第8話:『落ちぶれた神』
翌日。俺たちは街の最下層、高架下のスラムへ向かった。
「本当にここに『神』がいるの?」
アリスが不安げに鼻を突くゴミの臭いに顔をしかめる。
「ああ。世の中に絶望してなきゃ、こんな所にはいねえ」
俺たちが辿り着いたのは、酒瓶が転がる薄暗い一角だ。
そこには、ボロ布のようなコートを羽織り、
昼間から安酒を煽っている、浮浪者同然の男がいた。
「……なんだよ。シケた面して、俺の眠りを邪魔するな」
無精髭に覆われたその男は、濁った目で俺たちを見た。
前職で飛ぶ鳥を落とす勢いだった、あの天才の面影はない。
「久しぶりだな、広報の神様。酒の味はどうだ?」
俺の問いかけに、男――ゼンジは鼻で笑った。
「最高だ。嘘まみれのキラキラした動画を作るよりな。
ゲン、お前もクビか。あの会社はもう終わりだよ」
ゼンジは、世間の「映え」の薄っぺらさに絶望していた。
どれだけ美しい映像を作っても、中身は空っぽの玩具。
それに魂を売ることに疲れ果て、ここに堕ちたのだ。
「ゼンジ、お前の力が必要だ。俺は本物の機体を見つけた。
こいつの魅力を、世界に叩きつけてやってくれ」
俺が言うと、ゼンジは空の瓶を放り投げ、力なく笑った。
「本物? そんなもん、この世界じゃ誰も見向きもしねえ。
みんなが欲しいのは、派手な花火と嘘の勇気だ……」
その時、横にいたユイが、黙ってゼンジの前に立った。
彼女は自分の端末を取り出し、昨日の戦闘記録……
一切の無駄を省いた、冷徹な撃墜映像を再生した。
ゼンジの目が、一瞬だけ鋭く細められた。
画面の中で、換装コアが飛行機と噛み合うその瞬間。
機能が完成する刹那の美しさに、彼の指が微かに震える。
「……おい、このパイロットは誰だ。
この接続の瞬間……一ミリもブレてねえ」
「私だよ、おじさん」
ユイの言葉に、ゼンジは酒の臭い息を吐き出しながら、
ゆっくりと、這い上がるように立ち上がった。




