勝利の宴
“称号列挙”の儀式が行われた学園の大講堂にて、主流派東拓派閥陥落と、東拓討伐連合軍の勝利を祝う宴が開かれていた。
「あーはっはっは!」
「勝ったぞー!」
「東拓滅亡ひゃっほー!」
笑い声が会場の外まで響く。
学園の“隅っこ”にいる落伍者生徒も誘って大々的に行われていた。彼らは今回の戦いに無関係だったが賑やかしのために誘われていた。
宴の中心は、“二人”。
「紹美様〜! やりましたね!」
「連合軍総大将円月紹美! あなたの正義が魔王を打ち破ったのです!」
「ふっ……そうね」
煽てて乾杯を誘う一般生徒たちに、少々困りながら答える。この宴の間だけでもこんな感じで何十回とお祝い言葉を送られていた。流石の紹美も疲れてきた。
「あ、そう言えば紹美さん会場に来たのついさっきですよね。宴の前に一体何をしてたんですか?」
「ん? んー、まあ東拓拠点の方で探し物をね」
グレープジュースを一口含み、一旦落ち着いて会場を見回す。
「曹沙は、あそこか」
紹美のいる大講堂の奥から見て、入り口から遠い場所に曹沙派閥の一団が集まっていた。曹沙の隣に立つ筆頭軍師幾原攸が中心にいて、仲間達から賞賛されて照れ臭そうにしていた。
「もぐもぐ……」
「曹沙さまー、こっちの料理も美味しいですよー」
「ごくん。ええ、もらうわ」
一方で曹沙はゆったりと食事を楽しんでいた。用意された色んな料理を一つずつ味わっている。
(アイツも苦労したな)
東拓の情報を体を張って探っていた。
念願叶ってやっと一息つけると言ったところか。
が、それも明日までだろう。いいやもうすでに頭の中では次に狙う勢力の事を考えているはず。そして狙われているのは……紹美だ。
「いや、もしくは」
曹沙のいる方とは逆。入り口に近い所で一団を作っている、自分の兄弟に目を向ける。
「うききー! ほらほら飲め飲めー!」
「あの、苑珠……」
「どーした猿!」
「一気飲みはその、遠慮したい」
「はあ〜? 俺のが飲めねーのかよ!」
「飲めねーよ! ハチミツ一気飲みは! 糖分で死ぬわ!」
騒がしい一団を作っているのは円月苑珠。
その周りには大勢集まっている。
東拓を降したあの時、勝利の宣言をした効果だ。
(元々が“天威”だった。それが一番美味しいところを持って行った結果、苑珠の人気は今や総大将の私を遥かに超えている)
すぐにでも東拓と同等の勢力を作れるだろう。
だがそれはしない。
(ふ……苑珠は昔から慎重だった。けれど時に、意外性の爆発を起こす事がある。誰もが予測できない事をやってのける)
今回の件もそうだ。
“天威”は降ってわいた幸運だったが、勝鬨をあげたのは苑珠が考えて行動した事。
(油断ができない相手なのは変わらず、か。いやそれよりも今は……)
紹美は苑珠を見張らせていた軍師の一人に声をかける。
「アイツが来てどれほど時間が経った?」
「会場に来てからは一時間近いですね。紹美様よりも先に来られていました」
「そうか。なら、そろそろか」
紹美はコソコソと苑珠の元まで近寄っていく。しかし声はかけない。
紹美の狙いは別にある。
「あはははは! けほっ! けほっ!」
「そろそろ疲れてきたか?」
「戦に宴と忙しかったですからね」
咳き込んだ苑珠に気づいてすぐさま橋渡と張田が声をかける。そばに寄って体を支える。
他の四人衆と陽杉も近寄ってくる。古参6人は苑珠の様子の変化に機敏だった。
「一旦外に出るか?」
どうせさっきまで騒いで笑っていたのは演技なんだろうと思っている猿荻も、心配して提案する。演技のせいで体力を使っているだろう。
ずーっとそばにいる象谷だけ、慣れずに焦っていた。
「ん……なんか、変だな。すごい眠い」
さっきまで騒いでいたのが嘘のように苑珠は目をしわしわさせて眠そうにしている。
猿荻が判断して一度会場の外に連れ出す事にした苑珠の仲間達。と、そこに声をかける者がいた。
「あ、待ってください皆さん」
声をかけたのは意外な人物、玄岩隆美だった。
彼女は苑珠派閥の仲間と交渉している。
その隙に、紹美はこっそり近づいて苑珠のポケットに数枚の紙を差し込んだ。




