第55話:『包囲される孤独な翼』
「……嘘でしょ、まだ増えるの!?」
アリスの悲鳴が、重苦しい空気に包まれた管制室に響いた。
モニターには、漆黒の空を埋め尽くさんとする無数の光点が、
まるで獲物を囲む餓狼のようにユイへと収束していた。
「……ユイ様、全方位に敵反応! 空域の九割が封鎖されました!
逃げ道が、どこにも、一箇所も見当たりません……!」
カナタの震える声が、絶望を決定づける。
地上からは敵戦車の対空砲火が降り注ぎ、空からは数え切れない
ほどの侵略者が、逃げ場を奪うように包囲網を狭めていく。
「ゲンおじさん、機体に……何か変な振動が伝わってくる」
ユイの息遣いが荒くなる。機体に隠されたデバイスが、
呪いのように周囲の敵を引き寄せ、狂ったように熱を放つ。
整備士の俺には分かる。このままだと、機体より先に
ユイの精神が、この圧倒的な暴力の物量に押し潰される。
アリーナを埋める二万人の観客も、異変に気づき静まり返った。
これが「演出」であってほしいという願いは、
画面越しに伝わるユイの苦しげな呼吸に、無残に砕かれる。
助けに来るはずの戦車部隊は、依然として応答も影もない。
「おのれ……ディフェンス・ノヴァ……!」
俺は拳が血を吹くほどにコントロールパネルを叩いた。
最高の機体を作り、最高の軍師を据えたはずなのに、
卑劣な「罠」の前に、ただ一人の少女が、
冷たい空の上で、たった一人で世界に切り捨てられようとしていた。
「……あ」
ユイの機体の翼が、敵の掠めた光弾で大きく火花を散らす。
絶望のカウントダウンは、止まることなく続いていた。




