第48話:『二分間の神話』
「……もう一回、もう一回だけチャンスをください!」
画面が暗転した瞬間、カナタは椅子から転げ落ちるようにして、
再び床に額をこすりつけた。
「今の失敗は私の確認不足です! 次は必ず、仕様の穴を埋めて、
ユイ様を勝利に導いてみせますからっ……!」
必死に食い下がる彼女を見て、俺とアリスは顔を見合わせ、
思わず苦笑いを漏らした。
「……ゲンさん、どうする?」
「決まってるだろ。あんな異次元の詰みを見せられて、
ハイそうですかと帰せるわけねえよ」
実は俺たちは、あの敵を一列に並べた瞬間に、
彼女を中核メンバーに加えることを既に心の中で決定していた。
「……カナタさん、もういいよ。次、やろう?」
ユイも、自分の動きを完璧に先読みして導くカナタの知性に、
整備士の俺たちとは違う「相棒」としての手応えを
感じ始めていた。ユイの言葉に、カナタが弾かれたように顔を上げる。
「はいっ! 全神経を、一秒に捧げますっ!」
再テスト開始。今度のカナタは、主砲の貫通制限という
『盤上のルール』を完璧に戦術に組み込んでいた。
一列に並べるのではなく、主砲の爆風が複数の敵を巻き込むよう、
絶妙な「密集陣形」へと敵を追い込んでいく。
「ユイ様、三秒後に現在の座標から左へ二メートル。
そこから斜め四十五度、右の三機をまとめて貫通!」
「……了解」
ユイの機体が、まるで見えない糸で操られているかのように、
戦場を舞う。一撃で三機、返しの射撃で二機。
一切の無駄を削ぎ落とした殺戮の効率化。
最後の一機が爆ぜた時、タイマーが指していたのは、
驚異の「一分五十八秒」だった。
これまでの単独ベストタイムを半分以下に短縮し、
しかも自機への被弾は、ついにゼロ。
「……二分を切った。……化け物だな、あんた」
俺が呆然と呟くと、カナタは「……ユイ様が最高だったからです」
と、再び鼻血を出しそうな笑顔で震えだした。
今やこの巨大な基地には何百人もの従業員がいる。
だが、俺、アリス、ゼンジ、ユイ……その中心円に、
五人目の「家族」が加わった瞬間だった。
俺たちは、戦場という盤面を完全に支配する、最高の軍師を得た。




