第31話:『予算という名の壁』
サオトメ技研の事務所。ゼンジのブッ飛んだ提案に対し、
アリスが勢いよくテーブルを叩いて立ち上がった。
「ちょっと待って! 却下よ、そんなの物理的に無理!
二万人収容のコンサート会場型射出設備なんて、
十億そこらの資金じゃ、基礎工事だけで終わっちゃうわ!」
アリスが提示した見積もり用モニターには、
膨大な建築費用と維持費の試算が、赤字で並んでいた。
「ただの格納庫だって高いのに、音響設備に客席、
その真ん中をぶち抜く射出レールなんて……正気なの?」
「……フン、金が足りないか。想定内だ」
ゼンジは動じることなく、不敵にニヤリと笑った。
「アリス、お前はまだ『自分の金』で建てることしか
考えてないようだな。人気は、現物出資にだって変わる」
「現物出資……? どういう意味よ」
怪訝そうなアリスに、ゼンジは端末の画面を向けた。
そこには、今回のバズりに目をつけた建設大手や、
音響メーカーからの「スポンサー契約」の打診が、
数千件も山積みになっていた。
「こいつらは、自分たちの機材や技術が、
あの『氷の撃墜王』の基地に使われるという看板が欲しい。
つまり、資材の大半はタダで、いや、
向こうが金を払ってでも協力したがってるんだよ」
俺は腕を組み、その異様なリストを眺めた。
「……なるほどな。企業の広告塔として基地を作るのか。
だがゼンジ、それじゃ俺たちの整備環境に
企業の『余計な口出し』が入ることにならないか?」
「そこをねじ伏せるのが、アリス社長と俺の交渉術だ」
ゼンジの目は、既に次の巨大な『嘘の城』を
どうやって安く、最高に美しく建てるかに向いていた。
アリスは呆然とリストを見つめ、最後には溜息をついた。
「……わかったわ。その代わり、ゲンさんの整備スペースと
ユイの安全だけは、絶対に削らせないからね」
新しい「戦場」の建設が、金と利権を巻き込みながら、
いよいよ現実の重みを伴って動き出そうとしていた。




