混迷さらに極まれり
各地で混乱が起きていた。
「なん……だと……⁉︎ 私だけが狙いではないと言うのか⁉︎ 魔王は参加している全ての派閥の長を始末するのが目的なのか!」
城の中にいる紹美は驚いて、背後にある鍵付きの扉を振り返る。その先にいる東拓と、軍師梨樹の存在に気を向けて。
「ウチの筆頭軍師が導き出した答えよ。正門の道が使えないのも事実でしょうね」
全体チャットに送られてきた幾原攸の意見に、曹沙は冷や汗を流しながらスマホをスカートのポケットにしまう。
「……だとすれば問題は」
曹沙は北と西に目を向ける。
一方、西側。玄岩隆美。
「竜崎さん! はやく! はやく本拠地に来てください!」
『……わかっている』
「え?」
チャットを見て青ざめた玄岩はすぐさま西拠点にいる竜崎に電話した。しかし返ってきた返事は意外なものだった。
「オニキ! そっちはどうなってる!」
『……阿多霍子の姿が、消えた』
「は……⁉︎」
苑珠も北拠点にいる若鬼へ電話をかけていた。
横にいる秋結は背後を注視して、琥珀や紫龍、苑珠派閥の仲間に指示を送って配置を変えながら警戒を始める。
「ど、どう言うことだ⁉︎」
『ずっと見張っていたが、一瞬目を離した隙に奴の姿が忽然とその場から消えたんだ。すぐに虎穴四騎をそちらに送った……! 気をつけろ! 琥珀を頼———』
ブツン!
途中で通話が切れた。
まさかと思い画面を確認すれば圏外の表記。
「……外との通信が遮断された。東拓側が電波妨害をしやがった。外と連絡は取れない!」
「確実に詰めてくるわけね……! 若鬼先輩はなんて⁉︎」
「琥珀が倒したはずの阿多霍子の姿が消えたと。今、虎穴四騎がこっちに向かっている」
全体チャットはまだ生きていた。
すぐに今の情報を送る。すると玄岩から『西拠点を守っていた桑名里香が消えたと竜崎さんから!』と言う情報が来た。
向こうも向こうで異変が起きているらしい。
「敵の主戦力である“将軍”が消えたと言うことは……!」
「こちらに向かって来ている! まずい、このまま背後から来られたら……」
「蓋をされるように挟み込まれる!」
だが事態はさらなる混沌を極め出す。
苑珠側、玄岩側の近くの建物から次々と武装した者達が一斉に出てきたのだ。
「なっ! 背後からだけじゃなくて内部からも……!」
苑珠は周囲を取り囲んでくる敵の多さに大量の冷や汗をかく。なぜなら彼らの狙いは自分も含まれているから。
玄岩側に現れた将兵は、名乗りを上げる。
「どうも宇陽整子と言います。えーっと、とりあえず神羽やら春日やらと真正面から戦うなと言う指示なので———恨まないでくださいね」
そう言って彼女の周りにいる兵士達が取り出したのは盾。そしてその後ろでは弓矢を構える兵士達。
「射ぇー!」
宇陽の号令で一斉に放たれた弓矢に神羽と春日は自分の長を守るので精一杯。
一方で苑珠側に現れたのは———
「出、た」
もう一人の、“りょふ”だった。
立派な戟を携えて建物の中から出てきた彼女は、ゆっくりと苑珠の方を見つめてくる。その冷たい目には何も写っていない。
目の先にいる苑珠さえも見ていない。
そしてグググ、と膝を曲げて力を込めると一息で飛んできて———戟の切先が苑珠に当たる前に、横合いから琥珀が飛び込んできて戟の柄の部分を蹴り飛ばした。
「———」
「———」
強者の域。
互いに何も言わない。
互いに何も示し合わさない。
ただヌルリと戦いは始まる。ドンッと激しいぶつかり合いが始まった。拳と戟、その激突は周囲の人間を吹き飛ばす。
敵味方問わず。
「………………紫龍!!」
琥珀が戦い始めたのを見て、苑珠は0.1秒考えた。考えた後に、東雲紫龍の名を呼んだ。
彼女がこちらを向いたのを確認してから、持っていた鍵を投げ渡す。
「それを紹美に持って行け! 城の周りに陣取ってる敵の背後から突っ切って行け!」
「っ……了解!」
紫龍も迷ったがすぐに頷いて走り出す。すぐ近くの建物から扉を確保してから。
「張田、新入り四人、それと象! お前らも行け! 紫龍の援護だ!」
「⁉︎ ご主君は……⁉︎」
「四人衆と俺はここで琥珀の戦いを見届ける! もし琥珀が負けた時、命懸けでアイツを食い止める!」
それを聞いても迷っていた張田だったが、陽杉に肩を叩かれた。彼も小さな刀を持って向かうつもりだった。文官なのに戦う気でいる。
そして張田は橋渡に目を向ける。すると赤アフロの彼は、歪んだ笑みを浮かべる。
「行けよ。ここは任せとけ。絶対、苑珠は守る」
「だが」
「こう言うボコられる役回りは慣れてんだよ! ほら行け!」
「……承知!」
張田が走り出して苑珠の仲間達もそれに続く。
残ったのは苑珠と苑珠四人衆。
すぐ横にいた卓川が口を開く。
「いいの? あの鍵、本当に使えるかわからないのよ?」
「わからないなら試せばいい。それに紫龍を突っ込ませればそこに道ができる。加えて突破できて城の中の紹美達と合流できれば活路も見えるだろ」
「……あなた、普段の素行に相反してかなり考えているわよね」
「そりゃハチミツを毎朝舐めてるからな」
「それ関係ある?」
「それに、これくらい出来なきゃテメェらと覇を競えねーだろ」
「ふっ」
この場面において、冷や汗をかきながらもギラつく目を向けてくる苑珠に、卓川は思わず笑ってしまった。
彼女は自分の仲間達が心配だった。拠点の街の中に伏兵が潜んだのなら、鍵を捜索している彼らも危ういのではと。
「心配か?」
「え?」
そんな心境を読んでか、苑珠は卓川に声をかける。
「心配なんだろ。だが、託せ。信頼する仲間に役目を任せろ。それが長だろ」
「……ふふっ! まさかあなたに気付かされるなんてね。あなた紹美に負けてないんじゃない?」
「チッ!」
「あ、ごめん。嫌な部分弄っちゃった?」
△▼△▼△▼△▼
緊迫した中で、扉をぶん回して道を開けて城まで来た東雲紫龍の姿に、紹美と曹沙は思わず目を丸くしてドン引きしていた。
「紹美さん! これ! 苑珠さんから預かってきた鍵です!」
「苑珠……から?」
苑珠から紫龍へ、紫龍から紹美へ鍵が手渡された。紹美は戸惑いながら鍵を受け取った。
だが紹美がそれで何かをする前に横から曹沙がひったくって、扉の鍵穴に差し込む。
「おい!」
「早くしないと! 迷ってる場合じゃない!」
鍵はピッタリと鍵穴にハマり、奥まで差し込んで回すとガチャンと音がした。
「開いた……一つ開いたわ! 苑珠が見つけた鍵は本物だったみたい!」
「そうか……」
紹美の心境は複雑で、穏やかではなくなっていた。そして誰もが気づいていなかったが、いつの間にか紹美の覇気が収まっていた。
それよりもみんな目の前のことに集中していた。紫龍の開けた道を通って苑珠の仲間達が城の中に入る。そして本隊と合流して城を守る。
もちろん紫龍も“将軍”の力を発揮して敵を薙ぎ払って行く。




