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魔王のさらなる一手

 最初に気づいたのは笠宮椿だった。

 正門の外にいた彼女と、玲姫は龍布が中に入って行ってからもずっとその場で待機していた。しかし彼女達がいるさらなる後方から大勢の足音を聞いた椿は、玲姫の腕を引っ張って近くの草むらに隠れた。

 何が起きたのかわからない玲姫は目を丸くするが、椿が指を差す。するとちょうどその時、椿が指を差した方向から大軍が迫ってきていた。


「な、なにあれ……!」


「しっ、小声で」


「一体どこの軍なの?」


「………どうやら、東拓はやはり侮れない敵であるようね」


 その大軍は椿達が隠れている草むらの前を通り過ぎて行った。

 その先頭にいた二人の人物を椿はよく知っている。片方は灰色の髪をしたツインテール、もう片方はベージュの髪色をしていた。どちらも小柄な女の子だった。


「灰色髪の方は関西優香(かんさい ゆうか)、ベージュの方は新庄文湖(しんじょう ふみこ)。関西優香は東拓派閥の“将軍”」


「つまり東拓側の増援⁉︎」


「この道は拠点と学園を繋ぐ一本道。東拓は学園の中に兵隊を伏兵として隠していたようね」


「そんな……正門から入った先には姉上が!」


「———いいえ、今論じるべきはそこではない」


「え? どう言うこと?」


 椿は龍布の事を考えていた。心配、とは違うだろうがしかし玲姫と同じように頭の中は龍布のことでいっぱい。

 だがしかし、軍師としての血が騒ぐ。

 知恵者としての勘が今まさに椿の頭の中で警鐘を鳴らす。


「あれだけの数を隠しておいて、それでも今この現状なの? 紹美に城まで攻め込まれて……」


「?」


「おかしい。何かが不自然……でも、多分これは、私じゃ答えを出せない事かも……」


 草むらの中で考える椿。

 一方で、場面が変わり正門側の大通りにて二人の化け物が戦っているのをポケーっと見守っていた曹沙派の軍師、幾原攸に移る。


(ん? あ)


 一瞬で全てを理解した。

 正門側から攻めてくる東拓軍。それが何を意味するのか、幾原攸はどんな軍師よりも早く答えを導き出した。

 だかそこからが彼女の本領。どうするか、どう対処するかを即座に考える。

 が———しかし———彼女の才知を魔王は超える。


 バッ!


 突然、関西優香と新庄文湖率いる軍隊が左右に割れたかと思うと———


 ()()()

 忽然と大きな足音を鳴らしていた軍隊が目の前から消えたのだ。

 前から見ていた幾原攸と、後ろから見ていた笠宮椿が同時に答えを出す。


「「街に潜んだ!!」」


 東拓の本拠地。東拓の仲間である彼女らにすれば庭も同然。全てを知っている。その建物の影や隙間に、軍隊ごと隠れて消えたのだ。

 勝手知ったる自分の城にて潜む伏兵。

 シーン、と静かさが訪れる。


「どうする……⁉︎」


 幾原攸はわずか0.1秒の時間の中で考えを巡らせる。

 いつどこから攻めてくるかわからない影の敵。

 すぐそこの路地裏から出てきて襲ってくるかも知れない。

 そんな恐怖と戦いながら、幾原攸はいまだ戦い続けている龍布と遼を止めようかどうか迷った。


(———いや)


 新しい考えが芽生える。

 そういえばと全体チャットを確認する。確か先ほど、曹沙が送ってきたのは鍵の話。この広い拠点のどこかにある3つの鍵が必要と言うこと。

 もしやその鍵を確保するための軍隊?


(———いや)


 新しく生えた考えを自ら刈り取る。

 回りくどすぎる。

 だったら初めから鍵を拠点の外に置いておけばいい。誰にも見つからない海の底にでも捨てればいい。


(———いや)


 刈り取ったばかりの草をもう一度拾う。

 城に鍵がかかっているのなら居城としている東拓が外に出られない。だから彼女のために鍵は見つかる場所にないといけないはず。


(———いや)


 拾った草をもう一度捨てるか迷う。

 だったら中にいる東拓が、鍵をかけた扉の向こうで確保していれば誰にも開けられず、唯一東拓のみが開錠できる。

 それが一番だ。

 ここまで0.1秒。


「ッ!」


 そこで1番の違和感にやっと気づいた。

 笠宮椿が気づいた違和感に辿り着く。


(北と西にいた数はどれだけだった⁉︎)


 攻め終えた北拠点と西拠点。

 はたしてそこにいた勢力はどれほどのものだっただろう。

 学園側に隠しておくほどの兵力が余っていた。であるなら東拓はほとんど全勢力をこの本拠地の守りに傾けているはず。

 だったら北と西が堕とされるのは———


「想定内。落とされる前提……? ならそれを利用しない東拓と梨樹じゃないはず……」


 自分ならそうすると言う根拠の薄い考え。

 だがしかし正解だと確信できた。

 その方が理にかなっているからだ。


「落とされてからこちらに増援が来る事も予想していたはず。曹沙さんと円月紹美の考えた作戦を、向こうもわかっている。ならば———」


 こちらの強みはなんだ。

 向こうの弱みはなんだ。

 軍師梨樹は自身の知恵と知謀によって、自軍の何を補強する。どうやって勝とうとする……?


「完全勝利は、全ての派閥の大敗……?」


 目障りな敵の排除。

 今、街に消えた軍隊が伏兵だとするならば……彼らが隠れている正門側の道は、通れない!


「閉じ込められた……? まさか———! やばい!!!!」


 すぐさま全体チャットに考えついた事実を送信する。

 『すでに我々は包囲されている』と。

 そして『相手の狙いはこちらの全滅。円月紹美の討伐ではない』と。

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