もう一人の“りょふ”
雨音がうるさい。髪が濡れ、頬を伝り雫となって地面に落ちる。
現れた少女。
黒髪で少し背が高い。
そしてなにより、天宮龍布とそっくりな顔をしていた。
「え…………」
「………」
龍布は呆然とし、一方もう一人の“りょふ”は静かに同じ顔をした目の前の少女を見つめる。
「なんだ? 双子だったのか?」
「さあね。ただ、似た顔が二つあるってのは少し前から知ってた」
苑珠と秋結は二人の様子を見てそう感想を吐露した。ガタガタと雨に怯える琥珀もなんとか目を開けて状況を把握していた。
「ど、どう言う事……? 姉上が二人⁉︎」
「ふ」
龍布の妹玲姫も目の前の事実が信じられずに愕然とする。
一方、椿は冷静だった。なぜならもう一人の“りょふ”の事はすでに知っていたから。
「———りょふ、そこまでにしときなさい」
凛、とした声が響く。
その声に一堂ゾッとした感覚に襲われる。
全員が息を呑む中で、ゆっくりと場に足を踏み入れる者がいた。透き通ったシルクのような青い髪をした、美女であった。
「戦いの時はまだよ」
胸元や腹、肩や足なんかも恥ずかしげに曝け出して露出させた服装の美女は、その抜群のプロポーションを見せつける。
そして彼女は“りょふ”に話しかけた。それは……二人のりょふ両方に対してだった。
青の美女は黒髪のりょふの方に立つと、白髪の方の龍布を涼しい顔で見つめる。
「ふふ、私の誘い通り来たのね。凶暴なる義妹」
「……姉様」
また兄弟かよ、と苑珠は心の中で突っ込んだ。玲姫を見るとぷるぷると震えている。
一方で秋結と椿の知恵者二人は驚愕していた。
「転入生が義理姉妹⁉︎ まさか……!」
「奇妙な縁もあるものね……」
青の美女。
その背後にズラリと物々しい配下達が並んだ。話している間に向こうからやって来た者達だ。
彼らが揃うと、美女は豊満な胸を揺らして会釈をする。
「どうも、妹二人がお世話になったわね。ご存知、私の名前は東拓葉緒。そしてここに並ぶのは……」
バサッ!と両腕を広げて、雨音にも負けない声量で叫ぶ。
「この学園を支配する主人たち! 東拓主流派の仲間達だ!!」
苑珠が憎ましげな顔つきに変わる。
龍布はまだショックが抜けきれず突っ立っていて、琥珀はまだ縮こまっている。
秋結は眉をひそめ、玲姫は義姉の登場と二人の姉の存在が重なってもう頭のキャパシティを超えていた。
そして椿は、指を差して指摘する。
「ねぇ、どうしてあなたはそこにいるの?」
椿が指を差したのは、東拓の背後に並んだ中の一人。黒髪をした絶世の美少女。
青い服装の彼女を指差して椿は首を傾げる。
当人が何か答える前に、東拓が彼女の肩に手を回して艶やかな所作で優しく抱きしめた。
「あら、この子はこれから私たちの仲間となるのよ。気になる?」
「はあ、与すると」
椿は、青色の美少女の事を知っている。彼女の顔を見れば一見東拓に服従しているように見えるが、その実腹の中はドス黒いはず。
小さな軍師、笠宮椿はそれ以上口を開かなかった。それがこの場での最適解だと判断したからだ。
「そう言えばここにいるあなた達はみんな、服従の意思がないわねぇ」
目を細めて全員に目を向ける。
苑珠は舌打ちしてその視線を堂々と胸を張って、真っ向から受け止めた。
琥珀は怯えてはいるがその目はギラリと光っていた。
そして龍布は———
「あなたはどうするの? 妹」
「私は———」
龍布は、もう一人の自分の姿を横目で見る。
「……そいつは、なんなの?」
「何、と言われても。りょふだけど」
聞かれても困る、と東拓は肩をすくめた。
「なるほど」
それだけで義姉の腹の中が理解できた。龍布は変わらぬ姿勢で、東拓を見据える。睨むのではなく、ただ目を向けるだけ。
「なら私はアンタに勝って答えを手に入れる」
「フッ、ふふふ、そうね。それが一番だわ」
龍布の答えに満足した東拓は、バサッと衣服を翻して背を向ける。
「ああ、そうだ。これからすぐに街中に向けた放送があるから是非観てちょうだい」
放送……?と全員首を傾げる。
東拓は青色の美少女を抱きしめながら、ニヤリと笑う。
「東拓主流派による大事な大事なライブ放送。大丈夫、スマホからでも観れるから」
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雨に濡れた体を個室式のシャワー室で洗い流して、部屋の前にいる綱森から着替えを受け取って、誰も見えない中で服を着る。半袖Tシャツに半ズボン。
細い足で外に出てから、苑珠は集まっている四人衆の元へ行く。
シャワー室のある体育館の地下では、苑珠と同じように雨に濡れた体を洗うために、それなりの数の生徒達が集まっていた。ベンチのある部屋に入った。
「よお、始まった?」
「まだだ。だがホント、東拓ってのは何するかわからないやつだな」
木家の答えに苑珠はやれやれと肩をすくめる。
周りにいる生徒達もスマホを取り出している。
そうして程なくして……放送が始まった。




