うことね」
サッと曹沙がフォローを入れる。
「その通り。そこで皆々方の“称号列挙”をお教えいただきたい」
「たいとる?」
転入生の龍布がキョトンとして首を傾げる。そもそも彼女は東拓を倒そうと言う気持ちはあっても、連合を組む気持ちにはなれていない。
だから疎外感があった。
「タイトルってなんのこと?」
「そうか、天宮は知らないのか。では説明しよう」
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学園の生徒達には必ず“称号列挙”、すなわちタイトルが与えられる。
例えばこの場にいる楠美秋結なら“軍師”、出雲神羽や荒益春日ならば“将軍”と言ったように。
タイトルの種類は7つ。
力が強い者に与えられる“武官”。
頭がいい者に与えられる“文官”。
より力がある者として武官の上位、“将軍”。
より頭がいい者として文官の上位、“軍師”。
人をまとめ上げて先導するカリスマの“王将”
あらゆる可能性を秘めた“原石”。
「ここにいる私と曹沙は“王将”のタイトルを持っているわ」
「原石って言うのは?」
「将軍、軍師、王将など上位のタイトルに成る可能性がある者に与えられるの」
「成るって、タイトルは変化するの?」
「ええ。武官から将軍へ、文官から軍師へとランクアップする例が多々ある。ただ何をキッカケにして進化するのかはわからない。原石もいつ開花するのか誰にもわからないわ」
「へー。でも今挙げたのは6つよね。あと1つは?」
龍布の質問に紹美は答える。
「最後の一つは———“天威”」
「てんい?」
「簡単に言えば、王将の上位ランクって位置付け。ただ……」
紹美の言葉を曹沙が引き継ぐ。
「なかなかこのタイトルを得る者は出てこないの。その証拠に、私たちの代には誰一人いないわ」
「いないのに、なんでそんなタイトルが存在してるの?」
「かつてこの学園にいた者には付与されていたから。ただし、それは一世代に一人って割合」
「一人……」
「その珍しさに加えて、もう一つ特徴がある」
今度は曹沙の言葉を紹美が受け継ぐ。
「“天威”には特殊能力がある」
「なにそれ」
「例えば空を自由に飛べたり、好きな場所へ瞬間移動できたりと、異能の力が発現する。何が発現するのかは誰にもわからない。そもそも前例が少なすぎるから」
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「———と、説明はこれくらいでいいだろう」
「細かい部分はあなたの側にいる椿に聞きなさい。一緒にいるんでしょ?」
「え? そうなの?」
曹沙の言葉に反応したのは、卓川獏。小柄な女の子だ。
彼女は曹沙と紹美の共通の友である。昔馴染みでもあり、笠宮椿も実は昔からの知り合いである。
だから卓川は椿が引っ付いていると言う転入生・龍布に興味が出た。
「へー、椿がね。曹沙や紹美には靡かなかったのに」
「う、うるさいわね。ウマが合わないのよ」
「……アイツは、その、気難しいから」
卓川の茶化した指摘に二人はつまらなそうに口を尖らせた。
紹美はそれを隠すように、ぱんぱんと手を叩いて仕切り直す。
「こほん。では、各々のタイトルを教えてもらいたい。ちなみに東拓側にいるタイトルを列挙すると……」
東拓葉緒が“王将”。
軍師が二人に、将軍が五人。ただし武官や文官のような下位ランクのタイトルでも、かなりの実力者が揃っている。
ゆめゆめ油断はしないように、と曹沙は釘を刺した。
「東拓は、侮れないわ」
「随分知っている風だな」
苑珠が茶化すように言った。
その言葉に、曹沙は自分の首に手を置いた。
「———ええ、泥を呑んだのは無駄ではないわ」
「……………」
「同時に東拓の本拠地の形なんかも頭の中に入れて来た」
「……お前が東拓に協力してないって事は、逆に言えば東拓に取り入って情報を集めてたって事になる。けどよ、本当にあんな風にする必要あったか?」
「と、言うと?」
「ハッキリ言って回りくどく見えた。騙し討ちとか、裏切りとか、こすズルいことばかり考えてるんだろ。どうせ」
「苑珠」
割り込んで言葉を止めさせたのは、紹美だった。
彼女は苑珠を睨む。
苑珠も睨み返す。
またしてもバチバチと火花が散った。
「なんだよ、紹美」
「言い過ぎだ。曹沙の努力をなんだと思っている」
「無駄な努力、とは言わねーけど、的外れな努力だとは思ってる。野球が上手くなりたいのに本ばっか読んで体を動かさない、みたいな」
「貴様……!」
初めて紹美が怒ろうとした。しかしそんな彼女の握り拳に手を置いて、曹沙が即座に止めた。
「いいのよ紹美。別に間違った意見ではないわ……けどね」
どれだけ言われようとも表情一つ変えない曹沙は、静かに苑珠に視線を送る。真っ直ぐに。
「言われっぱなしは癪に障るわ。アンタも東拓討伐に参加するなら、それなりの貢献はして欲しいわね。さっきの偉そうな言葉の代償として」
「………」
「もしかして反対意見を考えてる? けどあなた、もうすでに東拓とバチバチにやり合っているのでしょう? だったらこの連合軍は、あなたにとって必要なのではないかしら。集団の中にいれば身を守れる」
「チッ」
苑珠は舌打ちするとそれ以上何も言わなかった。曹沙の言い分を理解して、納得したからだ。
苑珠が退いたのを見て、紹美はため息を吐きつつ話を進める。
「さて、それではタイトルに関してだけど。転入生の天宮に関しては、近々行われる称号列挙の儀式を見て、判断するとしましょう」
「儀式?」
「毎年5月1日に行われる行事よ。全校生徒がそれを受けて、そしてタイトルを得る。一年目に受けた者も、また行事の日が来たら改めて行うわ」
「5月1日、もうすぐね」
「ええ。だからあなたにはその日にキチンと儀式を受けて結果を教えて欲しいわ」
「……………」
「ん? どうしたの?」
質問に答えていた紹美は、突然黙った龍布に首を傾げる。
「私が、この連合に加わってもいいの?」
「そんなこと? いいに決まってるでしょ。あなたが中庭でした張篭遼と、そこにいる煤孫琥珀との“力比べ”で実力はわかってる。あなたの力も必要だわ」
「……………まあ、わかった」
まだ何か言おうとしていたが言葉が思いつかず龍布は口を閉じて、頷いた。
彼女はこの連合に参加するべきか否かを考えていた。しかし東拓という目的が一緒なのも確か。ならばこの連合に加われば東拓に近づく可能性が高まる。
(絶対にあの“りょふ”について聞かないといけないから……)
龍布はもう一人の、自分とよく似た姿の“りょふ”の事を思い浮かべた。
そして称号列挙の儀式と言うのにも出ることを決意する。
「では改めて、教えてもらいましょうか。あなた達のタイトルを」
この場に集まった者達に一人ずつ紹美は聞いて言った。ここにはいないが自分の派閥にいる仲間で、将軍と軍師がいるかどうかも尋ねた。
結果はこうだ。
操神曹沙王将。派閥には将軍7人、軍師5人、原石が2人。
円月紹美王将。派閥には将軍4人、軍師6人、原石が3人。
煤孫若鬼将軍。派閥には琥珀を含めて将軍が6人、秋結を含めて軍師が2人。
馬渕冬夜将軍。派閥には軍師が1人。加えてこの場にはいないが同盟相手には将軍が1人いる。
尊馬珊瑚将軍。派閥にはすぐ隣にいる東雲紫龍が将軍である。
芦馬丹錦将軍。派閥には将軍が1人。
竜崎雹軍師。
そして龍布はまだわからないが一緒にいる笠宮椿が軍師。
それから———
「苑珠と、玄岩隆美。二人とも武官か」
ここに並ぶ派閥の長には将軍か軍師が何人かいたが、武官や文官がほとんど。
そして苑珠と玄岩もその内の二人。二人とも武官だった。
ただし玄岩には出雲神羽と荒益春日という将軍がいる。
「う……や、やっぱり私、ここに居ちゃいけないんじゃ……」
竜崎に誘われてこの中に入ったものの、話の最中ずっと不安そうにキョロキョロしたり、神羽や春日の腕を掴んでいた玄岩。タイトルの発表も仲間二人の後だったので萎縮して言いにくそうにしていた。
泣きそうな顔で背中を丸めて縮こまる。
そんな彼女の肩に腕が回された。
「なんだよお前、俺と一緒だったのかよー」
軽い感じで肩を組んだのはすぐ近くに座っていた苑珠。
だがすぐに神羽、春日の二人が立ち上がって頭に拳骨を喰らわし、苑珠は転げ落ちるように倒れてしまった。
一瞬で意識がぶっ飛んだ。
「ちょ! 苑珠⁉︎」
それを見た猿荻が飛び込んできて、苑珠の元に駆け寄った。
跪いて苑珠の体を抱え起こし、心配する猿荻の姿を見た曹沙は内心驚いていた。
(あの猿顔は……猿荻? 私が前々から目をつけてた人材。まさか苑珠の下に付くの?)
曹沙は前から猿荻のことを情報として知っていた。優秀な知恵者だとも聞いている。
それが苑珠を助け起こしている姿を目撃して、苑珠をさらに侮れない相手だと認識する。
(いつの間に……)
「みなさんご協力感謝する。これでここに集まった戦力がわかった。これならきっと東拓だって倒せるはずだ」
気絶した苑珠に目を向けていた紹美だったが、切り替えてリーダーとしてこの場をしきり、締めくくる方向へと流れを持っていく。
「そしてすでに東拓の耳にも入っている事を考えると、すぐに解散するべきだと思う。もう夜になってしまったし。なあ曹沙」
「ええ、そうね。しかし天宮龍布の扱いをどうするか。作戦を考えるにしても、現状のまま組み込むのは難しいわね」
曹沙も苑珠から意識を離して紹美の意見に頷く。
しかし問題は転入生のこと。強いことは分かっているが、作戦を考えるとなるとどう扱うべきか。
そこで卓川が手を挙げて提案する。
「だったら、5月1日の称号列挙の儀式の結果を待ってから細かな作戦を考えると言うのはどう? それまでは大まかな作戦を考えておくとして」
「ま、それが1番よね」
「わかった。獏の提案した方針で行くとしよう。東拓討伐の作戦決行は5月1日より後だ。みんなもそれでいいか?」
その場にいたほぼ全員が頷く。
頷かなかったのは目が覚めたばかりの苑珠と、琥珀に秋結、それからまだ決意が定まっていない龍布だった。
「いいか、このまま東拓をのさばらせていてはこの学園と街は暴力に晒され続ける。弱いものは強いものに食われるのみ。弱肉強食……? それは強者だけが唱えられる妄言だ、虐げられる弱者の側を知らない者の勝手な意見! なのに世界の真理はそれが全てだと奴らは言う。私はそれが許せない……強き者が弱き者に道を示せる世界、共存し、共に歩める理想の世界。この円月紹美はそれを望む」
その場にいた———少数がそれに頷いた。
頷いたのは玄岩や神羽を始めとした、紹美の言葉が本当に正しいと思えたもの達。
だが紹美の意見にほとんどの者は感覚が合わないと感じていた。何故なら弱肉強食の感覚が染み付いているから。
強い者同士の戦いを望む龍布や琥珀は頷かなかった。弱い者を使う物だと捉えている、紹美のすぐ隣に立つ曹沙は冷たい目を隠しながら、頷かなかった。
そして、東拓の横暴さと支配には嫌気がさすが、今のこの状況が嫌かと言えばそうではない苑珠も頷かない。
(…………荒れるわけだ)
紹美は内心嘆いた。
東拓とは一例でしかない。もし東拓以外が主流派になっていたとしても、今の状況と変わっただろうか。
この学園は欲望のあるものがやってくる。
学園が世界に向けて発信した、入学者を増やすための宣伝は二つ。
一つ、勉強が嫌いなら勉強しなくていい学校。
二つ、支配を学ぶ学校。
ラクしたいバカは一の文を読んでここに来る。
自分を誇示したい、誰かを支配したいと言う欲求に駆られたバカは二の文を読んでここに来る。
どちらも欲望。
どちらも暴力に通ずる目的。
この学校は狂気に満ち溢れている。
△▼△▼△▼△▼
「———苑珠」
「んぁ?」
話が終わり解散となった頃、野次馬達も散り散りに消えていき、少ししか残っていない休憩スペースにて紹美が苑珠を呼んだ。
猿荻と何か話していた苑珠は、話を止めて忌々しい姉の方に顔を向ける。
「んだよ」
「話がある。屋上に行くから、着いて来い」
「あ?」
命令されたようで気に入らなかった。だからすぐに断ろうとした。
だが紹美はスカートのポケットから便箋を取り出した。開封済みの封筒には、円月の押し印が押されていた。
苑珠と紹美の実家、円月家から送られて来た封筒だ。
「………」
「来るよね」
「……チッ」
歩き出した紹美に、苑珠は舌打ちして猿荻を先に戻らせ、一人で後を付いて行った。




