第68話:『鼓動の余韻』
激闘の果てにボスの残骸が爆ぜ、周囲は静寂に包まれた。
密閉された機内には二人の荒い呼吸だけが重なり響く。
「……終わったんだな」俺が安堵と共にそう呟いた瞬間、
膝の上で操縦桿を握るユイの小さな肩が強く強張った。
ふと現状を把握した瞬間、俺の顔面は火が出るほど熱い。
一分一秒を争う極限状態だったとはいえ、俺はユイを、
背後から折れそうなほど強く抱きしめ続けていたのだ。
「あ、悪い……すまん! 今すぐ離す。外に出るよ」
俺は慌てて彼女を回した腕をほどきシートを出ようとした。
だがその時ユイの小さな手が俺の作業着の裾を強く掴んだ。
「……おじさん、まだ、このままでいい。このままがいい」
ユイの声は細かったが、そこには確かな拒絶の意志がある。
彼女の顔は林檎のように赤く染まり、視線を俯かせていた。
「まだ、心臓が自分でも驚くほどうるさくて。おじさんの、
温度が背中から伝わってくると、少しだけ落ち着くから」
ユイの鼓動が重なる背中を通じて俺の胸へ響いてくる。
それは戦いの興奮なのか、それとも別の熱量なのだろうか。
「……そうか。分かった。あんたが落ち着くまでいよう」
俺はもう一度、彼女を驚かせぬよう優しく肩を包み直した。
アリーナのモニターには夕闇に佇むロボットが映っている。
二万人の観客がその沈黙を勝利の余韻だと信じて見守る中、
俺たちは密閉された空間で、静かな時間を共有していた。
整備士の俺と、その上に重なる一人の少女の、特別な刻。
戦場の熱が冷めるまで、俺たちはそのままで座り続けた。




