第38話:『鼓動する要塞』
落成式から数日が経ち、喧騒が少しだけ落ち着いた午後。
俺とアリスは、最新鋭の機材が並ぶ通路を歩いていた。
足元からは、巨大な空調と発電機の低い唸りが伝わる。
「……そういえば、いつの間にか人も増えたわね」
アリスが、タブレットを手に忙しく行き交うスタッフや、
自動で清掃を行うドロイドたちを眺めて、小さく呟いた。
「ああ。さすがにこの規模の施設を運用するとなると、
俺たち四人だけじゃ、掃除すら終わらねえからな」
俺は、キビキビと働く整備補助の連中を見て答えた。
二万人を収容するホールと、複雑な射出・着艦路。
これを維持するには、音響から警備、そして整備士まで、
今や数百名近い人間が、この基地を支えている。
もはや四人の町工場ではなく、一つの組織だった。
「最初は油まみれのガレージだったのに……。
今じゃ、ここが一つの『街』みたいに見えるわ」
感慨深げなアリスに、俺は少しだけ口角を上げた。
「組織がデカくなるのは、責任が増えるってことだ。
だが、おかげで俺も機体の核心部分の整備だけに、
今まで以上に全神経を注げるようになった」
周囲のスタッフが俺たちに気づき、次々と足を止めて、
「お疲れ様です、ゲン主任!」と敬意を込めて声をかける。
多くの人間の意志が、この要塞に血を通わせていた。
俺たちは、大企業の看板さえ寄せ付けない、
独自の巨大な「城」を、確かに手に入れていた。




