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黄金の“天威”

「……まずいか」


 琥珀と、もう一人の“りょふ”の戦い。

 互いに攻めに攻め合い、ぶつかり合う行く末を見守っていた苑珠は思わず危機感をこぼす。実力は一進一退、互角。

 もしこの二人の戦いに負ける要素があるとすれば体力量の差。なら先に別の場所で戦っていた琥珀が不利だ。

 若鬼によって温存されているとは言え、小さなヒビから大きな亀裂となって砕ける。その小さなヒビと言うのがあの化け物同士の戦いだと致命傷になりうる。

 周囲の建物が戦いの余波で破壊されていく恐怖の中で、苑珠は考える。


「琥珀が押され始めている」


 どうする。

 どうやったら琥珀を助けられる。

 苑珠の思考はその目的のためだけにフル回転していた。


(オニキから頼むって言われたんだしな……だが)


 この怪物達の戦いの中で自分が一体何ができる?

 力も、足の速さも、運動神経も、強いところなんて何もない。逃げ足とちょっとパルクールができると言う程度。

 そんなもので何ができると言うのか。


(———こんな時、紹美なら)


 手札を全部確認して、全部切り捨てた結果、苑珠が頼ったのは忌々しいはずの姉の姿だった。

 だがそれに自分自身で気づいた時に後悔した。

 自分の頬を思いっきり平手打ちする。


「ダメだ、あんなやつ!」


 その平手の痛みで苑珠は紹美という選択肢を消した。頭の中から『紹美ならどうする』という思考を削ぎ落とした結果、浮かんできたのは代わりのもの。

 『俺ならどうする』。

 『苑珠ならどうする』。

 という思考。


「………紹美になくて、俺にあるもの」


 何もない、そう断じかけた思考を止める。それは長年ずっと思っていた考え方だった。つい一番初めに諦めかけてしまった。

 だが違う。

 そうだ、ずっとずっと敵わないと思っていた相手。

 そんな相手と自分には決定的な違いがあるじゃないか。



 “天威”



 神のイタズラか、悪魔の加護か。

 なぜ自分に“天威”が宿ったのかわからないが使えるなら使うべきだ。

 腕にハチミツが出てきてダラリと垂れ下がる。


「だがこんなので何が……」


 否、違う。

 そもそもその思考が違う。

 既存の回路を外せ、あらたな回路を組み込め。

 俺は今、“天威”なんだ。


(———俺にとって一番都合のいい使い方)


 目覚めた異能はそう使え。

 貰ったスキルはそう使え。

 神がわざわざくれた贈り物(ギフト)は、神を越えるつもりで行使しろ。ただし神にはなるな、人として、神の力を操れ。


 誰かからそうアドバイスされているような気がした。

 だが今は誰とも会話していない。ただ脳内で思考を繰り広げているだけだ。

 それなのに新しい思考回路が組み込まれていた。

 はたしてそれは“天威”がなせる(わざ)だったのか。


「俺に都合がいい使い方は———!」


「ッ! ヤバい!」


 橋渡の悲鳴が上がる。

 考えているうちに随分時が経っていた。

 琥珀が、りょふの戟により肩を斬られて負傷した。血が地面に斑点を作る。

 琥珀はそれをものともせずさらなる攻撃を加えようとするが、ダメージはダメージ。わずかに揺らいだ体のバランスの崩れを見逃さず、りょふが戟の持ち手部分で琥珀の頭をぶん殴った。

 頭に痛みが走り、脳が揺れ、目の前がぐらつく。


(くっ……)


 初めて、琥珀の心の中に弱気が生まれた。

 それは一瞬であり彼女自身も自覚できなかったが、確かに彼女の心には綻びが生まれた。

 心が行動を支え、行動が心を支える。心に傷ができれば当然、行動にも傷が生じる。

 この化け物同士の戦いにおいてそれは最悪の致命傷だ。

 一気にりょふの攻勢となり、琥珀は徐々に勢いが落ちていく。足がぐらついて、あわや膝がつきそうになったその時———


「天宮龍布が来たぞー!」


 苑珠の叫び声がこだまする。

 咄嗟にりょふは正門の方角、自分の背後に意識を向けてしまう。だが、そちらには何もいない。


「……ブラフ?」


 先ほどのは苑珠の嘘なのだと気づいた。りょふが顔を戻すと、苑珠四人衆が一斉に飛びかかって来ていた。


「———」


「「「「ぎゃああああああ」」」」


 一撃で四人まとめて吹き飛ばされた。

 いつぞやにも同じ光景があったが、しかし今回は意識を飛ばされない。東拓拠点で頑丈な武器と防具を揃えていたおかげだった。

 すぐさまりょふが琥珀に目を向けると、そこには誰もいなかった。忽然と彼女の姿が消えていた。


「っ、ぐおおおおお!」


 あの時は四人同時に抱えて逃げようとしていた。

 だが一人なら、琥珀一人なら引きずって逃げることができた。

 苑珠は『龍布が来た』という嘘で目を逸らさせ、さらには四人衆を陽動にして、その隙に琥珀をりょふの前から救出した。


「おい、無事か琥珀!」


「っ……う、うん」


 少しだけだが弱っていたところに助けられて、琥珀の苑珠を見る目はちょっとばかり柔らかかった。


「ぎゃあ!」


「くっ! ぐはっ!」


 だが事態は何も解決していない。

 目の前では琥珀から四人衆に狙いを変えたりょふが、蹂躙を始めていた。

 倒れている綱森や楽土を踏みつけたり、頭を蹴り飛ばしたりしている。


「まずいっ!」


「苑珠!! 下がって!!」


 苑珠が思わず身を乗り出して四人衆とりょふの方へ体を向けたその時、秋結の叫び声が聞こえた。それを聞いて咄嗟に体を後ろに倒す。

 りょふの持つ戟の切先が橋渡の頭に突き刺さる寸前———


 四人衆達の頭上を、四つの影が飛び越えた。

 そしてりょふに向かって剣や槍を突き出す。りょふはそれらを全て、戟を横にする事で防いだ。

 ギギギ、と互いに力を込めて鍔迫り合いで硬直する。


「お、お前らは!」


「『虎穴四騎』! 煤孫派閥の“将軍”たちよ!」


 北側にいる煤孫若鬼からの応援だ。

 秋結は苑珠の横を通り過ぎて、剣を構えてりょふに向かっていく。

 だがそれは四騎が吹っ飛ばされた勢いに巻き込まれて、防がれる。

 しかし虎穴四騎も、秋結もまだ戦う意思がある。何度も立ち上がって向かって行く。

 そして———


「だらあああアアアア!!」


「オニキ⁉︎」


「お兄!」


 苑珠と琥珀の叫びが重なる。

 なんと煤孫若鬼本人までもが到着していて、りょふに向かって両手に持った刀を振り下ろす。

 阿多霍子と戦っていた時の気迫のまま振り下ろされた双剣に、りょふは僅かながら怯んで膝がグラつき、倒れそうになっていた。


「あれ。でも、四騎を向かわせたって、ならなんでオニキまで……?」


「どうせ東拓側に監視と盗聴されてんでしょ。だから西拠点の竜崎と先んじて連携して、アンタらに与える情報は断片的なものにしたのよ!」


 鬼神の如き暴れっぷりを繰り広げる若鬼は周りが見えておらず、話もできない。だから代わりに虎穴四騎筆頭、松程天音が説明する。


「若鬼がここに来ることも秘密! 西拠点から竜崎よりも先に馬渕と金城コンビをここに向かわせていたことも秘密にしておいた!」


「つまり東拓の作戦、蓋をするように挟み込む作戦は……」


「そんなのより先に行動してたっての! ウチらの派閥ナメんなー!」


「まあ流石に全部をこっちに増援に来させる事は出来なかったし、きっと姿を消した阿多霍子はこちらに向かって来てるでしょうけどね」


 秋結が冷静に説明を付け加える。

 それと同時か、北門の方で騒ぎが。噂をすれば、阿多霍子の部隊が北門から入って来ているところだった。


「虎穴四騎ッ!」


「「「「はい!!」」」」


 無心で戦っていたと思っていた若鬼から命令が降る。彼は戦いながらも周りの状況が見えていた。


「お前らであれを食い止めて来い!」


「了解! 行くよ!」


 松程が四騎と煤孫派閥の仲間達を連れて、阿多霍子の部隊を迎撃しに行った。

 しかし問題が一つある。


「若鬼先輩……」


 徐々にだが若鬼が押され始めている。秋結も冷や汗を流す。

 流石はりょふと言ったところか。


「……琥珀! 動けるか!」


「ちょ、何してんのよ!」


 苑珠が肩を怪我して蹲っていた琥珀の体を起こして声をかける。というか怒鳴り声を上げる。

 すぐに秋結が止めに入った。

 だが苑珠は叫ぶのをやめない。


「アイツに対抗できんのはお前だけだ! もう一度戦えないか!」


「………っ」


 その言葉を聞いて立ちあがろうとするが、傷口から血が噴き出してよろめく。慌てて秋結が体を支えて、傷口に持っていた包帯を巻く。


「ちょっと無理しないの! 苑珠お前も余計なこと言うな!」


「くっ……!」


 琥珀が動けないなら勝てない。

 苑珠は確信していた。


(———いや……)


 そうだ。

 忘れていた。


「ぐあああ!」


「若鬼先輩! くっ!」


 ついに若鬼が足を斬られてその場で蹲る。

 咄嗟に秋結が加勢しに行こうとするが、琥珀を治療するのとで迷ってしまった。結果若鬼は斬られた部分に刃を突き立てられて、抉られる。


「があああ!」


「———っ!」


 苑珠は考えた。

 俺に都合のいい使い方はなんだ。

 そして願った。

 アイツを拘束しろと。


 瞬間、りょふの足元に黄金色のハチミツが出現して広がり、彼女の体にまとわりついた。

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