第3話:『理論とスカウト』
「……そこの整備士さん。少し、いいかな」
背後から声をかけられ、俺は足を止めた。
振り返ると、そこには使い込まれた作業着を着た、
十代後半の少女が立っていた。
「うちの会社に来ない? あんたの腕が必要なの」
「……悪いが、ガキの使いに付き合う余裕はない。
今はこれからの生活を考えるので精一杯なんだ」
俺が鼻で笑って歩き出そうとすると、
背後から、一冊の古いタブレットが差し出された。
「……これを見て。あんたなら、理解できるはずよ」
画面に表示されていたのは、複雑な構造図だった。
俺は一瞥するだけのつもりだったが、
指が止まり、思わず画面をスクロールしていた。
「……これは、コックピット換装システム(コア・プラグイン)か?」
「そう。一人のパイロットが、あらゆる兵器を運用する。
戦車、戦闘機、ロボ。換装によって戦域を支配するの」
それは、俺が前職で吐き捨てていた「無駄」への、
完璧な解答だった。合体して巨大化するのではない。
戦況に合わせて「核」を移し替える極めて合理的な仕組み。
しかも、そのドッキングシークエンスの図面は、
機能美に溢れ、恐ろしく「映える」光景を予感させた。
「あんた、伝説の整備士ゲン……だよね?
宇宙船開発にいたあんたなら、これが机上の空論じゃない
ことが分かるはず。……私の名前はアリス。
このシステムで、今の腐った防衛ビジネスを壊したいの」
俺は画面を見つめたまま、しばらく沈黙した。
アリスと名乗った少女の目は、どこまでも真っ直ぐで、
嘘の入り込む隙もなかった。
何より、この図面が放つ「本物」の香りが、
俺の眠っていた整備士の魂を、激しく叩き起こしている。
「……街の外れの、サオトメ技研ってところだ。
気が向いたら、話の続きを聞きに来て」
アリスはそれだけ言うと、立ち去ろうとした。
「おい、待て。……その図面の制御系、
三番のアクチュエータの反応速度が足りないな。
俺なら、あとコンマ二秒は縮められる」
アリスは足を止め、満足そうに振り返った。
「……明日。ガレージで待ってるわ、ゲンさん」




