第9話:『神のダメ出し』
ゼンジは泥だらけの手でユイの端末を奪い取り、
何度も何度も、昨日の戦闘映像をスワイプした。
その目は、酒浸りの廃人のそれから、
獲物を品定めするプロの眼光へと変貌していた。
「……なるほどな。機体のコンセプトは変態的だ。
操縦技術も、そこらのエリート共が裸足で逃げ出すレベル」
ゼンジはそう呟くと、ユイをじろじろと眺め回した。
だが、次の瞬間、彼は冷酷に言い放った。
「だが、ダメだ。話にならねえ。パイロットがこれじゃ、
一円の予算も、一回の『いいね』も稼げねえよ」
「なっ……! ユイの腕は本物よ! 昨日の戦果を見たでしょ?」
アリスが色をなして食ってかかるが、ゼンジは鼻で笑った。
「戦場での強さなんて、画面の向こうの馬鹿どもには
伝わらねえんだよ。この娘には『物語』がない。
この眠そうなツラ、地味な作業着、愛想の欠片もない無線……」
ゼンジは空の酒瓶を地面に叩きつけた。
「いいか、大衆が求めているのは、完璧な兵器じゃない。
応援したくなる『アイコン』だ。今のこの娘は、
ただの『凄腕の無愛想なガキ』に過ぎない」
「……私は、戦えればそれでいい」
ユイが静かに反論するが、ゼンジはそれを一喝した。
「その考えが甘いんだよ! お前が戦うための燃料も、
ゲンのレンチも、全部『人気』という名の金で買うんだ。
お前のその不貞腐れた態度が、マシンの寿命を縮めてる」
ゼンジは俺に向き直り、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ゲン、機体と腕がいいのは分かった。だが、
こいつを『銀河のアイドル』にする覚悟はあるか?
じゃなきゃ、俺がプロデュースする意味がねえ」
伝説の整備士と、神の演出家。
二人の視線が、困惑するユイとアリスに突き刺さった。




