第45話:『土下寝の軍師』
俺は深く溜息をつき、盤上に突っ伏したままのカナタに告げた。
「……悪いが、今のあんたを見てると、とてもじゃないが、
重要なオペレーターの仕事を任せる気にはなれねえよ」
「ひ、酷いですっ……!」カナタが泣きそうな顔で顔を上げる。
「俺たちは、ユイの腕を最大限に活かせる頭脳を探してるんだ。
今のあんたみたいに、ユイを前にしてまともに会話もできず、
計算もできないようじゃ、ただの足手まといだ」
俺が背を向けて立ち去ろうとした、その瞬間だった。
「待ってくださいっ!」という叫びと共に、
カナタが楽屋の硬い床に、勢いよく頭を叩きつけた。
綺麗な衣装のまま、迷いのない完璧な「土下座」だ。
「お願いします! ユイ様の尊さを支えるためなら、
私の脳細胞を全部、演算(計算)に捧げても構いません!」
「……いや、だから。隣にユイがいて、指示が出せるのか?」
俺の冷静な指摘に、カナタはさらに体を低く沈ませた。
土下座を超え、もはや床に全身を密着させる「土下寝」。
「ユイ様と会話なんて滅相もありません!
無線越しにユイ様の声を聞くだけで、私のニューロンは、
光速を超える計算を叩き出してみせますからっ!」
床にへばりついたまま必死に訴えるその姿に、
アリスは引き、ゼンジは面白そうに動画を撮り始めた。
「……ゲンおじさん。この人、なんだかすごいね」
ユイが不思議そうに覗き込むと、カナタは床の上で、
「はぅんっ!」と悶絶しながら、さらに床にめり込もうとする。
「……アリス。こいつ、頭脳は本物だが、人間として壊れてるぞ」
「でも、ここまで必死なのも本物……なのかしら?」
俺たちは、床に張り付いた天才棋士を見下ろしながら、
この「限界オタク」を採用すべきか、真剣に悩み始めた。




