第2話:『俺のレンチは、嘘をつかない』
「……ああ、昨日のアレか。どいつもこいつも、
あの三馬鹿の必殺技に夢中だな。笑わせるぜ」
俺の名前はゲン。昨日まで、世界最大の防衛企業で、
あの馬鹿げたロボを弄っていた整備主任だ。
「弄っていた」のは過去形だ。今、クビになったからな。
お前、この狂った世界の仕組みを理解してるか?
ただ「正義の味方がかっこいい」なんて思ってるなら、
おめでたい頭だよ。少し俺の愚痴に付き合え。
【連盟の残酷なルール】
話は、あの「宇宙銀河連盟」のクソなルールから始まる。
あいつら、加盟してない星が侵略されようが、
虐殺されようが、一切関知しないんだ。
「未加盟の土地は、誰の物でもない」これが宇宙の常識。
つまり、敵は銀河の法律じゃ「ただの開拓者」なんだよ。
加盟条件は一つ。「自力で銀河の果ての連盟本部へ、
到達できる科学力を示すこと」。それだけだ。
宇宙船を作って自力で顔を出す。それが唯一の切符だ。
【防衛のエンターテインメント化】
政府は死ぬ気で宇宙船を開発中だ。長い年月をかけ、
ようやく七割まで完成したが、残り三割にあと数年はかかる。
その間、政府は少しでも多くの予算を宇宙船に注ぎ込みたい。
だから、侵略者を払う防衛任務を民間企業へ丸投げした。
民間企業の活動資金は、国民の税金から出る。
だが、その額を決めるのは「国民の人気投票」だ。
平和を守る強さなんて二の次。「搭乗がかっこいい」
「合体がシビれる」そんな理由で、血税が注ぎ込まれる。
【欠陥だらけの「映え」マシン】
いいか、冷静に考えろ。
なんで壁から滑り落ちて座る? 普通に座って待て。
なんで三機で合体する? 最初から一機で出撃しろ。
なんでパーツを無駄に変形させる? 摩耗が酷いだけだ。
必殺技を叫ぶ? 肺活量の無駄だ。あんなのは兵器じゃない。
いいねを稼ぐための「巨大な玩具」だ。
国民が熱狂すればするほど、防衛企業に金が流れる。
この「玩具」を飛ばすために、莫大な税金が消えていく。
そのせいで、肝心の宇宙船開発は常に予算不足だ。
【クビの理由】
俺はさっき、社長に直接言ってやったんだ。
「右脚のジョイントが歪んでた。あの複雑な変形のせいで、
着陸の衝撃に耐えられず脚が折れるぞ。機体はひっくり返り、
中のレオは肉片だ。無駄な機構を捨てて溶接固定しろ」
そしたら社長は言った。「君はロマンが分かってない。
変形シーンは視聴率八割だ。嫌なら会社を去れ」
技術を命のために使いたい俺と、映えを追う連中。
相容れるわけがなかったんだ。
……さて、愛用の工具箱も取り上げられた。
手ぶらで放り出されて、これからどうするか。
腹は減ったが、街中があのロボを応援する空気で、
反吐が出そうだ。
「……そこの整備士さん。少し、いいかな」
背後から声をかけられた。振り返ると、そこには
使い込まれた作業着を着た、十代後半の少女がいた。
「うちの会社に来ない?……無駄を捨てた本物のマシンを、
あんたの手で完成させてほしいの」
クビになった直後に、こんな若造にスカウトされるとはな。
だが、その目は人気を追う奴らの目じゃなかった。
俺のレンチと同じ、真っ当な技術の匂いがしたんだ。




