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西拠点攻め 玄岩側

 5月2日、儀式の次の日に作戦は決行された。

 長い間東拓を放置していればさらに力を増して、倒すタイミングを逃す。それにその間に曹沙や紹美が攻められて戦力が削がれるとさらに勝ち目がなくなる。

 だから儀式のすぐ後に攻めるのがベストだと、紹美と曹沙が判断した。

 午前10時、紹美の一声で東拓討伐連合軍は集まり、作戦を説明された。そして決行。玄岩隆美は竜崎他8つの派閥が結集した西拠点攻めの大将となった。

 討伐隊側は玄岩がやられると負け、東拓側は城の最上階にいる桑名里香がやられると負けである。


「ふっ!」


「ぎゃああああああ!!」


 玄岩の目の前で、出雲神羽の剣を一振りで何十人もの人が吹っ飛んで行った。


「おらおらおらー!」


「うぎゃあああ! 暴走列車だー!」


 その横では荒益春日が槍を振り回して走り回り、次々と自分よりも大きな男や女を吹き飛ばして行く。


「流石は神羽と春日、これはすぐに西拠点を落とせるだろうな」


「りゅ、竜崎先輩……私何もしてないんですけど大丈夫なんですか?」


「お前は攻め側の大将だ。やられるとまずいから、動かないで守られているのが正解だ」


 怯えて震える玄岩に対して、隣に立つ竜崎は慰めるように言う。

 

「しかしあの二人は凄まじいな。神羽も春日も、恐らく校舎一つをパンチ一撃で壊せるだろうな」


「どうして校舎破壊で強さを計算してるんです……?」


 玄岩隆美。

 緑髪の彼女は周りを武装した生徒達に守られながら、ずんずんと、正面門から入って東拓領内を突き進んでいた。

 東拓拠点の内部は施設が綺麗に整頓されていて、門から入り真っ直ぐ進めば拠点の主がいる城に辿り着く。

 街並みは綺麗だ……しかし、と玄岩は眉間に皺が寄る。


「あ、あはは……奪われ、ちゃった……」


「ごめんなさい、お母さん、お父さん……」


 路地裏の影で泣いている女の子達がいた。彼女らの服装は乱れていて、明らかに襲われた後だ。玄岩達が攻め込む直前まで、非道な事が行われていたのがわかる。


「! そこの子たち……」


「待て隆美」


 玄岩は彼女らに駆け寄ろうとして、竜崎に止められた。


「先にここを落とすのが先だ。東拓を倒さなければ繰り返されるだけ。ここでお前がやられて攻め側が負ければ、もう助け出すチャンスは無いかも知れないんだぞ」


「竜崎先輩……でも! 目の前で!」


「目先のことよりも未来を考えろ!」


「っ!」


「大丈夫だ。後で我々竜崎派閥が全員助け出す。約束しよう」


「……ありがとう、ございます」


 竜崎の説得に納得して玄岩は前を向く。

 ちょうどその時、神羽と春日の猛攻の隙間を縫って、一人の剣を持った学生服の男子が玄岩に向かって突撃してきた。


「ひっ!」


「っ!」


 咄嗟に竜崎が玄岩の前に立って庇い、周りの兵士達も囲んで守ろうとする。

 だが剣が届く前に、横から金色の風が吹いた。


「どりゃあ!」


 剣の一振りで襲ってきた生徒は吹き飛ばされた。

 神羽でも、春日でもない。

 現れたのは金色の髪をした、少女。


「あなたは、芦馬一派の……」


 スッ、と敵を撃退して振り返った彼女の目は鷹のように鋭かった。

 長い髪を頭の後ろで一房に結び、ワインレッドの瞳と、黒いジャケット。


「芦馬丹錦(にしき)


 彼女は短くそう名乗って、神羽春日の戦列に加わる。

 丹錦の後ろからウサミミのような髪型をしたピンクの風が付いて行く。刀を持った彼女は丹錦の相棒、堂棺峯兎(ほうと)

 二人は神羽春日のコンビに負けず劣らずの勢いで突き進んでいく。


「これほどの強者が揃っていたか。あの丹錦も峯兎も校舎一つは確実に壊せるだろうな」


 隣から聞こえる竜崎の言葉。

 玄岩は丹錦と峯兎の戦いぶりに魅せられていた。

 そんな彼女の様子を見て頰を膨らませた神羽と春日の勢いが増した。


△▼△▼△▼△▼

 四人の強者が一気に城まで突き進み、一階の玉座があって謁見の間も兼ねている会議室を抜け、二階の大広間に辿り着いた。西拠点の大将は桑名里香、彼女がいるのは最上階の三階である。

 その一方で同時刻、別の方向から攻めていた馬渕は悔しがる。


「あー! 今玄岩一派が城の中に入って行った!」


 プラチナブロンドの綺麗な髪を振り乱しながら足踏みする。


「私が先に里香に逢いに行きたかったのにぃー!」


「相変わらずお前は桑名里香にご執心なのか」


 その横で大きな帽子を被った小柄な女の子がため息をつく。彼女の名前は金城艦水(かんすい)

 スレンダーな白髪の彼女は、馬渕のそばにいる令嬢のような上品な少女に目を向ける。


「お前もコレが大将だと苦労するな」


「ふふっ、確かにリーダーのお目目がわたくしではない方を向いているのは、心がキュッと引き締まる想いですが……ふふふ、それもまた一興」


 馬渕の軍師、名前に全部木が入る林葉焚柑(ふんかん)は扇子を広げて口元を隠し、楽しそうに可愛く笑った。


「はー、誰かに執着するのは似たもの同士ってやつね」


 艦水はやれやれと肩をすくめる。横から来た敵の攻撃を、そちらに目を向けないまま片手でいなし、撃退する。

 すると城の前でこちらを向いて立ち塞がっている二人の男女の姿が見えた。その二人に艦水は見覚えがあった。名前も知っている。


「お? あれは牛松車騎に赤木胡支。牛松の方は“将軍”だ」


「東拓の精鋭が来たか。しかしすでに城の中に入っている方を無視して、こちらを迎撃しにくるとは。何を考えている?」


 馬渕は相手の動きの意味がわからなかった。

 しかしそれは牛松も同じ。隣にいる赤木と城を交互に何度も見ている。


「お、おい赤木。なんで城に行かねーんだ⁉︎ お前がここを守っていればいいと言ったから、俺はここで馬渕一派を迎え打つが。流石に城を落とされたらマズイだろ」


「いいえ、ここで注意すべきは城に馬渕が攻め入る事。中に入った奴らは桑名に任せていれば良いのよ」


 焦る牛松に対して、灰色とピンクが頭の真ん中で半々に分かれたツートンカラーの少女、赤木は静かに説明した。

 馬渕の方にいる焚柑とよく似た、令嬢のような上品な格好をしている。


「〜〜! あー、わかった! だがコイツらぶちのめしたら城に加勢に行くからな!」


「ほー、大きく出たな」


 馬渕が剣を構える。

 牛松も前に出て、背中に携えていた巨大な斧を手に持ち、構える。

 周りにいる兵士達が静まり返る。一騎打ちの装い。

 双方近づいて行き、そして———


「はいザックゥ」


「……え?」


 牛松の背後から赤木が背中を鋭い細剣で刺した。

 理解が追いつかない牛松は赤木の方を見つめたまま、血を吹き出して倒れる。


「え?」


 一騎打ちするのだと思っていた馬渕は虚を突かれて素っ頓狂な声が出てしまう。

 赤木は血濡れた細剣を地面に置き、馬渕の前でうやうやしく跪いた。


「馬渕殿、あなたの強さは前々から存じております。この赤木胡支、馬渕殿の幕下に置いて欲しく存じます」


「……まだ東拓は消えてないけど」


「いいえ」


 赤木は親指で自分の後方を指差す。

 するとちょうどその時、ガシャーンと派手な音と共に、桑名里香が城の三階の窓から吹っ飛ばされて落ちて行った。


「もうここは落ちますので」


「り、里香ぁ!」


 桑名が吹っ飛ばされて行くのを見て急いでそれを追いかける馬渕。

 彼女の代わりに焚柑が赤木の前に立つ。扇子で口元を隠しながら問う。


「はいはい赤木さん、リーダーの代わりにわたくしがお話を聞きましょう。わたくし達の仲間になりたいのはわかりました〜、でもこちらがお受けするかどうかは別問題ですよね?」


「ええ、ですが桑名とのパイプを持っていますよ」


「あらあら、ウチのリーダーの弱いところは存じておられるようで。正直あなたを腹の中に入れたくはありませんが〜」


 焚柑は血を流して倒れている牛松を見下ろす。


「裏切るというのは知性がなければ出来ません、ならその知性に期待して、あえて毒を呑むことにしましょう……うふふふふ」


「光栄ですわ。うふふふふふ」


「うふふふふ」


「うふふふふ」


 令嬢のような格好をした二人が怪しげに微笑み合うのを、側から眺めていた艦水は「なるべく関わりたくないなー」とジト目で離れて行くのであった。

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