第56話:『走る整備士』
「カナタ、どこか一箇所でもいい、退避ルートを見つけろ!」
俺は怒鳴るように叫んだが、カナタの返答は絶望的だった。
「……ダメです、隙がありません! 敵は全方位から、
数学的に完璧な包囲網を構築しています……!」
モニターの中では、ユイが極限の回避を続けている。
カナタの超高速演算によるサポートで、辛うじて
撃墜を免れているが、機体への負荷は限界に近い。
「……このままじゃジリ貧だ。いつか弾が尽きる」
地上からは数えきれない対空砲火、空は敵機の壁。
ディフェンス・ノヴァの援軍は来ない。
「……待って。あの野郎、俺たちに言ったよな。
『戦車隊が盾になる』なんて。……ハッ、笑わせるぜ」
俺は、モニターの端に映る、格納庫に並んだ
「予備の飛行コアユニット」に目を止めた。
「……アリス、管制を頼む。ゼンジ、カメラを回せ。
この絶望を、最高の逆転劇に変えてやる!」
俺はインカムを放り出し、ドックへと走り出した。
「ゲンさん!? どこへ行くの!?」
アリスの叫びを背中に受けながら、俺は迷わず、
整備を終えたばかりの予備機へと飛び込む。
軍師が盤面を読めず、騎士が囲まれているなら、
整備士が自ら戦場へ「道」をこじ開けに行くまでだ。
俺の心臓は、逃げ出すためではなく、
一人の少女を救うための熱い鼓動を刻んでいた。




