第32話:『無償の要塞』
新基地の着工式当日。広大な建設予定地には、
世界的な建設大手や音響メーカーのロゴが並んでいた。
アリスは、手元の最終的な契約書を見て呆然としている。
「……信じられない。ゼンジさんの予想を遥かに超えてるわ。
企業側から『頭を下げて金を払わせてくれ』だなんて」
ゼンジの読みは完璧だった。あのバズった動画の「聖地」を、
自社の技術で建てたという実績を欲しがる企業が殺到。
結果、資材から工賃まで全ての企業が「寄付」を申し出た。
俺たちが命懸けで稼いだ約十億円は、一円も減っていない。
それどころか、完成後のホールに出す巨大な看板や、
配信の命名権による広告料が、雪崩のように舞い込んでいる。
「タダで基地が建ち、さらにお金が増える……夢じゃないわよね?」
アリスの震える声に、ゼンジは当然だと言わんばかりに笑う。
「お嬢ちゃん、これが『神話』になったマシンの価値だ。
企業にしてみりゃ、ここは世界一注目される広告塔なんだよ」
俺は、運び込まれる最新鋭の工作機械の山を見ていた。
「……フン、金の問題が消えたなら、俺は遠慮しねえぞ。
精密旋盤に大型クレーン、全部最高級品を入れさせてもらった。
資材がタダなら、その分、内部の換装システムに全振りだ」
工事の爆音が鳴り響き、二万人収容のコンサートホールと、
その真ん中を貫く巨大な「本物のリボルバー」の基礎が、
凄まじい速度で組み上がっていく。
「ゲンおじさん、あんな大きいところで飛ばなきゃいけないの?」
ユイが少し不安げに、建設中の巨大な骨組みを見上げた。
「ああ。二万人の視線と期待、その全部をエネルギーにして、
お前を銀河で一番安全な場所へ射出してやるよ」
俺たちは、潤沢すぎる資金と企業の期待という重圧を背に、
かつてない「最強の遊び場」を作り上げようとしていた。




