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本流より外れた、反逆者ども

 東拓からの使いを、一人になったところを狙って背後から襲って、ボコボコにして簀巻きにして東拓派の拠点に送り届けた。

 しかしその仕返しに来た東拓派の強者たちにボコボコにされた。


「イ、生ギてるかー、お前ら」


「な、なんとか」

「なんか俺ら、ずっとこんなんだなー」

「……もっと賢くならないものか」

「アホ、俺らは苑珠についていくだけだろ」


 ゴミ捨て場に捨てられた苑珠達は痛む体を起こして学園の方に向かう。

 学園に行くと体が大きく猿顔な猿荻が会いにきた。


「ええ……? まさか俺と別れた後、東拓派にケンカを売りに行ったのか……⁉︎」


「はあ? あー、えー……」


 苑珠はしばらく猿荻の顔を見つめて、そして隣にいた綱森に聞く。


「こいつ誰? お前の知り合い?」


「はあ⁉︎」


「……はあってなんだよ」


「お前が昼頃に突然仲間にしたやつだろ⁉︎ 猿荻卿!」


「あー……あー、そうだったな。そうだそうだ」


 ショックを受けて唖然としていた猿荻は、言葉をなくしていた。そんな彼の脇を通り過ぎて学園の方へと戻っていく。


「な、なんなんだあの人は……」


 残された猿荻の肩に四人衆達が同情して肩に手を置いたり、背中を優しく叩く。


「ま、ああ言う人なんだよ」

「俺らも勝手についてってるだけでさ」

「これから苦労するぞ」

「……今抜ければ苦労がなくなるぞ。それをオススメする」


「……ふふ、いいや。ああいう人こそ俺の求めてた人かもな」


 楽しそうに笑った猿荻は、振り返って四人衆に向き合う。


「改めて。俺の名前は猿荻卿、“文官”だ」


「お? 文官? 頭いいのか」

「ちょーどよかった。今ここにいる俺ら全員“武官”だからな」

「苑珠も含めてな。まあ別のところで動いてる他の仲間二人のうち一人は文官だが」

「恥ずかしながら俺らは頭を使うのが苦手だ」


「仲間になったのかどうか、あの人の様子を見ると怪しいところだが……まず、最初の仕事として新しい仲間を連れてきた」


 仲間?と四人衆はポカンとする。

 猿荻の後ろから二人の男女が現れた。黄色い洋服を着た少年と、黒いおかっぱの女の子。


「コイツらも俺が苑珠に仲間にされた現場にいた。東拓派にやられる苑珠とアンタらの様子を見ていて、そして同じく東拓に対して不信感がある者達だ」


「どーも、蜂巣麩羅(はちす ふら)って言うもんだ」


「私は黒山燕(くろやま つばめ)です。あの時の苑珠君の姿はカッコよかった。だから手助けができるならと思って」


 二人の自己紹介。

 楽土は猿荻の仕事の速さに感心した。

 木家は蜂巣の黄色い姿に首を傾げる。

 綱森は可愛い黒山燕に顔を赤くした。

 橋渡は「黒山」という苗字に引っ掛かりを覚えた。どこかで聞いたことあるような、と。


「………あ、苑珠を追いかけねーと。だがあの様子だと適当にブラつくだけかもな、それか売店でハチミツを買いに行ったか」


 橋渡は考えて、決めた。


「猿荻、アイツを追いかけてくれねーか。大丈夫、後をついて行くだけでいいから」


「わかった。それが初任務とあれば」


「ふっ、そんなんじゃねーさ。ただアイツを理解する第一歩ってやつかな」


 橋渡は苑珠のお付きを新入りの猿荻に頼んだ。猿荻は急いで苑珠の向かった方向へ走って行った。


△▼△▼△▼△▼

 苑珠は橋渡の予想通り売店にいた。ハチミツを買って満足げに店から出てくる所だった。


「苑珠! お前について行くが構わないか?」


「あ? えーと……ああ、そうそう。ザル置き場だっけ」


「猿荻。さっき確認したのにまた忘れてたのか? まあおいおい覚えてくれりゃいい」


「は? ついてくんのは勝手にしろ、だが俺が覚えることを強要するな。ソラオキ」


「猿荻」


「俺は誰かに命令されんのが嫌いなんだよ。プルコギ」


「食いもんになったな」


 ちょっとしたコントの後。苑珠は一度屋上に向かおうとしたが途中で、そう言えば雨が降ってたなと思い出して、適当に落ち着いてハチミツを舐められる場所を探し始めた。

 どこかに向かおうという意思はなかった。ただ廊下を歩く途中、周りを歩く人の流れに不自然さを感じていた。

 現在夕方、空はオレンジ。東拓の放送が昼休みで、そこから六時間ほど経っている。


「……ん?」


 と、その時。

 不自然な人の流れに少し不穏な空気を感じていた苑珠は、2階から3階に上がるまでの階段の踊り場に三人の少女達がいるのを見つけた。

 三人の内の二人は知っている。有名人だから。

 しかしその二人を引き連れて前を歩く緑色の髪をしたほんわか系の女子が誰かわからなかった。見たような気もするが、記憶にない。


「なあ、あそこの三階にあがろうとしてる奴ら」


「ん? ああ、あの3人か。最近徒党を組んでる奴らだな」


「誰かわかるか?」


 3人とも三階に上がって姿が見えなくなった。

 猿荻は答える。


「あれは玄岩(くろいわ)一派だ。出雲(いずも)神羽(かんう)荒益(あらます)春日(はるひ)。それと派閥のリーダー玄岩隆美(りゅうび)


「りゅうび?」


「ああ。にしても不思議だよなぁ、神羽と春日は一年の頃からすげー強い奴だって有名だったのに、なぜかあの緑髪の配下になったんだから」


 出雲神羽と荒益春日。

 その名前と姿は苑珠も知っていた。だが猿荻が語るようになぜあの二人が、どこぞの馬の骨ともわからない玄岩って女子に従っているのか。

 苑珠は少し気になった。


「ついてってみるか。どこに行くのか気になるしな」


 そう言って歩き出した苑珠の後ろを猿荻もついていく。

 三階に上がると、不自然な人の流れがより一層違和感を覚えるようになる。と言うよりも3階のどこかに人の流れが集中している。


 それは———はたして運命か。


 現在この学園と街を仕切っているのは主流派の東拓派閥だ。

 それは川に例えると大きな流れの強い、文字通り主流。

 しかし川の規模が大きければ大きいほど脇道に小さな溝があるとそちらに流れは向いて行き、主流から外れていく。

 すなわち東拓派の考え方に不満や不平がある者達が自然と集まる流れがいつのまにか出来ていた。東拓派の知らない間に。

 三階の休憩スペース。自動販売機があって、机のベンチが並んだ広い開けた空間。普段は主に生徒同士のコミニュケーションの場となる。

 しかし今日は平和な会話をするような空気ではなかった。苑珠は人だかりが出来ている休憩スペースに辿り着いた。


「なんだこれ」


「どうやら何かの集まりか何かがあるようだな」


 玄岩達三人も先に来ていた。

 苑珠が来たことは三人に気づかれていない。そのまま後ろに立ち、休憩スペースの中を見てみると周りの人だかりの多さと密度に相反して、その場所は閑散としていた。

 そしてベンチに座るのは物々しい雰囲気を醸し出す者達。皆、苑珠でも知っている者達であった。


「これは……あ!」


 そしてその中に、無視できない顔を見つけた。

 金髪のおぐしにタレ目ぎみの目つきと、真紅の瞳。鼻や口の形は綺麗でありパーツの配置も整っていて、神が作りたもうた天女の彫刻と言っても過言ではない美しさ。

 天界より舞い降りた金色の天使。

 彼女の名は———円月紹美(つぐみ)。苑珠の腹違いの姉である。


紹美(つぐみ)!!」


 思わず反応してしまい、体を前に出した。

 すると目の前にいた玄岩に身体が当たってしまい、突き飛ばして転かせてしまった。


「きゃっ!」


「あ、すまん」


 玄岩が小さな悲鳴をあげて前に倒れる。それに気づいてすぐに謝った。

 だが両サイドから神羽と春日に睨まれた。

 そして休憩スペースにて集まっていたそうそうたる面々にも苑珠と……玄岩の存在が気づかれる。一斉に二人の方を見て、真っ先に反応したのは。


「おお! よー苑珠! お前も来たのか!」


 煤孫若鬼。少し前に歯医者で出会ったばかりの、煤孫琥珀の兄だ。

 見れば彼の近くには琥珀と秋結、そして煤孫三兄弟と呼ばれる中の末っ子・煤孫茂仲(もなか)の姿もあった。


「オニキ、これ一体なんの集まりなんだ?」


「お前ならわかるだろう、苑珠」


「あ、竜崎(りゅうざき)のアニキ」


 次に苑珠に声をかけたのは中規模の勢力を持つ竜崎(ひょう)。それなりに苑珠とも関わりがあってお互いに好印象を持っている間柄。

 苑珠もアニキと慕っている。


「聞いたぞ? あの放送の後すぐに東拓にケンカ売りに行ったと。そのボロボロな体がなによりの証拠だ」


「売られた喧嘩を買ったまでだ」


「へっ、流石と言いたい所だが……しかしどうも力量差をわかってないようだな。こっちに来い。苑珠と———そこの玄岩もな」


 竜崎は知り合いの苑珠と共に、苑珠の前で転けたまま床に座り込んでいた玄岩に声をかけた。

 二人とも一瞬キョトンとしたが、この場の話し合いには価値があるとどちらも察して、参加することにした。

 苑珠は竜崎の隣に座り、玄岩は苑珠にほど近い空いた椅子に座った。彼女に着いていく神羽と春日も彼女の元へ。

 一方猿荻は出遅れてしまい、結果周りにいる他の見物人と同じように外から眺める形になった。


「苑珠、あなたは……」


「———よお、紹美」


 座って落ち着いたところで、改めて苑珠は姉の姿を見る。同時に姉・紹美の方も苑珠に対して真っ向から見つめ返す。

 バチバチと二人の間で火花が散る。


「もーー! 紹美! そっちに構ってる場合じゃないでしょー!」


 紹美のすぐ隣に座っていたのは、昼の放送に出ていた操神曹沙。

 東拓にキスされて唾液を呑まされ、観衆の前で下着姿を晒した、青色の美少女。

 彼女からの気兼ねのない駄々っ子のような文句に、紹美はやれやれと彼女の頭を撫でた。


「はいはい、よくがんばりました」


「うう〜、ちくしょー……絶対あの年増ババァをギャフンと言わせてやる!」


 放送では仲間になると言っていたはずだが、言葉から察するにどうも東拓に対して反抗心がある様にしか見えない。というか実際東拓に与するつもりは毛頭ないのだろう。


「ふぅー、で。紹美。今どんな奴らがここに集まってんの?」


「———いや、待って。もう一人来た」


 曹沙がこの場に集まった面々を紹美に確かめさせようとした時だった。

 さらに雑多な人混みの中から姿を表すものがいた。


「………ん? なにこれ」


 素っ頓狂な声を出してキョロキョロと周りを見ているのは、白髪の美少女。

 天宮龍布。

 状況が分かってないようで、しきりにキョロキョロしていた。


「おお〜、あのとんでもない激しい戦いを繰り広げた転入生か。よしアンタもそこに座りなさい」


「え? いや私は自動販売機に飲み物を買いに……」


「話が終わったら好きなだけ買ってあげるから!」


「いや一本でいいけど」


「いいから座る!」


 曹沙の説得|(?)に応じて龍布も訳がわからないまま大人しく座った。琥珀の近くだった。


「……どうも。さっきぶり」


「あ。雨が苦手な人」


「ぐっ! あ、あれは忘れて!」


 琥珀と龍布が何か話していたが、紹美が手を叩いて全員を静かにさせる。


「はい。では今日の昼にあった放送をみんな見たよね? 見てないって人も多分、東拓派への不満があるはず。でしょ?」


 紹美の問いにほとんどの者が頷いた。

 頷かなかったのは苑珠と龍布と琥珀。苑珠は紹美の言葉に同意したくない気持ちだったし、龍布と琥珀はまだ話していたからだ。


「そこでここに集まってるみんなをとりあえず把握しようと思うわ。みんなが集まったのは偶然ではないはず。夜も近いし手早くね」


 紹美を主導に話が進む。

 まずはここにいる面々の確認から。


 円月紹美。

 操神曹沙。

 卓川獏(たくがわ ばく)

 煤孫若鬼と琥珀、茂仲。琥珀の相棒・楠美秋結。

 馬渕冬夜とその相方林葉焚柑(はやしば ふんかん)

 芦馬丹錦(あしば にしき)と相棒の堂棺峯兎(どうかん ほうと)

 竜崎雹。

 東建恭架(とうけん きょうか)

 尊馬珊瑚(そんま さんご)と配下の東雲紫龍(しののめ しりゅう)

 塩谷留眞(るま)

 他にも橋架冒、山代流、鳥越蝶々、甲島柚子、遠位白業、信川魚砲、河内臣人、相川東、木文日子、西河催などが揃っていた。

 そして最後に来た円月苑珠、玄岩隆美と仲間の神羽と春日、それと天宮龍布。


「そうそうたる顔ぶれねぇ」


 曹沙は素直に感心した。そしてすぐさま本題に入る。

 夜が近い。


「なんの示し合わせもなくこうして私達が集まったのには意味がある。すなわち———ここにいる全員の力を合わせれば、東拓に勝てる」

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