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本拠地攻め 紹美側

 北と西、二方向から発煙筒が空に打ち上がった。赤い二つの光。煙を噴き上げて舞い上がる。

 それを確認した曹沙が振り返って頷く。

 紹美は瀟酒な剣を鞘から一息に抜くと、天に向かって掲げる。



「全軍!!」



 大きな号令。

 が、しかしなぜかそこで紹美の動きが止まった。何故かと思い曹沙はもう一度振り返る。

 紹美は徐々に剣を持った手を下ろして行く。


「なにして……!」


 まさかこんな場面で臆病風に吹かれたのかと不安になった。だが曹沙の予想に反して、紹美は力と意志の籠った目をしていた。

 真紅に輝く両目は、東拓派閥の本拠地の城を見据えている。


「———ここまで、長かったと思う。高坂主流派が崩れたのは去年の冬頃。私と曹沙も高坂派にいたけど、東拓の勢いは止める事ができずに……こうして東拓の横行を許す結果となってしまった。

 ずっとずっと、私は夢見て来た。いつかあの日の雪辱を果たし、東拓葉緒の専横を打ち崩す時を。

 それが今日! 叶う! 私と同じ決意を持つ仲間達によって!」


 剣が煌めく。

 大きく振りかぶり、そして城に向かって振りかざす。



「学園の総意を持って魔王・東拓を打ち滅ぼす!! 我らこそが正義だ!! いざ———出撃!!」



 大地が震える。

 空が熱を帯びる。

 紹美の号令を合図に集まった何百人もの生徒達が一斉に城に向かって走り出す。

 正門と裏門二つ、三方からの同時攻撃。裏門側には曹沙と紹美の幹部達がいて、正門側の部隊が動いたのを見ると彼らも一斉に攻め込む。


「紹美……」


 曹沙は、思わず紹美の言葉に聞き入っていた。

 本当なら彼女の言葉に対してここまで魅入る事はあってはならないと、冷静で冷徹な彼女の気持ちは思う。

 だが紹美の声には、言葉には、人を動かす力があった。


「行くぞ、曹沙」


「え?」


 この最後の戦いの大将は紹美だ。つまり紹美が負ければ攻城戦のルールに則って、本拠地攻めに参加する全ての派閥が一気に消え去る。

 そうなれば東拓の勢いは誰にも止められなくなる。

 紹美の存在がこの学園の未来を左右する生命線。

 だが彼女は剣を手に持って前に進もうとする。


「アンタは後ろにいた方が……」


「愚問だな。お前らしくもない」


 曹沙の心配をあっさりと一蹴すると、紹美は前方に指をさす。


「私は守られるだけの大将じゃない。剣を持ち、大軍を率いて攻め込む主。ならばこの円月家の威光を持ってして、かの邪智暴虐の魔王を打ち滅ぼす!」


 問答無用で進んで行く紹美。その足取りに迷いはない。


(まさか大軍を率いる事で彼女の何かが目覚めた? それとも苑珠が“天威”に目覚めた事によるストレスのせい? 人心を惹き込み従える“王”としての資質が開花した……?)


「曹沙、お前はここで待っているか?」


「———行くわよ!」


 曹沙も剣を携えて走り出す。その後ろから彼女の派閥の幹部達が追随する。


「アイツが大将だ!!」


「あの金髪を倒せば俺たちの勝ちだ!」


「東拓様の天下だ!!」


 案の定紹美を狙って東拓派の連中が襲いかかって来る。

 だが。


「———」


 一瞬だった。紹美は素早い剣技にて向かってくる6人もの相手を一度に切り伏せた。


「私の派閥の軍師達が調べた所によると、東拓派の人数は総勢約170名。今ので6人減ったわね」


「……北と西にいたはずの兵士たちを除けばもっと少ないはずよ」


 紹美の放つとてつもないプレッシャーに、不覚にも曹沙は気圧されていた。それでも彼女の後ろから意見をする。


「それに苑珠と玄岩の部隊がすぐこっちに応援に来る」


「———苑珠、か」


 その名前に反応して紹美の目がさらに鋭さを増す。

 彼女は昨日の夜からずっと思い悩んでいた。頭痛すら起きていた。

 あの苑珠が“天威”となった。

 あの苑珠が、だ。



「おおおおおおおお!!!」



 美しい顔を歪ませて、獣のように吠えるとさらに目の前にいた敵を次々と切り伏せながら前に進む。

 紹美の覇気に敵も怯えていた。

 その勢いのまま一気に城まで向かう。


「待て! ここから先は通さん!」


 紹美と曹沙の目の前に、東拓派の二人が立ち塞がった。

 一人は知っている。


「あなたは、上条栄菜。あの放送の時に東拓と一緒になって良いようにしてくれた将軍様じゃない」


 曹沙は東拓三銃士の一人、上条栄菜を見据える。

 一方でその隣、上条の隣にいるのは。


「俺の名前は黒宰鳥(くろさい ちょう)! 軍師梨樹(りじゅ)の命令により、ここでお前らを食い止める!」


「…………」


 紹美は静かにそう名乗った彼を見つめる。

 その様子に黒宰は気圧される。


(な、なんだあの雰囲気。あれが俺らの知る円月紹美なのか……⁉︎)


「ゆくぞ、裏切り者めが!」


「あー、そう言う事になるのか」


 上条が叫んだ言葉に曹沙は頭を掻く。そう言えば東拓の仲間になるとか言ったっけなー、と。ここに来るまでにすっかり忘れていた。

 一方で黒宰は突進して行く上条を止めようかどうか迷っていた。なぜなら紹美の雰囲気が異常な進化を遂げている。あれを相手取るのは2人きりでは不利だと感じた。


「黒宰鳥!」


 しかしその迷いを、あろう事か敵の紹美が解いた。大きな声で名前を呼び、指を差して挑発する。

 黒宰は彼女のプレッシャーに突き動かされるように、勝手に体が動いて紹美の方に向かって行った。

 槍を構えて突進する。


「———!」


 だが、一瞬。

 完全なる野生の本能による反射神経で突きの構えをとっていた槍を、咄嗟に縦に持ち替えてガードする。

 ガードした瞬間に紹美の後ろから飛んできた人影の放つ槍の突きがガードを掠めて、横を飛んでいく。

 ガギン!と強い衝撃が黒宰の手を震わせる。防がなかったら今の一撃でやられていた。冷や汗を流して襲撃者の姿を目視する。


一文字(いちもんじ)(ゆう)……!」


 紹美派閥最強の“将軍”。

 彼は何も言わず静かに黒宰を見つめ、槍を構え直す。


「おーい佑〜! 俺の手柄も残しておけよー!」


 さらに紹美の後ろから、もう一人の最強朝顔佐良(あさがお さりょう)が手を振っている。

 黒宰は歯噛みした。

 一方で曹沙は、上条に向かって指を差し……。


(まこと)!」


「了解!」


 背後から曹沙の頭を飛び越えて、剣を持った眼帯の男が上条の前に立つ。


「曹沙派の青田(あおた)惇か」


「よく知ってたな。だが忘れてもらって構わない。これからお前は記憶が吹っ飛ぶほどの暴威をくらうからな」


「確かに……今から死ぬ奴の名前を覚えておく必要もないか。墓を建てる義理もなし」


 二人の視線が交差し、ぶつかる。

 互いに剣を振り回して激しいぶつかり合いの応酬を繰り広げる。

 パワーだけなら僅かながら惇の方が勝っていた。だがそれ以外の技量や経験、スピードや防御力で完全に上条の方が上回っていた。

 それでも惇は顔に傷を負いながらも牙を剥いて嬉しそうに剣を振り回す。剣と剣がぶつかり、金属音を鳴らすたび、惇の骨と肉が打ち震える。


「は、ははっ! ははは!」


 惇は笑顔だった。

 一方で上条は懸念していた。このまま攻め続ければ惇を確実に仕留め切れる。だがそこまでの体力を使う必要があるのかが疑問だった。


(梨樹の“作戦”もある。私がここで消耗するのは……)


「上条! 退くぞ!」


 一文字となんとか打ち合っていた黒宰が一瞬の隙をついて、踵を返して城の方に逃げようとする。

 それを見て上条も考えを決めた。


「あいわかった!」


「おい逃げるのかよー!」


「見逃してもらえたと言うべきだ!」


 上条は腕の筋肉に力を込めて、惇のパワーを上回り、彼を吹っ飛ばした。そしてすぐに城の方へと退却する。


(ふち)!」


 それを見た曹沙はすぐさま指示を出す。

 彼女の後ろから弓を構えた女子が飛び出して、空中に飛び上がった状態のまま弓を引いて、放つ。


「ぐっ⁉︎」


 矢は真っ直ぐに飛んでいき、上条の脛の裏を射抜いた。その場に倒れ込んでしまった上条を、黒宰が抱えて城に連れて行く。


「……撤退する将に背後から射かけるなんて」


「なに? ごっこ遊びしてるんじゃないわよこっちは」


 紹美の叱責に、曹沙は動じずに言い返す。

 二人の視線が交差する。先に目を逸らしたのは紹美だった。


「苑珠の言う通りだったな、お前はどこまでもズルいやつだ。人に新しい道を示す事はできても、王道を示す気概はないようだ」


「……は?」


「王道とは歴史によって作られ、そして歴史とは先人が積み上げてきたものだ。斬新さや勢いだけでは、人の積み上げてきた経験や知識には勝てない。肝に銘じておけ、卑劣と断じられればそこで終わりだ。そこから先どれだけ苦労して努力したとしても歪な道しか作れない」


 曹沙は、言い返せなかった。なぜなら自分自身でそうだと納得してしまったから。

 紹美は将軍二人を連れて先へと進む。

 その後を憎ましげに曹沙が付いて行った。彼女の脳裏には———東拓葉緒の顔がチラついていた。


△▼△▼△▼△▼

 変だ、紹美は思わず呟いた。

 彼女の勢いは止まる事を知らずあっという間に城まで辿り着いた。そして一階の会議室兼謁見の間を制圧した。

 だが制圧した瞬間、不気味な静かさに体が震えた。


「っ! 紹美! あれ!」


 曹沙が叫んで指を差した方。

 そこは二階に上がるための階段がある。その入り口に不気味な紋様が描かれた扉が設置されていたのだ。

 鍵穴が三つある。


「な、なんだこれは⁉︎ ここに入って来た時にはなかったはず……!」


『ピピー、ガーガー……あーあー、マイテスマイテス。よろしいですかな?』


 すると謁見の間に機械音と誰かの声が聞こえてきた。涼しげな女の子の声だった。


「この声は……」


「優谷梨樹!」


『御名答。と言う事で、あなた達にはゲームをしてもらいます』


「ゲームだと……? この扉に関係してることか!」


 扉の方には曹沙と紹美の派閥の将軍達が力技で壊そうと試していた。だが壊れる気配が全くしない。

 扉には鍵穴三つ。


『その通りでございます。いやぁ、話が早くて助かります。やはり私が見込んだお二方だ』


「内容をさっさと言え!」


『んもう、雰囲気をもっと大事にしましょうよ。まったく。ん〜、ではご説明いたしましょう。そこの扉を開けるにはこの拠点に散りばめられた3つの鍵を集める必要があります』


「なんだって……」


『ヒント、なし。制限時間、なし。ただし急ぐ必要、あり』


 梨樹がそう言ったのが早いか、城の周りから騒がしい声が聞こえてきた。

 なんと城の一階を制圧した紹美達が、逆に東拓派の者達によって包囲されたのだ。


「な!」


『この包囲網を突破しつつ、拠点の中を隅々まで探して鍵を見つける。とても簡単なルールでしょう?』


「ふ、ふざけるな! こんなの……!」


『派閥の資金を使って拠点をどのように守るかはルールブックに記載はありませんので。文句なら学園側にどうぞ〜。ではでは〜』


 プツン、とそこでマイクの音が切れた。

 曹沙は急いで表の方に将軍達を向かわせつつ、残りの兵士達で紹美の周りを固める。

 外には先ほどの上条栄菜もいた。怪我したところを包帯巻いて、汗を噴き出しながらも大声で軍隊を指揮する。その姿に東拓側の士気が上がる。

 追い詰められた側の討伐隊は窮地に陥っていた。


「ど、どうすれば……」

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