第52話:『敵地の視察』
合同任務を前に、互いの信頼を深めるという名目で、
サオトメ技研とディフェンス・ノヴァの相互見学が決まった。
「他社の施設を見るのも、技術者として勉強になるわね」
アリスが前向きに提案し、俺たち一行は相手の基地へ向かった。
ディフェンス・ノヴァの拠点は、質実剛健な軍事要塞だった。
並んでいるのは最新鋭の重戦車と、統制された整備兵たち。
「……フン。金のかけ方が違うな。工作機械の精度も、
うちのガレージ上がりとは比べものにならねえ」
俺は並ぶ重機を眺め、純粋な設備投資の差に舌を巻いた。
案内役の幹部は、自信満々にドックの深部まで見せて回る。
「我が社の戦車は、どんな過酷な戦場でも盾となります。
貴社のユイ様は、安心して空の露払いをお願いしたい」
その言葉に嘘はないように聞こえるが、俺はどこか、
あまりに整いすぎた「完璧な歓迎」に微かな違和感を覚えた。
「……ゲンおじさん。ここ、空気が重くて、落ち着かない」
ユイが俺の袖を掴み、小声で不安を口にする。
一方、新入りのカナタは、配置された戦車の「影」を、
まるで盤上の駒を数えるような冷徹な目で見つめていた。
「……面白い布陣ですね。整備効率を重視しているようで、
実は外部からの『接触』に特化した導線になっている……」
カナタの独り言の内容は、俺にも理解できない深淵なものだったが、
彼女の指先が、警戒を示すように微かに震えていた。
「さて、次は貴社の素晴らしいアリーナを見せてください」
幹部がニヤリと笑い、俺たちはサオトメ技研へと戻る。
相手の懐を覗いたはずが、逆にこちらの急所を
晒しに行くような、奇妙な焦燥感が胸を掠めた。
この相互見学の裏で、奴らの「毒」を仕掛ける隙が、
着実に、そして巧妙に狙われ始めていた。




