第59話:『整備士の囮(おとり)』
「……悪いなユイ、俺の腕じゃこれが限界だ!」
俺は戦車のスロットルを回し、敵の注意を引くためだけに
火線をバラまいた。操縦は素人だが、機体の頑丈さと
火力の押し付けだけは、整備士の意地で誰にも負けない。
「ううん。おじさんが盾になってくれるだけで……十分」
ユイの機体が、重圧から解放されたように加速する。
俺が地上で派手に暴れ、敵の意識を地表へ釘付けにする。
その隙にユイは、空を塞ぐ敵機を一掃する作戦に出た。
「カナタ、俺のことはいい! ユイの射線を確保しろ!」
「了解! ゲンさんの『下手な操縦』すら予測に組み込み、
敵をユイ様の絶好の獲物(駒)へと誘導します!」
カナタの指示が冴え渡り、空の敵が次々と塵に変わる。
だが、戦況が好転したと思ったのも束の間だった。
「……待って、そんな……! 北東から新たな熱源!
侵略者の増援、さらに三十機以上がこちらへ接近中!」
カナタの悲鳴に近い報告が、絶望を再び引き寄せる。
「チッ、いくらなんでも数が多すぎるぞ……!」
倒しても、倒しても、暗雲のように敵が空を埋めていく。
俺の戦車パーツの弾薬も、装甲の限界も近かった。
地上の敵を引き寄せる俺の周囲は、もはや敵の海だ。
アリーナの二万人の観客も、この終わりの見えない
物量の暴力に、言葉を失いスクリーンを凝視している。
「……ハッ、これぞ本物の戦場ってやつか」
俺は熱を帯びるレバーを握り直し、死地で不敵に笑った。




