SNS版離間の計
攻城戦を始める前に紹美と曹沙によって参加者原因はスマホの全体チャットで、情報共有をしている。
西と北の拠点側の部隊とは共有していない。人数が多くなりすぎると通信制限により情報伝達に支障が出ると曹沙が判断した。なので城を落とした合図に発煙筒を使っていた。
北の拠点から早めに本拠地攻めへ参加しに来た卓川は、乗っていた移動用の馬車から降りて、北側の裏門から攻めている集団の中に声をかけて全体チャットのグループに入れてもらった。
「ありがとう、えっと君は確か……」
教えてくれた相手を改めて確認する。曹沙派か紹美派のどちらかの人間であることは確かである。
そして艶やかな黒髪とハッキリと存在感がある大きな目を見て、卓川は気づいた。
「あ! 曹沙の弟の……えーと」
操神曹沙には二人の弟がいる。双子で同じ顔をしている。曹沙と幼馴染の卓川は前に紹介された事を思い出す。
だが名前の方は咄嗟に思い出せず、代わりにムスッと機嫌を悪くした当事者が答える。
「ハジメ。操神一」
「あー。そうそう、ごめんね。すぐに出てこなかったや」
「別に。昴は逆側にいる」
ぶっきらぼうにハジメは東拓本拠地の方を指差した。逆側と言うのは西側門攻めの事だろう。
「双子だけど向こうがお兄さんなんだっけ。そしてどちらも“原石”のタイトル」
「……今俺は集中してんだ。もういいだろ」
卓川はどうやら彼の嫌な部分を無意識にイジっていたらしい。さらに不機嫌になってそっぽを向かれてしまった。
カッコいい系な歳下の美少年がやさぐれ気味に強がっている様子に、卓川はニマニマした。
「ふっふ〜ん? 今回の戦いでなんとか活躍してお姉ちゃんに褒めてもらいたいとか〜?」
「ふがっ⁉︎ て、テメ……恥ずかしいことをハッキリと……神経どーなってんだ! 周りに人がいんだぞ!」
「反論してないって事は図星?」
「ち、ちがっ! ちげーよバーカ! 姉上と仲良いからってちょーしに乗んな! 弱小派閥のシラガババアが!」
「言うね〜。でも、その姉上と仲良い時点で私が食えない女だってわからなかった?」
「っ! もう! いい!」
強い言葉で攻撃したつもりだったが、サラッと余裕で躱されてしまい、ハジメはもうそれ以上何も言えずに背を向ける。
弄り甲斐のあるオモチャを見つけた卓川はニヤニヤしつつ、全体チャットを開く。瞬間、彼女の顔色が変わった。
「……紹美?」
チャットに目を向けた時、ちょうど紹美がチャットを送信していた。そしてそこに書かれていたのは『窮地』の簡潔な二文字。
そのすぐ後に曹沙が説明文を送信した。
「この拠点内のどこかに鍵が3つ。それを見つけないと城の三階には行けず、さらには城攻めのために内部に突入した本隊が周りを東拓の兵士たちに囲まれて抜け出せない」
同じチャットを確認したハジメや周りの仲間達も一斉にザワつき始める。
卓川は読み上げた後、瞬時に考えを巡らせて一言で現状を表す。
「ヤバいわね」
本隊が窮地、それはわかった。なんとかしないといけない状況なのも、東拓を倒すにはこの発展して高い建物が乱立した広い拠点を隅々まで探して鍵を3つも見つけないといけないことも。
(何よりこのチャット、不自然)
チャットの宛名は紹美と曹沙だ。
しかしあの二人がこんな危うい知らせを全軍に向けて伝えるだろうか。内容はかなり重要で、危機的だとわかる。しかしだったら顔が見えないチャットではなく、しっかりと人伝で連絡をするはず。
周りからざわつく声が聞こえる。
(現に周りでも動揺が起きてる。これは士気の低下にも繋がる。あの二人がこの事態を予測せずに全体チャットに連絡を送信するだろうか)
そう思った矢先、曹沙の送信した現状の説明チャットが消された。消せるのは送った本人だけ。つまり曹沙が消したと言うことだが……、そこで卓川は確信した。
即座に顔を上げて、動揺が大きくなった周囲に向けて声を上げる。
「みんな落ち着いて! これは相手側の罠よ! これを打っているのは曹沙と紹美じゃない!」
「え?」
「恐らく、あの二人に偽装した東拓側の誰かが工作している」
ハジメを含めた全員が驚いた声を上げる。
「今、曹沙が自分のチャットを消したことで味方にさらなる動揺が走った。なぜさっきの状況説明のチャットを消したのかと。その動揺が奴らの狙い。曹沙や紹美への不信感を誘い、こちらの足並みを崩して攻める勢いを削ぐため」
「嘘だろ……」
「嘘じゃないわ。現にこれは効果的な策略よ。こちらは寄せ集めの烏合の衆、仲間同士で信頼を無くせばすぐに瓦解するわ。みんな! 全体チャットはもう見ないこと! 通知も切って!」
「だが状況はどう判断する! 情報がないんじゃどうしようも……」
「情報は足で集めるものよ、ハジメ君」
卓川は部下に拠点内への侵入を指示した。ちょうど半分になるように固まって動くように指示し、拠点内を走らせた。
さらには大声で『鍵を探せー』と叫ばせた。あの声は味方全体に伝わるだろう。
「さっきの鍵の件は嘘か真か、確かめる手段は曹沙と紹美に直に会うしかないけどそうもいかない。まだこちら側は城には辿り着けないからね」
「じゃあ、どうするんだ……」
「だから正しいものだと信じて兵を動かした。真実にしろ嘘にしろ、都合が悪けりゃ敵側からアクションがあるはず」
卓川だけチャットを解放したままだった。するとチャット内の曹沙が『もうすぐ城の三階に突入する』とコメント。
「ビンゴ。こんな事あの子がいちいち言うわけないでしょ」
卓川は笑い、すぐに全体チャットに打つ。
『鍵はある』と。
「もしあの子が東拓の前に来てたら誰にも言わずすぐに東拓の首を掻っ切ってるわよ。その方が曹沙に一番得があるからね」
△▼△▼△▼△▼
「……しくったかも」
東拓の拠点内にある密集住宅に囲まれたこじんまりとした小屋の中で、一人の少女が舌打ちをした。
東拓側の“軍師”である彼女はパソコンのそばに置いていたエナジードリンクを一気に煽る。
「ど、どうしたの蜜柑ちゃん」
小屋の入り口近くで小さく縮こまっていた女子が恐る恐る尋ねる。
蜜柑、と呼ばれたフードを目深く被った軍師は頭を掻きむしった。
「あ〜! もっと曹沙の性格を調査しとくんだったな〜! くそ、向こうは仲間を身内で固めてるからその辺で弊害が出たか〜?」
舌足らずなロリ声で悪態をつく。
その様子を見て入り口近くの女子はさらに怯えて体を震わせる。
実際見破ったのは卓川なのだが、蜜柑はそこまでわからない。
「舟さん!」
「ひゃいいい!」
舟、と呼ばれた怯えてばかりの少女はいきなり呼ばれて悲鳴をあげる。
「私の見立てだと東拓はまだ落ちないと思う! でももし東拓がやられたら、アンタはどうする?」
「ふえぇ? そ、それは、私は蜜柑ちゃんの護衛を任されていますし、それに派閥にはお兄ちゃんが……」
「そ。ならとりあえず私と一緒にいるってことでいい?」
「ほぅへ⁉︎ そ、そそ、そこまでキザな事言ってませんよぉ! そ、それに東拓様が勝つ可能性の方が高いのでしょう?」
「まあね。北と西から増援が来ても、それに対処するための策を梨樹はすでに打ってある。窮地は何をしても助からないからこそ、窮地なのよ」
ただ、窮鼠が猫を噛む可能性は十分にあるけどね、と蜜柑は付け加えた。
「さてと、なんちゃって離間の計はこれまで。次の仕事にかかるか」
軍師、角田蜜柑はパソコンのキーボードを操作した。




